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四百三十九話 色々似てる過去
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「そういえば、先に言っておくけどアラッドはCランクへの昇格が確定したよ」
「……今回、ギルド側だったお前がそれを今本人に伝えても良いのか?」
バーに到着して一杯ずつカクテルを頼んだ直後、スティームの口から後日伝えられるであろう内容が本人に伝えられた。
基本的に今回の立場的にスティームがアラッドに伝えるのはアウトなのだが……既にアラッドが今回の試験を受けて
昇格するのは、ギルドが試験結果を聞く前から決まっていた。
ギルドとしては、ささっとアラッドをCランクに上げるための建前が欲しかったのだ。
「問題無いよ。逆に、アラッド君は自分が試験に落ちると思ってるのかい?」
「そりゃあ、落ちるとは思ってねぇよ」
「そうだろ。確かに四人の戦闘力や判断の速さ、技術力も素晴らしかった。Cランクに上がってからでも上手くやれるだろう……でも、今回の討伐で君がいなければ、討伐達成までもっと時間が必要だった」
マイルドに伝えるスティームだが、最悪の場合は四人の内誰か一人が死んでいてもおかしくなかった。
(まっ、アラッド君が参加しなかったら、試験の相手になる盗賊はもう少し弱い連中が選ばれてただろうね)
まだ四人の結果は知らないが、スティームの中では四人が昇格するのも確定事項だった。
「……ところで、アラッドは兄弟や姉、妹たちと上手くやれてるかい」
「一応な。もしかして、お前をこっちに呼んだ兄と上手くいってないのか?」
全くその様には見えない。
まだ関わって長くはないが、アラッドの目に二人の仲が実は……といった裏があるようには思えない。
「ディックス兄さんとは勿論仲良しだよ。他の兄弟たちとも基本的に仲は悪くないんだけど……一人だけ、ちょっと仲良く出来ない弟がいるんだ」
「ほぅ……まっ、俺も同じ歳の兄が一人いるが、そいつはお世辞にも仲良しは言えないな」
「えっ!?」
悪役イケメン面であっても、何だかんだで世渡りが上手いという印象が強い。
そんなアラッドと仲良く出来ない兄弟がいる。
本人の口から伝えられた内容に驚き、数秒ほど固まってしまった。
「おい、もう頭が回らない程酔ってるのか? 別に自慢じゃ……いや、自慢になるな。俺は別に、当然急成長して今の実力を手に入れた訳じゃないんだぞ」
「…………そ、そっか。はは……そうなん、だね。僕と似てる、のかな」
「多分似てるだろうな」
まだスティームの詳しい話は聞いていない。
一言も聞いていないが……それでも何となく同じだと解ってしまう。
「でも、少し違うだろうな」
「どこが?」
「俺は……その兄と仲良くなろうとしなかった。その時の歳を考えれば普通だったと……違うか。まぁ、あれだ。俺もあの時は若かったってやつだ」
「……アラッド君こそ酔ってる? 今自分が何歳か解るよね」
現在、アラッドの年齢はまだ十五歳。
己の昔を振り返って若いと言うには、いくらなんでも若過ぎる。
「…………まぁ、そこは置いといてだ。スティームさんは、その弟と仲良くなりたかったんだろ」
「うん、そうだね。幼い頃は家族って、仲良くて当然と思っててさ。だから……弟とも仲良くしたかったんだけど……ファルと出会ってから、もう修復出来ない亀裂が入ったんだ」
「あぁ~~~~……はは、そんなとこまで似てるとはな」
予想出来る内容ではある。
しかし、アラッドはブラックウルフ(当時)を、スティームはストームファルコンの子供を従魔として、特別な絆を得たことで、特定の家族との仲が悪化。
「俺もクロを家に連れて帰った時は……喧嘩にはならなかったけど、兄が結構無茶な頼みを父さんにしたらしい」
「喧嘩にならなかっただけ羨ましいよ」
「……その様子だと、何かもっと深い一件があったんだな」
「…………偶々、聞いてしまったんだ。弟が……僕さえいなかったらって口にしてるところを」
アラッドが仮にドラングがそんな言葉を零しているところに遭遇……もしくは面と向かって口にされたとしても、「そんな事言われても困るんだが」といった感じで軽く受け流してしまう。
だが、スティームはそんな弟の本音を偶然聞いてしまい……目指していた騎士の道から外れることを決意した。
「そんな事があったのか……」
お前は少し優し過ぎる。
時には非情になることも大事だ、とは口が裂けても言えない。
「スティームさんは、冒険者という道に進んで後悔してるのか?」
「全く後悔していないと言えば嘘になる。冒険者という道に進んだからこそ出会えた人たちがいる……そういった出会いに感謝することはあるよ。騎士と同じく、誰かを救うことも出来る」
冒険者としてのやりがいを口にするも、やはり表情には後悔の色が強い。
「……これは、個人的な感想だが。心の扉を閉ざしている相手にいくらノックしても、相手の気持ちや考えは変えられない」
グラスに残っているカクテルを呑み干し、言葉を続ける。
「だから……スティームさんが本当にその弟と今の関係を変えたいなら、ノックするんじゃなくてぶち破るしかないんじゃないか、と俺は思う」
「ぶ、ぶち破るのかい?」
「そうだ。落としどころは必要だと思うが……少しでもその弟に良い意味でのプライドがあるなら、少しは改善されると思う……個人的な意見だけどな」
ドラングとの関係が仲良し兄弟ではなく、ライバル。
アラッドはその関係を以前よりはずっと良いと思い、素直に受け入れていた。
「……今回、ギルド側だったお前がそれを今本人に伝えても良いのか?」
バーに到着して一杯ずつカクテルを頼んだ直後、スティームの口から後日伝えられるであろう内容が本人に伝えられた。
基本的に今回の立場的にスティームがアラッドに伝えるのはアウトなのだが……既にアラッドが今回の試験を受けて
昇格するのは、ギルドが試験結果を聞く前から決まっていた。
ギルドとしては、ささっとアラッドをCランクに上げるための建前が欲しかったのだ。
「問題無いよ。逆に、アラッド君は自分が試験に落ちると思ってるのかい?」
「そりゃあ、落ちるとは思ってねぇよ」
「そうだろ。確かに四人の戦闘力や判断の速さ、技術力も素晴らしかった。Cランクに上がってからでも上手くやれるだろう……でも、今回の討伐で君がいなければ、討伐達成までもっと時間が必要だった」
マイルドに伝えるスティームだが、最悪の場合は四人の内誰か一人が死んでいてもおかしくなかった。
(まっ、アラッド君が参加しなかったら、試験の相手になる盗賊はもう少し弱い連中が選ばれてただろうね)
まだ四人の結果は知らないが、スティームの中では四人が昇格するのも確定事項だった。
「……ところで、アラッドは兄弟や姉、妹たちと上手くやれてるかい」
「一応な。もしかして、お前をこっちに呼んだ兄と上手くいってないのか?」
全くその様には見えない。
まだ関わって長くはないが、アラッドの目に二人の仲が実は……といった裏があるようには思えない。
「ディックス兄さんとは勿論仲良しだよ。他の兄弟たちとも基本的に仲は悪くないんだけど……一人だけ、ちょっと仲良く出来ない弟がいるんだ」
「ほぅ……まっ、俺も同じ歳の兄が一人いるが、そいつはお世辞にも仲良しは言えないな」
「えっ!?」
悪役イケメン面であっても、何だかんだで世渡りが上手いという印象が強い。
そんなアラッドと仲良く出来ない兄弟がいる。
本人の口から伝えられた内容に驚き、数秒ほど固まってしまった。
「おい、もう頭が回らない程酔ってるのか? 別に自慢じゃ……いや、自慢になるな。俺は別に、当然急成長して今の実力を手に入れた訳じゃないんだぞ」
「…………そ、そっか。はは……そうなん、だね。僕と似てる、のかな」
「多分似てるだろうな」
まだスティームの詳しい話は聞いていない。
一言も聞いていないが……それでも何となく同じだと解ってしまう。
「でも、少し違うだろうな」
「どこが?」
「俺は……その兄と仲良くなろうとしなかった。その時の歳を考えれば普通だったと……違うか。まぁ、あれだ。俺もあの時は若かったってやつだ」
「……アラッド君こそ酔ってる? 今自分が何歳か解るよね」
現在、アラッドの年齢はまだ十五歳。
己の昔を振り返って若いと言うには、いくらなんでも若過ぎる。
「…………まぁ、そこは置いといてだ。スティームさんは、その弟と仲良くなりたかったんだろ」
「うん、そうだね。幼い頃は家族って、仲良くて当然と思っててさ。だから……弟とも仲良くしたかったんだけど……ファルと出会ってから、もう修復出来ない亀裂が入ったんだ」
「あぁ~~~~……はは、そんなとこまで似てるとはな」
予想出来る内容ではある。
しかし、アラッドはブラックウルフ(当時)を、スティームはストームファルコンの子供を従魔として、特別な絆を得たことで、特定の家族との仲が悪化。
「俺もクロを家に連れて帰った時は……喧嘩にはならなかったけど、兄が結構無茶な頼みを父さんにしたらしい」
「喧嘩にならなかっただけ羨ましいよ」
「……その様子だと、何かもっと深い一件があったんだな」
「…………偶々、聞いてしまったんだ。弟が……僕さえいなかったらって口にしてるところを」
アラッドが仮にドラングがそんな言葉を零しているところに遭遇……もしくは面と向かって口にされたとしても、「そんな事言われても困るんだが」といった感じで軽く受け流してしまう。
だが、スティームはそんな弟の本音を偶然聞いてしまい……目指していた騎士の道から外れることを決意した。
「そんな事があったのか……」
お前は少し優し過ぎる。
時には非情になることも大事だ、とは口が裂けても言えない。
「スティームさんは、冒険者という道に進んで後悔してるのか?」
「全く後悔していないと言えば嘘になる。冒険者という道に進んだからこそ出会えた人たちがいる……そういった出会いに感謝することはあるよ。騎士と同じく、誰かを救うことも出来る」
冒険者としてのやりがいを口にするも、やはり表情には後悔の色が強い。
「……これは、個人的な感想だが。心の扉を閉ざしている相手にいくらノックしても、相手の気持ちや考えは変えられない」
グラスに残っているカクテルを呑み干し、言葉を続ける。
「だから……スティームさんが本当にその弟と今の関係を変えたいなら、ノックするんじゃなくてぶち破るしかないんじゃないか、と俺は思う」
「ぶ、ぶち破るのかい?」
「そうだ。落としどころは必要だと思うが……少しでもその弟に良い意味でのプライドがあるなら、少しは改善されると思う……個人的な意見だけどな」
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