上 下
334 / 1,019

三百三十四話 殺れる証明

しおりを挟む
「はい、こちらがアラッドさんのギルドカードになります」

「ありがとうございます」

自身のギルドカードを受け取り、小さく笑みを浮かべるアラッド。
これで……ようやく目標のスタートラインに立てた。
まだ何かを成し遂げた訳ではないが、嬉しくて少々ニヤけが止まらない。

ただ…………ギルドカードに表記されている一点に、眼が止まった。

(これ、本当に良いのか?)

疑問を解消したいため、受付嬢に問う。

「すいません、これって本当にこれで良いんですか?」

「は、はい。そうですね。ギルドの規則というか特典というか……とにかく、問題はありません」

アラッドが気になった部分とは、所有者のランクを示す部分。
その部分には、Dランクと記されていた。

Dランクは、ようやくルーキーがケツの殻が取れ、ようやく上がれるステージ。
普通は数年かけて……優秀なルーキーであれば、一年程度で辿り着くことはある。

だが、アラッドはいきなりそのステージに立った。
圧倒的に普通ではないことを考えれば、そのステージからスタートすることは、なんら不思議ではない。
寧ろアラッドをそれなりに知っている者たちからすれば、当たり前も当たり前。

アラッドも……この話、ルールは知っていた。
知っていたが、本当にそうなるのかは半信半疑だった。

「そうですか……分かりました」

一番下から、それなりの日々を過ごしながら上がる。
そんな楽しみ方も悪くないと思っていたが、これはこれで悪くない。

一つ懸念があるが、気にしていたらスタート地点から前に進めない。

「よぅ、兄ちゃん。あんた、騎士なんだってな」

テンプレ……そう思えなくもない人物がアラッドに声を掛けた。

「騎士というか、騎士の爵位を持ってるだけですよ」

「ふ~~~ん?」

アラッドの言葉に、いまいち要領を得ない。
ただ、先輩として一つ確認しておきたい部分があった。

「まっ、そこら辺の事情は知らねぇけどよ……お前、ちゃんと殺せるのか」

そう言うと、ルーキーに向ければちびってしまうような圧を放つ。

騎士の爵位を持っている者が、何故Dランクからスタート出来るのか……理由としては、元騎士であればDランクに昇格できる基準、人殺しをクリアしてるのが一般常識だから。

しかし、目の前の少年はぱっと見、それをクリアしてるようには見えない。

冒険者になったのであれば、いずれ他の冒険者と組んで依頼を受けることがあるだろう。
その時……仮初のランクが、同業者を殺す場合がないと言えない。

(面倒な人じゃなくて、他の同業者を気遣える人なんだな)

アラッドは自分に話しかけてきた先輩の評価を改め、殺れるという力強さを証明した。

「えぇ、勿論」

「っ!!!???」

「先輩たちみたいに何度も経験がある訳ではありませんが、貴族なので狙われる機会が少なくなかったんですよ」

「そ、そうか」

アラッドは先輩が信用出来るだけの殺気を……その先輩だけに向けた。

(このガキ、どんな経験積んできてんだ!?)

ベテランが思わず身震いしてしまう程、その殺気は複数の意味で洗礼されていた。

「……ったく。とんでもねぇ騎士がいたもんだ」

「ただ爵位を持ってるだけですよ」

「それもそれで謎なんだけどよ……まっ、いいや。邪魔したな」

「いえ、信用を得られて良かったです」

良い笑みでそう返し、クロが待つ外に向かう。

対して、男は仲間たちと呑んでいた席へと戻った。

「なんだ、意外に戦れそうなルーキーだったのか?」

「戦れるどころの話じゃねぇ。一気に酔いが覚めちまった。おい、一杯くれ」

併設されている酒場の従業員に頼み、先程まで呑んでいたエールを再度注文。
一気に半分近くまで飲み干すが……酔える気がしなかった。

「お前ら、下手にあのガキに絡もうとすんなよ。あいつは、間違いなく殺る時は殺れる側の人間だ」

仲間の言葉から冗談は感じられず……男のパーティーメンバーたちは、無意識に出入り口に目を向けていた。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

殿下、恋はデスゲームの後でお願いします

真鳥カノ
ファンタジー
気付けば乙女ゲームの悪役令嬢「レア=ハイラ子爵令嬢」に転生していた! いずれゲーム本編である王位継承権争いに巻き込まれ、破滅しかない未来へと突き進むことがわかっていたレア。 自らの持つ『祝福の手』によって人々に幸運を分け与え、どうにか破滅の未来を回避しようと奮闘していた。 そんな彼女の元ヘ、聞いたこともない名の王子がやってきて、求婚した――!! 王位継承権争いを勝ち抜くには、レアの『幸運』が必要だと言っていて……!? 短編なのでさらっと読んで頂けます! いつか長編にリメイクします!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

元聖女だった少女は我が道を往く

春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。 彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。 「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。 その言葉は取り返しのつかない事態を招く。 でも、もうわたしには関係ない。 だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。 わたしが聖女となることもない。 ─── それは誓約だったから ☆これは聖女物ではありません ☆他社でも公開はじめました

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

処理中です...