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四百二十三話 同じ歩幅では進めない

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「アラッドさん、お手紙です」

「俺に、ですか?」

依頼達成を報告し、手に入れた素材を売却した後、受付嬢から一つの手紙が渡された。

(ギーラス兄さんからだ)

パーシブル家の次期当主である長男。
現在は現当主であるフールと同じく、騎士団に所属して経験を積んでいる。

手紙の内容が気になり、夕食を取る前に宿へ戻り、部屋で手紙を読み始めた。

「……??? 今すぐ来てくれ、という訳ではないのか?」

要約すると、アラッドに現在自身の配属先の拠点である、ラダスという街に来てほしい、という内容だった。

(用事、先約があれば後でも構わない……しかし、そういった用事がないのであれば、なるべく早めに来てほしい、か……肝心の来てほしい内容について書かれてないな)

手紙に書かれている文字のブレが多く、書いている時に酔っていたのではと推測出来る。

墓荒しの黒幕退治が終わり、比較的ゆったりとした冒険者生活を送っていた。
相変わらず魔法学園からの指名依頼を受けるつもりはないため、マジリストンにこれ以上留まらなければならない理由はない。

強いて留まる理由を上げるのであれば……最近大いに満たされている三大欲求の一つ、性欲。
品の無い内容ではあるが、男らしい内容と言えなくもない。

(ん~~……なんというか、男として……いや、人としてアウトな感覚な気がするが、多分マジットも同じ気持ち……だよな?)

良い意味で割り切った男女の関係。

それはアラッドだけの考えではなく、マジットも同じ考えを持っていた。

「って、訳だから。明日か……明後日にはラダスに向かおうと思う」

数戦終えたベッドの上で、躊躇うことなく今後の予定を告げた。

「ラダスか……ふふ、おそらくだが退屈しない日々が送れると思うぞ」

戦闘者としての敬意を持ち、人間として好意を持つ相手からのある意味お別れ宣言に、特に取り乱さず笑顔を崩さない。

「そうなのか?」

「生息するモンスターの質は、あちらの方がやや上だった筈だからな」

「なるほど。それはそれで楽しみではあるな」

向かう理由は、兄からの頼み。
しかし、同時に冒険者として昂る可能性があるのかと思うと……自然と笑みが零れる。

(……本当に、良い笑顔だ)

野性味が溢れる笑顔に、再び手が伸びる。

この男に付いていきたい。
そんな考えが浮かばなかった訳ではない。

ただ……心の底から断言出来ることがある。
墓荒しの黒幕との一戦、アラッドからのサポートがなければ、倒すことは出来なかった。

自身が弱いとは思わない。
今でも強者の部類にいることは疑わない。
だが、これから先ソロでドラゴンを葬る未来の英雄と、肩を並べて進むことが出来るのか。

(これから共に歩ける若者たちが羨ましいよ)

いつかアラッドの隣に立つかもしれない者に僅かな嫉妬心を持ちながらも……彼が隣にいる今だけは、独占した。


「クロ、頼んだ」

「ワゥ!!」

マジットや、マジリストンの滞在中に知り合った者たちとの挨拶を済ませ、次の目的地……ラダスへと向かう。

(そういえば……まぁ、大丈夫か……うん、大丈夫だよな)

クロの背中に乗りながらの移動中、一つ不安な記憶が蘇ったが……問題無いなかった筈だと思い、自己完結。

そしてクロと旅で基本的に危機的状況に見舞われることなどある訳がなく、無事に長男ギーラスが勤務中の街、ラダスに到着。

(結構大きいな。街の規模的には、マジリストンに負けてなさそうだな)

マジリストンは魔法を中心に栄えているが……ラダスは特に何か大きな特徴がある街ではないが、とりあえず規模はマジリストンなどに負けてない。

「……先に宿で良いか」

アラッドが走って移動しても十分速いのだが、今回はクロの背中に乗ってそこそこの速度で道中を走行。

用事がないのであれば、なるべく早く来てほしいという兄の要望に十分応えた。
故に、騎士団に向かうのは後回しにし、まずは手頃な宿を探し始めた。
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