上 下
563 / 1,006

五百六十二話 我慢し過ぎ?

しおりを挟む
「ふぅーーーーー……」

「本当に無茶をするね」

「無茶だったか?」

「……自覚がないって言うのも凄いところだよね」

強化系のスキルを使わず、魔力すら纏わずに二体のリザードマンナイトに挑む。
それを本気で無茶と思っていない友人を凄いとは思えど、驚きはしなかったスティーム。

「それで、少しはイライラは晴れたかい?」

「そうだな……まぁ、多少は晴れたな。本当はもっと割り切って動かないとダメなんだけどな」

自分の考えを押し付けようとする者はどこにでもいる。
この世界であれば……貴族なんてその典型的な例である。

(前世であれば…………過激なヴィ〇ガンな連中とかがそれに当てはまるか)

今世でも、前世でもそういった他人の気持ちを考えられないクソったれな人間がいることは知っていた。
既に学習済みである……なのに、自身の中からモヤモヤを、イライラを消せてない。

アラッドはそんな自分をまだまだだと思うが、スティームはそう思っていなかった。

「……アラッドはさ、もうちょっと子供らしくても……いや、もう十五を越えてるんだから子供じゃないんだけど、あれだよ……歳相応の考えを持っても良いんじゃないかな」

「どういう、事だ?」

「アラッドが年齢よりも考えが大人びてるところがあるのは解ってたけど、でもさ……誰であってもイラっとする事はあるじゃん」

「それは……そう、だな」

他人から考えを押し付けられるというのは、例え十六歳の青年じゃなくてもイラついてしまう。

大人であってもイラつく者は多い。

「あのエルフやハーフエルフに対して、正直僕も一発ぐらいぶん殴ってやれば良かったと思ってるよ。あの場に居た同業者たちが僕やアラッドの立場だったら、同じことを考えてる筈だよ」

「そうか……」

「まっ、何が言いたいかというと、そこまで無理にイライラを抑えようとしなくて良いんじゃないかって話だよ。あの件に関しては、あのエルフたちが間違いなく悪いんだ」

世の中にはあぁいった連中が絶対にいる。
誰から説教を受けようとも、その考えや性格を変えることは出来ない。

そういった面倒過ぎる人間がいることはスティームも理解している。

しかし……そういった人間は世の中に絶対居るんだから仕方ないよね、と無理矢理自分を納得させる必要まではない。

「もし、また絡んでくるような事があれば、今度は全身の骨をバキバキに折っても良いんじゃないかな」

「…………ははっ。スティーム……あんまり自分でこんな事を言うのはあれだけど、お前ちょっと考え方が俺に似てきたんじゃないか」

「ふふ、そうかもしれないね。アラッドとそれなりに行動してるから、考え方が少しは移ったかもしれないね」

アラッドに似てきている。
本人からそう言われて、嫌な気は全くしなかった。

「我慢しなくても良い、か…………そうだな。今度顔を合わせたら、嫌味の一つや二つでも吐き捨ててやるか」

結局この日は木竜に関する手掛かりは得られなかったものの、非常にスッキリとした気分で期間。

素材を換金する際、冒険者ギルド内にはあのエルフたちの姿はなく、嫌味を言う機会はなかったが……二人が一旦宿に戻ってから数十分後、客が訪れてきた。

「あっ、ハリスさん」

「やぁ、二人とも。先日ぶりだね」

その客とは、Aランク冒険者にしてクラン、緑焔のクランマスターのハリス。

「まだ夕食は食べてないかい?」

「はい、まだです。これから食べようかと思っていて」

「そうか、それは良かった」

ハリスがわざわざ二人の元を訪れてきた理由は、夕食のお誘い。

勿論、代金はハリス持ち。
またハリスと楽しく食事などすれば、あのエルフたちが絡んでくるのは目に見えているが、次同じような絡み方をすれば骨をバキバキに折ると決めた。

それで構わないと思い、ハリスの後を付いて行く。

到着した店は……隠れ家的名店の個室。
そして個室に入るなり……ハリスは深く頭を下げて謝罪を始めた。

「二人とも、申し訳ない!!!!」

「「っ!!??」」

大手クランのマスターが……Aランクの冒険者が自分たちに深々と頭を下げた。

その目の前の現実を、アラッドは一先ず受け入れた。
明確な謝罪を受けるだけの理由が自分たちにはある。

部下の失敗は……上司の責任となる。
貴族社会などでは簡単に尻尾を切られることもあるが。ハリスはそのような糞みたいな態度で済ませるつもりは一ミリもない。

ただ…………ハリスが自分に深々と頭を下げる光景を見て、アラッドは再度あのエルフやハーフエルフたちに怒りが湧いてきた。

「……ハリスさん、あなたからの謝罪は受け取りました。なので、顔を上げてください」

「本当に……申し訳ない」

「もう、ハリスさんからの謝罪は受け取りました。だから、顔を上げてください」

当然、ハリスとしてはまだまだ頭を下げたりない。

しかし……謝罪されたアラッドと同様、その態度を……言葉を受け入れなければ失礼だと判断し、ゆっくりと頭を上げた。

「……とりあえず、好きなメニューを頼んでほしい」

「「ご馳走になります」」

一応この場には夕食を食べに来たため、メニューを頼まない訳にはいかない。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。 十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。 スキルによって、今後の人生が決まる。 当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。 聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。 少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。 一話辺りは約三千文字前後にしております。 更新は、毎週日曜日の十六時予定です。 『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

「守ることしかできない魔法は不要だ」と追放された結界師は幼なじみと共に最強になる~今更俺の結界が必要だと土下座したところでもう遅い~

平山和人
ファンタジー
主人公のカイトは、ラインハルト王太子率いる勇者パーティーの一員として参加していた。しかし、ラインハルトは彼の力を過小評価し、「結界魔法しか使えない欠陥品」と罵って、宮廷魔導師の資格を剥奪し、国外追放を命じる。 途方に暮れるカイトを救ったのは、同じ孤児院出身の幼馴染のフィーナだった。フィーナは「あなたが国を出るなら、私もついていきます」と決意し、カイトとともに故郷を後にする。 ところが、カイトが以前に張り巡らせていた強力な結界が解けたことで、国は大混乱に陥る。国民たちは、失われた最強の結界師であるカイトの力を必死に求めてやってくるようになる。 そんな中、弱体化したラインハルトがついにカイトの元に土下座して謝罪してくるが、カイトは申し出を断り、フィーナと共に新天地で新しい人生を切り開くことを決意する。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

処理中です...