332 / 1,006
三百三十二話 今、その資格はない
しおりを挟む
(……今、言うべきではないな)
食事中、レイはアラッドたちと会話しながら、ある事を考えていた。
アラッドに……一度、自分と本気で戦って欲しいと頼むか否か。
答えを出すまでに、意外にも悩んでしまった。
傍から見れば、今の自分はアラッドに遠く及ばない存在。
自身に打ち勝ったフローレンスは、自分との勝負に全力を出していなかった。
しかし、アラッドは本気中の本気を出し……更に、試合中に新たなステージに踏み入ったフローレンスを倒した。
彼は偶々、運が良かっただけだと語るが、それも含めてアラッドの実力。
今まで積み重ねてきた土台、実戦で磨いてきたセンスがなければ、どちらにしろあの女傑には敵わない。
(次、戦える機会は……いつになる? 数年後か五年後か……それとも十年後か)
少なくとも、学園を卒業するまでは戦えない。
再び会うことも難しい。
卒業しても、そこからは騎士としての生活が待っている。
望む戦闘環境を得られたとしても、自由になる時間が殆どない。
ただ…………今の自分が戦ったところで、何を得られる?
アラッドが狂化を使ってしまえば、おそらく格段に自身が不利な状況に追い込まれる。
フローレンスほど糸を対処出来るか?
正直……そこまで上手く対処出来る自信はない。
(止めておこう)
今頼んでも、迷惑になるだけ。
これからどう強くなるか、アラッドが進むよりも速く前に進まなければ、戦いを挑む資格はない。
それがレイの判断だった。
そして翌日、予定通り……アラッドは学園長から特例として、卒業証書を授与された。
(ほんの数か月とはいえ、それなりに楽しかったな)
元々仲が良い友人たちがいたこともあり、学園生活はそれなりに楽しいと感じた。
しかし、だからといって三年間、通常の卒業時期まで在籍したいとは思わない。
「気を付けてな」
「ありがとうございました」
担任のアレクたちとも別れ、アラッドはクロと共に一旦実家へと戻った。
クロに乗って移動してしまえば、到着に一日も掛からない。
超速で屋敷に到着し、その日は一日のんびりと過ごした。
既にガルシアたちから聞いてはいたが、孤児院の子供たちに大会での試合について、話を求められた。
「運が悪ければ、俺の方が負けてたかもな」
「「「「「「えっ!?」」」」」」
子供たちは、アラッドの言葉に心底驚き、先日試合内容を話してくれたガルシアの方に目を向けた。
多数の視線を向けられたガルシアは、「だから言っただろ」といった表情を返す。
ガルシアとしても、アラッドが学生を相手に苦戦するなど、全く考えていなかった。
せいぜい、表情に笑みが浮かぶ楽しい試合が出来る、一般的な意味での天才がいる。
その程度の認識だったが、フローレンスだけはまさしく別格な存在だった。
「まさか精霊と契約してるとは思ってなかったな」
「やっぱり、強かったの?」
「強かったよ。クロがいなきゃ、本格的にヤバかった」
表情に嘘はない。
子供たちは直感ではあるが、話を盛り上げるためにアラッドが嘘をついている訳ではないと解った。
「俺が言うのもあれだけど、あの人はマジで化け物……って言い方は失礼だな。女傑って言い方の方が良いか」
話はまだ途中であり、フローレンスが試合中に新たな手札を手に入れた場面に移る。
そういった展開は、子供たちにとって大好物。
しかし、そこから形勢を逆転させず、咄嗟の判断力と技術を生かしたアラッドの機転に、子供たちは自然を拍手した。
「といった感じで、なんとか勝つことが出来た。正直、あそこから第四ラウンドは勘弁してほしいって思いが強かった」
人間的に好きではない相手だが、決して殺したいほど憎い相手ではない。
その為、自身の一撃がフローレンスを殺せる力を持ち、その攻撃を十分当てられる状況。
そこからの戦闘だけは絶対に避けたかった。
「……俺、特訓する!」
「俺も!!!」
「私もするっ!!」
「えっ? ちょ、お前ら」
まだ夕食の時間ではないが、今から動けば夕食時には、バテバテになっているのは間違いない。
だが……そんな熱いバトルを聞からされては、子供ながらに向上心が疼いてしまった。
食事中、レイはアラッドたちと会話しながら、ある事を考えていた。
アラッドに……一度、自分と本気で戦って欲しいと頼むか否か。
答えを出すまでに、意外にも悩んでしまった。
傍から見れば、今の自分はアラッドに遠く及ばない存在。
自身に打ち勝ったフローレンスは、自分との勝負に全力を出していなかった。
しかし、アラッドは本気中の本気を出し……更に、試合中に新たなステージに踏み入ったフローレンスを倒した。
彼は偶々、運が良かっただけだと語るが、それも含めてアラッドの実力。
今まで積み重ねてきた土台、実戦で磨いてきたセンスがなければ、どちらにしろあの女傑には敵わない。
(次、戦える機会は……いつになる? 数年後か五年後か……それとも十年後か)
少なくとも、学園を卒業するまでは戦えない。
再び会うことも難しい。
卒業しても、そこからは騎士としての生活が待っている。
望む戦闘環境を得られたとしても、自由になる時間が殆どない。
ただ…………今の自分が戦ったところで、何を得られる?
アラッドが狂化を使ってしまえば、おそらく格段に自身が不利な状況に追い込まれる。
フローレンスほど糸を対処出来るか?
正直……そこまで上手く対処出来る自信はない。
(止めておこう)
今頼んでも、迷惑になるだけ。
これからどう強くなるか、アラッドが進むよりも速く前に進まなければ、戦いを挑む資格はない。
それがレイの判断だった。
そして翌日、予定通り……アラッドは学園長から特例として、卒業証書を授与された。
(ほんの数か月とはいえ、それなりに楽しかったな)
元々仲が良い友人たちがいたこともあり、学園生活はそれなりに楽しいと感じた。
しかし、だからといって三年間、通常の卒業時期まで在籍したいとは思わない。
「気を付けてな」
「ありがとうございました」
担任のアレクたちとも別れ、アラッドはクロと共に一旦実家へと戻った。
クロに乗って移動してしまえば、到着に一日も掛からない。
超速で屋敷に到着し、その日は一日のんびりと過ごした。
既にガルシアたちから聞いてはいたが、孤児院の子供たちに大会での試合について、話を求められた。
「運が悪ければ、俺の方が負けてたかもな」
「「「「「「えっ!?」」」」」」
子供たちは、アラッドの言葉に心底驚き、先日試合内容を話してくれたガルシアの方に目を向けた。
多数の視線を向けられたガルシアは、「だから言っただろ」といった表情を返す。
ガルシアとしても、アラッドが学生を相手に苦戦するなど、全く考えていなかった。
せいぜい、表情に笑みが浮かぶ楽しい試合が出来る、一般的な意味での天才がいる。
その程度の認識だったが、フローレンスだけはまさしく別格な存在だった。
「まさか精霊と契約してるとは思ってなかったな」
「やっぱり、強かったの?」
「強かったよ。クロがいなきゃ、本格的にヤバかった」
表情に嘘はない。
子供たちは直感ではあるが、話を盛り上げるためにアラッドが嘘をついている訳ではないと解った。
「俺が言うのもあれだけど、あの人はマジで化け物……って言い方は失礼だな。女傑って言い方の方が良いか」
話はまだ途中であり、フローレンスが試合中に新たな手札を手に入れた場面に移る。
そういった展開は、子供たちにとって大好物。
しかし、そこから形勢を逆転させず、咄嗟の判断力と技術を生かしたアラッドの機転に、子供たちは自然を拍手した。
「といった感じで、なんとか勝つことが出来た。正直、あそこから第四ラウンドは勘弁してほしいって思いが強かった」
人間的に好きではない相手だが、決して殺したいほど憎い相手ではない。
その為、自身の一撃がフローレンスを殺せる力を持ち、その攻撃を十分当てられる状況。
そこからの戦闘だけは絶対に避けたかった。
「……俺、特訓する!」
「俺も!!!」
「私もするっ!!」
「えっ? ちょ、お前ら」
まだ夕食の時間ではないが、今から動けば夕食時には、バテバテになっているのは間違いない。
だが……そんな熱いバトルを聞からされては、子供ながらに向上心が疼いてしまった。
225
お気に入りに追加
6,098
あなたにおすすめの小説
転移したらダンジョンの下層だった
Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。
もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。
そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。
地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件
フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。
だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!?
体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。
私のスキルが、クエストってどういうこと?
地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。
十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。
スキルによって、今後の人生が決まる。
当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。
聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。
少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。
一話辺りは約三千文字前後にしております。
更新は、毎週日曜日の十六時予定です。
『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
「守ることしかできない魔法は不要だ」と追放された結界師は幼なじみと共に最強になる~今更俺の結界が必要だと土下座したところでもう遅い~
平山和人
ファンタジー
主人公のカイトは、ラインハルト王太子率いる勇者パーティーの一員として参加していた。しかし、ラインハルトは彼の力を過小評価し、「結界魔法しか使えない欠陥品」と罵って、宮廷魔導師の資格を剥奪し、国外追放を命じる。
途方に暮れるカイトを救ったのは、同じ孤児院出身の幼馴染のフィーナだった。フィーナは「あなたが国を出るなら、私もついていきます」と決意し、カイトとともに故郷を後にする。
ところが、カイトが以前に張り巡らせていた強力な結界が解けたことで、国は大混乱に陥る。国民たちは、失われた最強の結界師であるカイトの力を必死に求めてやってくるようになる。
そんな中、弱体化したラインハルトがついにカイトの元に土下座して謝罪してくるが、カイトは申し出を断り、フィーナと共に新天地で新しい人生を切り開くことを決意する。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる