335 / 1,006
三百三十五話 変わる意識
しおりを挟む
冒険者登録をし、冒険者としての人生をスタートさせたアラッド。
その日は依頼を受けることはなく、これから数か月は滞在するであろう街をブラブラと歩き……日が傾いたころに、外装から高級店だと解るレストランへ入った。
幸いにも従魔用のスペースがあり、従業員に良い感じの焼肉を食わせてやってほしいと伝える。
ドレスコードではないが、チラッと騎士の爵位を持っていると証明出来るバッチを見せると、従業員は超笑顔で対応。
今日が冒険者になった記念日ということもあり、パーッと豪勢な夕食を食べ始める。
値段など気にせず、じゃんじゃん料理を注文し……丁寧な所作で胃袋に運んでいく。
そんなアラッドをポカーンとした表情で視線を送る客がちらほらといた。
視線は向けるが、別に知り合いでもないので声は掛けない。
ただ……数人の客は、アラッドの表情に見覚えがあった。
見覚えがあるのだが……やはり容易に声は掛けられない。
「ふぅ~、美味かった」
満腹になったアラッドは会計を行い、金額を口にする時に少々震えた。
勿論アラッドはクロが食べた分の焼肉も払わなければならない。
それを考えると……どう見ても、思春期を抜けたのか抜けてないのか分からない青年が払える金額ではなかった。
「っ!!!???」
それを平然とした表情で懐から取り出すのだから、ギョッとした表情になってしまうのも無理はない。
「さっ、明日から仕事だな」
転生前は、あまり社会人になることに期待や楽しみといった感情はなく、働きなくないという思いが強かった。
しかし……今はそんな億劫な気分など一切無く、明日が来るのが待ち遠しかった。
そして翌日、アラッドは良くも悪くもない時間に目を覚まし、滞在場所と決めた宿の食堂に向かい、適当に朝食を頼み、完食。
生き生きとした表情で冒険者ギルドへと向かった。
「わぉ……予想以上のこみ具合、だな」
話は聞いていたが、朝の依頼書が張られているクエストボードのこみ具合に、若干引くアラッド。
必死過ぎるだろ、と思わなくもない光景だが、割が良い依頼というのは、冒険者にとって是非とも勝ち取りたい仕事。
そこにルーキーもベテランも、プロも関係無い。
(……待つか)
かなりテンションが上がっていたアラッドだが、目の前の光景を見て少し落ち着いた。
目の前の人だかりに入り込む勇気はないため、ある程度はけるまで待つことにした。
それは賢明な判断と言えるかもしれないが……先日ゴルドスにやって来たため、多くの冒険者が一度はアラッドをチラ見する。
一度も見たことがないソロの冒険者。
先日アラッドに殺しの経験はあるのかと尋ねた冒険者が、当時の様子を広めていないこともあり、殆ど素性は広まっていない。
ただ、ギルドの職員たちだけは「あれが、あのアラッド・パーシバル……」と思いながら、業務を進めていた。
そしてクエストボードの前から人がある程度はけた後、アラッドは椅子から腰を上げた。
(とりあえず、討伐系にしよう)
受ける種類の依頼を決め、ゆったりとした足取りでクエストボードに向かう。
「……これにするか」
アラッドが選んだ依頼は、バンデッドモンキーの討伐依頼。
依頼推奨ランクはD。
アラッドが受けるには丁度良い依頼ではある。
「これ、お願いします」
「か、畏まりました」
受付嬢はアラッドは侯爵家の令息だと知っている為、どうしても初対面だと緊張してしまう。
それでもプロであることは変わらず、淡々と受理の手続きを進めていく。
「依頼を受理しました」
「ありがとうございます」
身分が違う人間に対し、丁寧な言葉を使う。
この対応に受付嬢は、ほんの数秒固まってしまった。
(よし、お仕事頑張るぞ!!)
そんな状況など一切知らず、アラッドはワクワク顔をしながら、クロと一緒にバンデッドモンキーが潜む場所へと向かった。
その日は依頼を受けることはなく、これから数か月は滞在するであろう街をブラブラと歩き……日が傾いたころに、外装から高級店だと解るレストランへ入った。
幸いにも従魔用のスペースがあり、従業員に良い感じの焼肉を食わせてやってほしいと伝える。
ドレスコードではないが、チラッと騎士の爵位を持っていると証明出来るバッチを見せると、従業員は超笑顔で対応。
今日が冒険者になった記念日ということもあり、パーッと豪勢な夕食を食べ始める。
値段など気にせず、じゃんじゃん料理を注文し……丁寧な所作で胃袋に運んでいく。
そんなアラッドをポカーンとした表情で視線を送る客がちらほらといた。
視線は向けるが、別に知り合いでもないので声は掛けない。
ただ……数人の客は、アラッドの表情に見覚えがあった。
見覚えがあるのだが……やはり容易に声は掛けられない。
「ふぅ~、美味かった」
満腹になったアラッドは会計を行い、金額を口にする時に少々震えた。
勿論アラッドはクロが食べた分の焼肉も払わなければならない。
それを考えると……どう見ても、思春期を抜けたのか抜けてないのか分からない青年が払える金額ではなかった。
「っ!!!???」
それを平然とした表情で懐から取り出すのだから、ギョッとした表情になってしまうのも無理はない。
「さっ、明日から仕事だな」
転生前は、あまり社会人になることに期待や楽しみといった感情はなく、働きなくないという思いが強かった。
しかし……今はそんな億劫な気分など一切無く、明日が来るのが待ち遠しかった。
そして翌日、アラッドは良くも悪くもない時間に目を覚まし、滞在場所と決めた宿の食堂に向かい、適当に朝食を頼み、完食。
生き生きとした表情で冒険者ギルドへと向かった。
「わぉ……予想以上のこみ具合、だな」
話は聞いていたが、朝の依頼書が張られているクエストボードのこみ具合に、若干引くアラッド。
必死過ぎるだろ、と思わなくもない光景だが、割が良い依頼というのは、冒険者にとって是非とも勝ち取りたい仕事。
そこにルーキーもベテランも、プロも関係無い。
(……待つか)
かなりテンションが上がっていたアラッドだが、目の前の光景を見て少し落ち着いた。
目の前の人だかりに入り込む勇気はないため、ある程度はけるまで待つことにした。
それは賢明な判断と言えるかもしれないが……先日ゴルドスにやって来たため、多くの冒険者が一度はアラッドをチラ見する。
一度も見たことがないソロの冒険者。
先日アラッドに殺しの経験はあるのかと尋ねた冒険者が、当時の様子を広めていないこともあり、殆ど素性は広まっていない。
ただ、ギルドの職員たちだけは「あれが、あのアラッド・パーシバル……」と思いながら、業務を進めていた。
そしてクエストボードの前から人がある程度はけた後、アラッドは椅子から腰を上げた。
(とりあえず、討伐系にしよう)
受ける種類の依頼を決め、ゆったりとした足取りでクエストボードに向かう。
「……これにするか」
アラッドが選んだ依頼は、バンデッドモンキーの討伐依頼。
依頼推奨ランクはD。
アラッドが受けるには丁度良い依頼ではある。
「これ、お願いします」
「か、畏まりました」
受付嬢はアラッドは侯爵家の令息だと知っている為、どうしても初対面だと緊張してしまう。
それでもプロであることは変わらず、淡々と受理の手続きを進めていく。
「依頼を受理しました」
「ありがとうございます」
身分が違う人間に対し、丁寧な言葉を使う。
この対応に受付嬢は、ほんの数秒固まってしまった。
(よし、お仕事頑張るぞ!!)
そんな状況など一切知らず、アラッドはワクワク顔をしながら、クロと一緒にバンデッドモンキーが潜む場所へと向かった。
206
お気に入りに追加
6,098
あなたにおすすめの小説
転移したらダンジョンの下層だった
Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。
もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。
そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。
私のスキルが、クエストってどういうこと?
地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。
十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。
スキルによって、今後の人生が決まる。
当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。
聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。
少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。
一話辺りは約三千文字前後にしております。
更新は、毎週日曜日の十六時予定です。
『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
「守ることしかできない魔法は不要だ」と追放された結界師は幼なじみと共に最強になる~今更俺の結界が必要だと土下座したところでもう遅い~
平山和人
ファンタジー
主人公のカイトは、ラインハルト王太子率いる勇者パーティーの一員として参加していた。しかし、ラインハルトは彼の力を過小評価し、「結界魔法しか使えない欠陥品」と罵って、宮廷魔導師の資格を剥奪し、国外追放を命じる。
途方に暮れるカイトを救ったのは、同じ孤児院出身の幼馴染のフィーナだった。フィーナは「あなたが国を出るなら、私もついていきます」と決意し、カイトとともに故郷を後にする。
ところが、カイトが以前に張り巡らせていた強力な結界が解けたことで、国は大混乱に陥る。国民たちは、失われた最強の結界師であるカイトの力を必死に求めてやってくるようになる。
そんな中、弱体化したラインハルトがついにカイトの元に土下座して謝罪してくるが、カイトは申し出を断り、フィーナと共に新天地で新しい人生を切り開くことを決意する。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる