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五百五十七話 まだ、残っている

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「お見事、良い膝蹴りだったな」

「偶々だよ。今回の戦いは、よく相手の動きが見えていたからね」

ガルシアやレオナと比べて動きが遅く、速さに眼が慣れているから……という事だけが快勝した理由ではなかった。

「そういう感覚も実力の内だ。それじゃ、さくっと解体しよう」

頭蓋骨が粉砕されたオーガの解体を始めて数分、血の匂いに誘われた三体のグレートウルフが近寄ってくる。

(三体か……同じウルフ系のモンスターだから、クロの強さをより深く感じ取れると思うんだけど……さて、どするかな)

アラッドとスティームが解体中であるため、見張りはクロとファルが行っている。

「ワフ」

「……グルル」

ファルは見張りの続き、クロが対処と役割を決め……Aランクモンスター、デルドウルフのクロが一歩前に出る。

「「「っ!!!」」」

クロとしては……まだ自分、もしくは主人や主人の友人に手を出していない個体であれば、正直手を出したくないという思いはある。

アラッドの考えている通り、グレートウルフは自分よりも目の前の巨狼の方が格上だろ解っていたが……数の有利に酔い、生き残れた未来を捨てた。

「ワフゥ~~」

「お疲れ様、クロ。ありがとな」

結果として、三体のグレートウルフを倒すのにかかった時間は一分にも満たない。

ついでにグレートウルフの解体も済ませてしまい、更に先へと進む。

「…………」

「どうした、クロ」

数時間後、急にクロが脚を止めてその場の匂いを何度も何度も嗅ぎ始めた。

「……ワゥ!!」

「モンスターの襲撃、じゃないよな。もしかして、前と同じで……不自然に匂いが消えてるのか?」

「ワゥ!!」

「アラッド、前と同じっていうのは?」

「あれだよ、クソ魔術師が死体を使ってバカなことをやらかそうとしてたって話はしただろ」

「あぁ~~、あれか。アラッドがドラゴンゾンビを一人で倒したっていう」

本人としてはあまりそこを強く評価しないでほしいところだが、事件の内容を知っている者であれば、アラッドの一番の功績はそこだと断言する。

「まぁ、それだ。その時、クソ魔術師のアジトに続く部分だけが、変に匂いとかがなくなっていたんだ」

「つまり、ここに木竜が消えた何かが残ってるっていうこと?」

「そう思いたいんだが……この辺りは、木竜が住処にしていたところから、随分と離れてるだろ。それを考えると、絶対に手掛かりがあるとは断言出来ないな」

とはいえ、不自然に匂いが消えているというのは、明らかに人為的な仕業なのは間違いない。

(何かしらのマジックアイテムを使ったか、もしくはそういったスキルがあってもおかしくはない。おかしくはないんだが、何故匂いを消したのか……普通に考えれば、追われたくない事情があるから、だよな)

冒険者が凶悪なモンスターから逃げる為に、そういったアイテム、スキルを使用するという可能性は捨てきれないが……木竜が消えたという現状から、二人の中でその線はかなり薄かった。

「もしかしなくても、木竜を殺した、もしくは消した人たちがまだサンディラの樹海に残っている、ということだよね」

「そうなるな……ったく、嫌がらせにしては手の込んだ嫌がらせだ……もう少し探索して、他に手掛かりが見つからなかったら帰ろう」

それからは速足でサンディラの樹海を探索するも、同じく不自然に匂いが消されている場所は発見出来なかった。


「こちらが買取金額になります」

「どうも」

アルティーバに帰還後、討伐して解体した素材を売却。

その後、アラッドは今回得た手掛かりになるかもしれない情報を伝える為に、緑焔のクランハウスへと向かった。

「……ハウスっていうか、屋敷と言っても問題無いレベルの建物だな」

「それだけ大きな組織ってことだね。それで……本当に行くの?」

「事が事だからな、早めに伝えておいた方が良いだろ」

アラッドは一切躊躇することなく、緑焔のクランハウスの門へと向かう。

「待て、お前。ここが緑焔のクランハウスだと、解って……」

「えぇ、勿論解っています。ただ、緑焔のクランマスターであるハリスさんにお伝えしたい事があって」

「そ、そうか……す、少し待っていてくれ」

アラッド、そしてスティームという高ランクの従魔を従える二人のパーティーがアルティーバに訪れている。

これは先日の同じCランク冒険者の誘いを断った一件もあって、その正しい外見も広まっていた。

アラッドとスティームは見た目通り青年と言えば青年であり、視る眼がない者であれば侮ってもおかしくないが……見た目に強さがモロに出ているクロやファルを目の前にして、バカな態度を取るほど愚かではない。

「待たせたな。マスターが待つ部屋へと案内しよう」

「ありがとうございます。それで……クロとファルは、どこで待機させていた方が良いですか」

「むっ、そうだな。まずはそちらの方に案内しよう」

緑焔のメンバーにも従魔を従えるテイマーがいるため、敷地内に従魔用のスペースがある。

そこにクロとファルを待機させ……二人はトップクラスのクランハウスへと足を踏み入れる。
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