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二百十四話 強いて言うならば

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(本当に、良い一撃だった……元々アラッドはなんでも器用にこなすタイプだけど、あのレベルの相手をさらっと一人で倒すとなると、現段階でも盗賊団を一人で倒せるだけの力は持っているね)

今回の戦闘で、アラッドは特に技を使っていない。
敵の頭上に移動して糸で首を絞め、切っただけ。

その動作に殆ど体力と魔力を消費してない。

(多分、一人でやれるとは思うけど……うん、勝手にやるのは止めてほしいかな)

一人の元騎士という目から視ても、アラッドの複数の敵を潰す殲滅力はかなりのもの。
そもそも本人は糸だけではなく、剣や槍などの武器を使え……更には同時に魔法をも使える。

その全てを考えれば数十といる盗賊団を殲滅させるのも無理な話ではない。
だが、一人の親としては……いきなり、何も報告なしに盗賊団に挑むのは止めてほしいところだった。

「どうだった、初めて人を殺した感触は」

後処理が終わった後、馬車の中でフールは息子に問うた。

本来であれば、現段階ではあまり触れてはならないデリケートゾーン。
しかし、今ここで放っておかない方がアラッドの為になると思い、フールは息子に初めて人を殺した感触について尋ねた。

「……まだ、あまり詳しくというか、深くは分かりません。ただ……盗賊が殺すことに躊躇いを感じてはならない存在だということは分っていても、言葉に言い表し難い不快感が襲ってきました」

「そうだろうね……その感覚は、僕も解るよ」

フールも若い頃、騎士としての任務で初めて盗賊と戦い、人を殺した。

戦いが始まったばかりの時は無我夢中で動き続け、とにかく盗賊を殺し続けなければならないという思いで一杯だった。
結果的にフールと仲間たちは盗賊団の討伐に成功し、勝利した。

だが……討伐が終わった直後、全員がその場にゲロを吐いた。
正義感が強い奴、臆病な奴、若干能天気な奴。

全員関係無しに、アラッドが口にしたものと似た様な感覚に襲われ、昼間に食べた物を全て戻してしまった。

「それで、もう一度人を殺すことに、怖さはあるかい」

モンスターは殺せるが、人は殺せない。

世の中にはそういった者もおり、それが理由で冒険者や兵士、騎士の仕事を辞める者もいる。
冒険者になれば、今日の様にいずれ盗賊を殺す時が来る。

場合によっては…………同業者を殺さなければならない場合だってある。

「いえ、怖さはありません」

そんな可能性に対し、アラッドはフールの目から一寸たりとも動かさず、怖さはないと断言した。

「どんな理由があろうと、自分を殺しに来るような相手に対し、自分も殺す勇気が……力がなければ、殺されてしまうかもしれません。俺は冒険者として広い世界をみたいので、もう……臆することはありません」

「そうか……アラッドは、強いね」

息子の瞳には、もう完全にブレや迷いはなかった。

かつてフールも人を殺すという恐怖を乗り越えたが、乗り越えるまでに悩みに悩み、殺してから一日掛った。

(子供の成長は早いというけど、同じ人を殺すという恐怖をもう乗り越えるなんて……まっ、アラッドだからというのが一番の大きな理由かな)

その考えは間違っていなかった。

子供だから成長が早い、天才の部類だから……そういった条件は、弟であるアッシュにも当てはまるが、アッシュが八歳になったとしても、アラッドの様に初めて人を殺して直ぐに立ち直れるとは思えない。

「俺としては……これから始まるパーティーの方が、若干怖いと感じます」

「……はっはっは!! アラッドにとっては、そうかもしれない、ね。でも、アラッドの知り合いたちもいるから、そんなに怖がる必要はないよ。まぁ……会場が大人と子供に別れてるから、ちょっと分からないけどね」

そう、今回のパーティーは大人と子供で会場を分けている。

とはいっても、同じ屋敷内で行われているので、何か問題を起こせばすぐに外に伝わるが……子供というのは、基本的に分かってはいても大人になれないもの。

フールが少し心配そうにする表情を見て、アラッドも若干不安になった。
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