上 下
365 / 1,019

三百六十五話 残酷な現実

しおりを挟む
いたぶり、楽しんでいた最中、一体の巨狼が乱入してきた。

己の強さに自信はある。
自信はあるが、それでも乱入者が強いということは一目で解る。

それでも……変異種のケルピーは退かず、まずはクロを仕留めに掛かった。
黒い雷や自慢の角、足を使った打撃も繰り出す。

まずは目の前の敵を潰すことが先決。
それは解っていたが、倒せない。

戦闘が始まって数分後…………もう、頭でも本能でも理解せざるを得ない。

自分は、目の前の巨狼よりも弱い。
頭の中には「何故!?」という単語ばかり。

何故、黒い雷を単純な反応速度だけで躱せるのか。
何故、自分の角による突貫を、脚による打撃を躱せるのか。

頭の中は「何故!?」という単語で埋め尽くされ……その顔からは、完全に邪悪な笑みは消えており、再び浮かんでくることもない。

自分の楽しみを邪魔し、自分の攻撃をことごとく対処する……完全な格上。
そんな格上の相手は、自分を相手に完全に遊んでいる。

モンスター同士であれば、人よりも表情から何を考えてるのか解かる。

本能の理解だけで言えば……対峙した瞬間、解ってしまっていた。
巨狼の自分を見る目は、獲物を見つけた獣の目。

もっと言ってしまうと……遊び相手を見つけた目。
そこまで深くは読み取れずとも、上から目線で見られている事は解ってしまう。

そんな上から目線な巨狼、デルドウルフを相手に、変異種のケルピーは最初こそ果敢に自分の方が強い示そうとする。

先程まで戦っていた自分と実力が近いユニコーンや、その子供のユニコーンのことなど、頭からすっぽ抜けていた。
この巨狼を倒して、後は即座に退散する。
速攻で目標を切り替えて挑んだ。

クロもアラッドも、そんな部分を見ていなかった。
だが、しっかり見てれば、注視していれば評価する点ではあると思っただろう。

ただ……ランク差というのは、非常に恐ろしい。
勿論、絶対ではない。
その差を覆せる武器はいくらでもある。

人に例えれば、変異種のケルピーも天賦の才に胡坐をかく馬鹿ではない。
それなりの修羅場を潜り抜け、それでもただ、正確の悪さは変わらないだけ。

だが、こう言ってしまうと元も子もない。
それでも、事実として……相手が悪かったとしか言いようがない。

デルドウルフは……クロは、それほどの難敵。
この戦闘の最中だけではどう足掻いても覆らない実力差がある。

なにより、クロの変異種ケルピーを見る目は、戦闘開始時から全く変わっていない。

目の前の敵は、丁度良い遊び相手であり、おもちゃ。
だからこそ、楽しい時間が直ぐに終わらない様に、手加減して戦っている。

その事実が更に負の感情を掻き立てる。

(大体、五分ぐらいは経ったか? そろそろ終わるだろうな)

後ろでユニコーンと対面しながら、ずっと敵ではないうポーズを取り続けるアラッド。

変異種ケルピーの戦闘力は、決して全て把握出来てはいない。
しかし、何度も模擬戦を行ってきたクロだからこそ、絶対に負けるイメージが湧かない。

だからこそ、背を向けていても、安心して待っていられる。

(というか……改めて見ると、筋肉ヤバくないか?)

アラッドのイメージは、ユニコーンとはもっと華奢な体を持つ聖なる馬。

目の前のユニコーンは確かに神聖さを感じさせるが、それと同時に獣が宿す獰猛な圧も感じる。
そしてアラッドの感想通り、脚の筋肉が並ではない。

あの脚で蹴られたら、死んでもおかしくない。
そう思わせる太さと張りがある。

(まっ、ぱっと見それはケルピーの方も同じだったけどな)

そのケルピーも、そろそろクロが倒し終える。

「ブルルラァアアアアアアアっ!!!!」

クロが楽しい戦闘を終わらせようと動いたタイミングで、大声を上げる。

止めを刺す攻撃に対抗する為、気合一閃で相殺しようとした……訳ではなく、直後にユニコーンたちの死角から三体のモンスターが現れた。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

殿下、恋はデスゲームの後でお願いします

真鳥カノ
ファンタジー
気付けば乙女ゲームの悪役令嬢「レア=ハイラ子爵令嬢」に転生していた! いずれゲーム本編である王位継承権争いに巻き込まれ、破滅しかない未来へと突き進むことがわかっていたレア。 自らの持つ『祝福の手』によって人々に幸運を分け与え、どうにか破滅の未来を回避しようと奮闘していた。 そんな彼女の元ヘ、聞いたこともない名の王子がやってきて、求婚した――!! 王位継承権争いを勝ち抜くには、レアの『幸運』が必要だと言っていて……!? 短編なのでさらっと読んで頂けます! いつか長編にリメイクします!

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

処理中です...