上 下
294 / 1,019

二百九十四話 上に登れば、それが見れるだろう

しおりを挟む
「勝者、アラッド・パーシブル!!!!」

審判が勝者の名前を告げ、再び観客たちは大歓声を上げた。

(……これは良い気分だな)

大勢の人たちから歓声を浴びる。
初めての体験を味わい、アラッドは薄っすらと笑みが零れた。

「おい、お前……騎士団には、本当に入らないのか」

アラッドに負けた上級生は体の節々が痛みの我慢し、無理矢理体を起こし、問うた。

「えぇ、そうですよ」

「何故だ。それだけの強さを持っているなら、入団は難しくないだろう」

実際に剣を交えたからこそ解ることがある。

アラッドは自分と戦っている最中……一度たりとも本気を出していなかった。
噂の糸を使うことなく、明らかに手札を隠しての勝利。

これで一年生なのかと思うと、今になって身震いしてしまう。

「……俺の本来の戦闘スタイルは、騎士らしくないので」

それだけ言い残し、アラッドはリングから去った。

その言葉に直ぐ納得することは出来なかったが……そう言うならば、その戦闘スタイルを見れる戦いが来ることを祈った。

(勝ち進めば、いずれ見れるだろ)

槍使いの上級生は、自分が学生の中では強者だという自覚を持っていた。
騎士を目指す者として、最初から勝つのを諦めてはならない。

しかし……同じ学年に、その諦めを強制するような怪物がいる。
その怪物とアラッドがぶつかれば、本人が言う騎士らしくない戦い方が必ず見れる。

男は……それはそれで楽しみだと感じた。

「お疲れ、アラッド」

「あぁ」

アラッドを迎えたのは、男友達の一人であるリオだった。

「良い戦いが出来たよ」

「アラッドだからこそ思える内容だな。戦ってた上級生は戦いを楽しむ余裕なんて、これっぽっちもなかったと思うぜ」

「そうだな……校内戦以上に、強い覚悟を感じた」

校内戦で戦った上級生たちが、今回戦った槍使いに大きく劣っているとは思えないが……それでも、体から発せられる気迫が一段階違うと感じた。

「それだけ気合いが入ってるってことだ」

リオの言葉に納得し、アラッドはベルたちの元へ戻った。

「この試合が終わって、二試合後には弟の試合が始まる訳だけど……兄としては、どうなると思う」

「まだなんとも、だな。ドラングの対戦相手を見てからじゃないと」

このまま二人が順当に勝ち進めば、アラッドとドラングは三回戦目でぶつかる。

(つっても、あれだけ思いっきり啖呵を切ってきたんだ……勝ちあがってくるだろ、ドラング)

上手く言葉には表せないが……最近のドラングは、今まで自分の記憶にあるドラングと、少し変化している。
その変化がどういった変化なのかは分からない。

見方によっては、闘争心が薄れたようにも思えるが……実際に戦ってみるまでは、何とも言えない。

そして時間は進み、いよいよドラングの試合が始まる。
対戦相手は、他校の二年生。

(ドラングにも、結構ファンがいるんだな)

優勝こそ取れていないものの、中等部の頃から好成績を残している為、一般市民の中にもドラングの存在を知る者は少なくない。

「……まっ、勝てるだろ」

「随分あっさり言うじゃない。対戦相手は……確か二年生。二年生でこの舞台に立つということは、並みの実力者じゃないはずよ」

エリザの言葉は最も。
経験数こそ三年生に及ばないが、その三年生を打ち破り、大会出場の枠を勝ち取った猛者。
本来であれば、高等部に入りたての一年生が勝てる相手ではない。

「それはそうだろうな。でも、なんとなく解る。多分、この試合は……ドラングの奴が勝つ」

言い終わってから、もしドラングが初戦敗退なんてしたら、物凄く自分がダサくなると我に返る。

表情こそ出していないが、アラッドは心の中から必死にドラングにエールを送った。

「それでは、始め!!!」

アラッドがダサくなるか否かの一戦が、今始まった。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

殿下、恋はデスゲームの後でお願いします

真鳥カノ
ファンタジー
気付けば乙女ゲームの悪役令嬢「レア=ハイラ子爵令嬢」に転生していた! いずれゲーム本編である王位継承権争いに巻き込まれ、破滅しかない未来へと突き進むことがわかっていたレア。 自らの持つ『祝福の手』によって人々に幸運を分け与え、どうにか破滅の未来を回避しようと奮闘していた。 そんな彼女の元ヘ、聞いたこともない名の王子がやってきて、求婚した――!! 王位継承権争いを勝ち抜くには、レアの『幸運』が必要だと言っていて……!? 短編なのでさらっと読んで頂けます! いつか長編にリメイクします!

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

処理中です...