上 下
520 / 1,019

五百十九話 どんでん返し

しおりを挟む
「はぁ~~、全然気付かなかったよ」

「怪我をしてるのに痛みを感じないって時は偶にあるからな」

「……でも、今の僕が赤雷を纏ってたとしても、あの雷獣を倒せたなら当然の結果と言えば結果だよね。今更だけど、僕の拳とスティームの拳ではこう……質が違うからね」

「痛いとは思うが、スティームも部位鍛錬ってのを続ければ、自然と硬くなっていくさ」

本職の武道家ほどがっつり行ってはいないが、ある程度体術で戦うことも想定しているアラッドはシャドーだけではなく、同時に部位鍛錬も行っていた。

「それじゃ、そろそろ街に戻るか」

「そうだね……って、やっぱりギルドにちゃんと説明しないと駄目だよね」

「大丈夫だって。そんなに心配するな。同業者たちは殴り掛かってくるかもしれないが、ギルド職員が止めに入ってくるはずだ」

「…………ごめん、全然心配が消えないよ」

とはいえ、もう挑み……そして倒してしまったのは仕方ない。
スティームも腹を決めて街へと戻る。

(……雰囲気が暗いな。あの正義マン兄ちゃんたちが戻ってたなら、また雷獣の討伐に失敗したって報告が広まっててもおかしくないか)

雷獣に周囲の人間を絶滅させる程の殺意があるのかは明確に解っていないが、一度目は一組のBランク冒険者たちが敗走に追い込まれ、二度目は複数のBランク冒険者パーティー、尖ったステータスを持つCランク冒険者などが力を合わせて挑んだ結果……再び敗走。

雷獣に殺意がある云々は置いておき、この結果に冒険者ギルドだけではなく、住民の雰囲気までも暗くなっていた。

(普通なら、雷獣を倒した僕たちは凱旋する感じで祝福されるんだろうけど、ある程度どういう状況だったのか広がっていれば、罵声が飛んできてもおかしくないだろうね)

再びそういう言葉が飛んでくるであろうと覚悟し、ふんどしを締め直し……冒険者ギルドの中へと入る。

(……お通夜かよ、ってツッコみたい)

しかし、ツッコみたい気持ちをグッと堪える。
雷獣対エレムたちの戦いを途中からしか観ていなかったため、もしかしたら本当に誰か雷獣の一撃で死んでいるかもしれないため、流石にそういった内容のツッコミは控えた。

「報告したいことがあるんですけど良いですか」

「あ、はい。どうぞ」

受付嬢たちもエレムたちから報告を受け取っていたため、明らかに雰囲気が沈んでいた。

それでも、仕事をしなければという気持ちだけはあった。

「雷獣を討伐した」

「………………はっ!?」

一応侯爵家の令息であるアラッドに対して、少々無礼な反応ではあるものの……今の受付嬢にそんな事を気にする余裕は全くなかった。

「え、はっ……えっ!!!??? ど、どどどどどどういうことですかっ!!!!????」

「その言葉の通りです。俺たちが、雷獣を討伐しました」

「……え、ええええええええええええ!!!!????」

驚くなという方が無理な話である。
目の前でどんでん返し的な話をされては、誰であっても驚くなというのは無理な注文。

お通夜状態であった冒険者たちも同じく、一切驚きを隠せていなかった。

「そ、そそそそれは、本当なんです、か?」

「えぇ、本当ですよ。まっ、きっちりぶっ倒したのはスティームが良い一撃を入れたからなんですけどね」

「変に褒めないでくれよアラッド。アラッドやクロ、ファルが上手く抑えててくれたから最高の一撃を叩き込めただけだよ」

嘘を言っている様には思えない。
ギルド職員たちはそもそも彼らがこういった嘘を付くタイプではないと知っている。

「死体はちゃんとあるんで、解体場の方で見せますよ」

「あ、ありがとうございます」

死体を見るまでは、二人の言葉が本当だとは言えない。

それでも……ギルド職員たちはホッと一安心していた。
雷獣という脅威が討伐された。
今回投入した戦力で倒せなかったらどうしようという思いもあったため、アラッドたちが倒してくれたという事実に、心の底から安心した。

だが……ギルドに居る職員以外の者たちの反応は違う。
討伐隊が敗走に追い込まれてから、アラッドたちが雷獣を倒したと報告しに来るまで……それほど大した時間は経っていない。

そうなれば、当然一つの予想が頭に浮かんでしまう。

「少し、良いかな」

「……なんですか?」

討伐隊のメンバーを代表して声を掛けてきたのは当然、クソイケメン優男先輩ことエレム。

その拳は……微かに震えていた。

「君は……君たちはもしかして、僕達が雷獣と戦っているところを、観ていたのかい」

エレムたちが戻って来た時間と、アラッドたちが討伐報告をしに戻って来た時間。
その間を考えれば……自分たちが懸命に戦って弱らせ、あと一歩のところまで追い詰めた雷獣を、彼らがタイミングを見計らって戦い、倒したとしか思えない。

先日……ようやく自分は自分で、他は他と区切りを付けられた。
そして素直にアラッドの凄さを認め、受け入れた……だからこそ、その先の言葉は聞きたくない。

聞きたくないが……真実を確かめずにはいられなかった。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

おばあちゃん(28)は自由ですヨ

美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。 その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。 どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。 「おまけのババアは引っ込んでろ」 そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。 その途端、響く悲鳴。 突然、年寄りになった王子らしき人。 そして気付く。 あれ、あたし……おばあちゃんになってない!? ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!? 魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。 召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。 普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。 自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く) 元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。 外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。 ※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。 ※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要) ※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。 ※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

処理中です...