上 下
526 / 1,006

五百二十五話 一応解るので

しおりを挟む
ドミトルと楽しく呑んだ翌日、アラッドとスティームの元に一人の執事が訪れた。

要件は、イスバーダンを治める領主がどうしても二人に礼を言いたいという内容だった。

「……分かりました。ただ、今はちょっと二日酔い気味なんで、昼からでも良いですか?」

「かしこまりました。それでは正午にまた迎えに来ます」

貴族と面会。
アラッドからすればやや面倒に感じる要件ではあるものの、貴族出身であるからこそこの要件には応えて上げた方が良いと解っていた。

イスバーダンの領主からすれば雷獣に人間に対して強い殺意があるとなかろうと、街周辺の森をウロチョロされていては、不安な日々が途切れることはない。
不安を抱えていた領主にとって、不安の要因である雷獣……と、更にもう一体居たらしい雷獣を同時に討伐してくれた二人はまさに英雄と言っても過言ではない。

そんな英雄に感謝の意を伝える機会を設けなければ、貴族界で後々色々と言われることになり、頭を悩ませる種となる。
そこら辺の事情を理解してるからこそ、アラッドは領主からの申し出を断らなかった。

「アラッドなら断るかと思ったけど、案外そうでもないんだね」

「領主の苦労が全て解るなんてバカなことは言わないが、それでも後から色々と言われそうってのは解かる。それに軽く話すだけだからな」

街を治める領主、貴族たちとしてはなるべく優秀な人材は囲いたいものだが、アラッドはただ化け物クラスに強いだけの冒険者ではない。

侯爵家の三男という立派な血統持ちであり、パーティーメンバーのスティームも他国とはいえ、立派な貴族の令息。
そもそもアラッドが王都の騎士団のオファーを断っていることもあり、イスバーダンの領主はアホなことなど一切考えていなかった。

結果、面会してから感謝の意を伝えられて軽くお喋りをし、それなりの個人的な報酬を貰ってから昼食を一緒に食べて終了。

その翌日……もうイスバーダンに滞在する理由がない二人は早速次の目的地へと向かう。
とはいえ、次に場所は未知の冒険地ではなく……アラッドの実家だった。

「アラッドの実家か……あれだね、凄い戦闘力が高いイメージだね」

実家からの報告で、アラッドは多数のワイバーンとアサルフワイバーンが故郷を襲撃し……フールたちが殲滅させたことを知っている。
それをスティームもアラッドから聞いたため、ちゃんと記憶に残っている。

意図的に多数のワイバーンとアサルフワイバーンが一つの街に襲い掛かるなど、基本的には悪夢といって過言ではない。
しかしフールたちは見事その悪夢を叩き潰し、被害はゼロだった。

「領主が殆どソロでAランクのドラゴンを倒してるからな……その話を聞きつけて家に仕えたいって人たちが毎年何人もいたからな」

強者が数人集まり、ドラゴンを討伐してドラゴンスレイヤーの称号を得たのとは訳が違う。

暴風竜、ボレアスと戦った騎士たちは皆断言している。
自分たちは碌にダメージを与えれていないと……ボレアスを倒したのは、間違いなくフール一人だと。

ソロでAランクのドラゴンを討伐した、正真正銘のドラゴンスレイヤー。
そんな猛者の中の猛者に仕えたいと、それなりの強さを持つ冒険者や騎士たちが多く訪れてくる。

当然、誰でも仕えることが出来る訳ではない。
現在では騎士団の人数が相当増えたため、人件費を考慮してそれなりに厳しいラインが定められた。

ソウスケが生み出した莫大な収益がある?
確かにそれがあればもっと私兵を増やすことが出来るが、フールとしてはあまりほいほいと息子のお陰で増えた財源に手を出せないでいた。

「父さんの影響か、それとも実家の影響かは知らないけど、騎士や兵士、魔法使いたちのライバル心というか向上心? が結構強いイメージはあるな」

「そういえば、アラッドが購入した奴隷たちも強いんだっけ」

「超強いぞ。十二……ぐらいだったか? を越えるまでは模擬戦で殆ど勝てなかった気がする。狂化抜きなら……ガルシアにはまだギリ……互角ぐらいか? 勝率に大きな差はないだろうな」

「そ、そうなんだ」

現在、アラッドという主人が屋敷にいないため、主人の許可を貰っていることもあり、ガルシアたちは更に高みへ上るため、遠征を行っている。

そのため冒険者になってからアラッドは更に成長しているが、だからといってガルシアとの模擬戦勝率が六割五分から七割を越える……とは限らない。

「というかさ、あんまりにも個人の戦力を増やしたらさ……バカな連中から眼を付けられるかもしれないよな」

「ん? うん、そうだね。こっちにその気がなかったとしても、変に勘ぐって絡んでくる人は居るね」

アラッドは領地の裏路地などでひもじい思いをしている子供たちを積極的に孤児院に向かえ、出来るだけ子供たちが学びたい事を学ばせている。

そんな中、やはり子供たちの多くはアラッドが模擬戦や訓練を行う姿を見て、戦闘職を目指す。
彼等がこの先成長して領地を離れて自由に冒険者として活動しようとも、忠誠心に近い心はアラッドに向けられている。

(……そこら辺の情報も、集めておくか)

あれこれ考えること数日、従魔に乗って移動していた二人はあっという間にフールが治める街に到着した。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。 十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。 スキルによって、今後の人生が決まる。 当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。 聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。 少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。 一話辺りは約三千文字前後にしております。 更新は、毎週日曜日の十六時予定です。 『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

「守ることしかできない魔法は不要だ」と追放された結界師は幼なじみと共に最強になる~今更俺の結界が必要だと土下座したところでもう遅い~

平山和人
ファンタジー
主人公のカイトは、ラインハルト王太子率いる勇者パーティーの一員として参加していた。しかし、ラインハルトは彼の力を過小評価し、「結界魔法しか使えない欠陥品」と罵って、宮廷魔導師の資格を剥奪し、国外追放を命じる。 途方に暮れるカイトを救ったのは、同じ孤児院出身の幼馴染のフィーナだった。フィーナは「あなたが国を出るなら、私もついていきます」と決意し、カイトとともに故郷を後にする。 ところが、カイトが以前に張り巡らせていた強力な結界が解けたことで、国は大混乱に陥る。国民たちは、失われた最強の結界師であるカイトの力を必死に求めてやってくるようになる。 そんな中、弱体化したラインハルトがついにカイトの元に土下座して謝罪してくるが、カイトは申し出を断り、フィーナと共に新天地で新しい人生を切り開くことを決意する。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

処理中です...