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五百十三話 喰らう何か
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SIDE ベル似のクソイケメン優男。
「ほら、今日は俺の奢りだからぶっ潰れるまで呑んで良いぞ」
「……潰れない程度に、頂きます」
夕方手前、アラッドに絡んで来たベル似のクソイケメン優男ことエレムは今回の討伐戦で一緒に参加するBランク冒険者で、先輩にあたる人物、ドミトルという名のマッチョで気の良さそうなおじさんとバーで呑んでいた。
「相変わらず堅いな~~、ったく……ぷは~~~、美味い!! マスター、同じカクテルもう一杯追加で」
「かしこまりました」
「んで、そこまで顔が暗ぇのは昼間に噂の超絶スーパールーキーと意見がぶつかったからか」
「……はい、その通りです」
アルコール度数が低いカクテル口に含む。
当然のことながら、それだけで酔う筈はないのだが……何故かいつもより苦く感じ、脳に響く。
「ドミトルさん……俺の考えは、意志は間違ってるんでしょうか」
「強大な力を持つモンスターがいる。そのモンスターが人々に被害を出す前に、自分たち全員が協力して討伐するって考えが間違っていたのかもしれない……そう思ったんだな」
「……まだ、完全に間違っているとは思っていません。少しでも早く討伐するために、少しでも犠牲を出さない様に討伐するために僕たち冒険者が力を合わせるべきです」
元も持っていた信念はそう簡単に崩れない。
だが、生意気な後輩と言い合いになり……その信念が揺れたのは事実。
「そうだな。早く見つけて、極力被害を出さない様に倒す……その考えは間違ってねぇと思うぞ」
「そ、そうですよね!!」
「落ち着け落ち着け。お前の考えは間違ってないと思うが、ぶっちゃけた話しな……それは冒険者じゃなくて、騎士に近い考えなんだ」
「えっ、ぁ……」
考え方が根本的に違う。
先輩から伝えられた言葉は耳から耳へ通り抜けることはなく、しっかり脳へ……心へ刻まれた。
「エレム、お前が物語に出てくる英雄に憧れて冒険者になったのは覚えってるよ。確かに英雄ってのは一人で戦っている訳じゃなく、多くの人々の力を借りながら強大な敵を討ち倒している……今のお前は、まさにそういう物語に出てくる様な主人公みたいだ」
「ど、どうも」
敬意を持つ先輩から「お前はしっかり目標に向かって歩めている」と言われれば、照れは不可避だった。
「お前はこれからまだまだ強くなるよ……でもな、物語ってのは基本的に都合良く出来てるんだ」
「都合良く……ですか」
自分の愛する物語が否定された気分になるも、怒りを露わにすることなく続きの言葉を待つ。
「そうだ。物語に登場してくる人物に不幸が訪れたり、主人公に瀕死寸前まで追い詰められる危機が訪れる場合もある……そういう展開が読者をハラハラさせる訳だからな」
英雄譚ならではなの展開であり、実際にエレムもこれまでの経験で味わったことがある。
「ただな、基本的に主人公を喰ってしまう登場人物ってのは、出てこないだろ」
「……………………そう、ですね」
今まで読んできた英雄譚をざっと思い返すが、主人公が主人公をしてない……そんな物語は今まで一つもなかった。
「きっとな、そういう化け物は何処かに居るんだよ。その主人公たちの世界にも多分居たんだよ。ただ、運良く出会わなかった。もしくは、主人公たちの世代にはいなかったんだ」
「偶々、運良く、ですか」
「そうだ。エレム……お前もそれなりに冒険者として活動してきたんだ。世の中は色んな意味で平等じゃないことは、もう解ってるだろ」
「……はい」
生まれ、出身、種族といった単純な不平等だけではない。
同じ時期に真面目に訓練を始めたとしても差は生まれ、平民には絶対に越えられない壁が貴族との間にある……と思っていると、平民が執念の末に力量関係を逆転させることもある。
同時期に走り始めた同志は……今横に振り返って何人いるのか。
時折その数を数え、寂しくなる時がある。
「では、あの冒険者……アラッド君は、主人公を喰らう何かだということですか」
「…………そもそもな話だ。この世界は別に本に記されている物語じゃないんだ。冒険者として英雄になりたい物語もあれば、同じく騎士にとして英雄になりたい物語もある」
世界一の武器、防具を造りたい鍛冶師の物語があれば、最強の魔術師になりたい物語もある。
世界には人の数だけ、それぞれの物語がある。
「大袈裟というか、ちょっと臭いセリフだってのは解ってるけど……あれだ、一人一人が、全員が主人公なんだよ」
「…………」
解らなくはない。
寧ろ否定する要素は一つもない。
しかし、エレムの顔はどこか納得がいってなかった。
「お前の英雄になりたいって物語があるように、超絶スーパールーキーのアラッド君には、アラッド君の好きな様に生きたい物語があるんだよ、きっとな」
まだ…………まだ納得しきれないクソイケメン優男。
「……お前にはお前の、アラッド君にはアラッド君の物語がる。だからこそ、アラッド君から自分の考えを押し付けないでくれって言われたんじゃないか」
「ッ!!!!!」
ここでようやくハッとした表情を浮かべ、不覚にも表情に納得の色が浮かんでしまった。
「ほら、今日は俺の奢りだからぶっ潰れるまで呑んで良いぞ」
「……潰れない程度に、頂きます」
夕方手前、アラッドに絡んで来たベル似のクソイケメン優男ことエレムは今回の討伐戦で一緒に参加するBランク冒険者で、先輩にあたる人物、ドミトルという名のマッチョで気の良さそうなおじさんとバーで呑んでいた。
「相変わらず堅いな~~、ったく……ぷは~~~、美味い!! マスター、同じカクテルもう一杯追加で」
「かしこまりました」
「んで、そこまで顔が暗ぇのは昼間に噂の超絶スーパールーキーと意見がぶつかったからか」
「……はい、その通りです」
アルコール度数が低いカクテル口に含む。
当然のことながら、それだけで酔う筈はないのだが……何故かいつもより苦く感じ、脳に響く。
「ドミトルさん……俺の考えは、意志は間違ってるんでしょうか」
「強大な力を持つモンスターがいる。そのモンスターが人々に被害を出す前に、自分たち全員が協力して討伐するって考えが間違っていたのかもしれない……そう思ったんだな」
「……まだ、完全に間違っているとは思っていません。少しでも早く討伐するために、少しでも犠牲を出さない様に討伐するために僕たち冒険者が力を合わせるべきです」
元も持っていた信念はそう簡単に崩れない。
だが、生意気な後輩と言い合いになり……その信念が揺れたのは事実。
「そうだな。早く見つけて、極力被害を出さない様に倒す……その考えは間違ってねぇと思うぞ」
「そ、そうですよね!!」
「落ち着け落ち着け。お前の考えは間違ってないと思うが、ぶっちゃけた話しな……それは冒険者じゃなくて、騎士に近い考えなんだ」
「えっ、ぁ……」
考え方が根本的に違う。
先輩から伝えられた言葉は耳から耳へ通り抜けることはなく、しっかり脳へ……心へ刻まれた。
「エレム、お前が物語に出てくる英雄に憧れて冒険者になったのは覚えってるよ。確かに英雄ってのは一人で戦っている訳じゃなく、多くの人々の力を借りながら強大な敵を討ち倒している……今のお前は、まさにそういう物語に出てくる様な主人公みたいだ」
「ど、どうも」
敬意を持つ先輩から「お前はしっかり目標に向かって歩めている」と言われれば、照れは不可避だった。
「お前はこれからまだまだ強くなるよ……でもな、物語ってのは基本的に都合良く出来てるんだ」
「都合良く……ですか」
自分の愛する物語が否定された気分になるも、怒りを露わにすることなく続きの言葉を待つ。
「そうだ。物語に登場してくる人物に不幸が訪れたり、主人公に瀕死寸前まで追い詰められる危機が訪れる場合もある……そういう展開が読者をハラハラさせる訳だからな」
英雄譚ならではなの展開であり、実際にエレムもこれまでの経験で味わったことがある。
「ただな、基本的に主人公を喰ってしまう登場人物ってのは、出てこないだろ」
「……………………そう、ですね」
今まで読んできた英雄譚をざっと思い返すが、主人公が主人公をしてない……そんな物語は今まで一つもなかった。
「きっとな、そういう化け物は何処かに居るんだよ。その主人公たちの世界にも多分居たんだよ。ただ、運良く出会わなかった。もしくは、主人公たちの世代にはいなかったんだ」
「偶々、運良く、ですか」
「そうだ。エレム……お前もそれなりに冒険者として活動してきたんだ。世の中は色んな意味で平等じゃないことは、もう解ってるだろ」
「……はい」
生まれ、出身、種族といった単純な不平等だけではない。
同じ時期に真面目に訓練を始めたとしても差は生まれ、平民には絶対に越えられない壁が貴族との間にある……と思っていると、平民が執念の末に力量関係を逆転させることもある。
同時期に走り始めた同志は……今横に振り返って何人いるのか。
時折その数を数え、寂しくなる時がある。
「では、あの冒険者……アラッド君は、主人公を喰らう何かだということですか」
「…………そもそもな話だ。この世界は別に本に記されている物語じゃないんだ。冒険者として英雄になりたい物語もあれば、同じく騎士にとして英雄になりたい物語もある」
世界一の武器、防具を造りたい鍛冶師の物語があれば、最強の魔術師になりたい物語もある。
世界には人の数だけ、それぞれの物語がある。
「大袈裟というか、ちょっと臭いセリフだってのは解ってるけど……あれだ、一人一人が、全員が主人公なんだよ」
「…………」
解らなくはない。
寧ろ否定する要素は一つもない。
しかし、エレムの顔はどこか納得がいってなかった。
「お前の英雄になりたいって物語があるように、超絶スーパールーキーのアラッド君には、アラッド君の好きな様に生きたい物語があるんだよ、きっとな」
まだ…………まだ納得しきれないクソイケメン優男。
「……お前にはお前の、アラッド君にはアラッド君の物語がる。だからこそ、アラッド君から自分の考えを押し付けないでくれって言われたんじゃないか」
「ッ!!!!!」
ここでようやくハッとした表情を浮かべ、不覚にも表情に納得の色が浮かんでしまった。
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