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二百八話 焦っても仕方ない

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「では、また会おう」

「えぇ、また会いましょう」

翌日、アラッドとレイ嬢は別れの挨拶をし、自分たちの家へと戻った。

(仕方がなかったとはいえ、今回の交流会? には参加して良かったな)

ガルシアやリン、グラストと模擬戦を行っていれば負けてしまうことは何度でもある。
しかし、その時は使う武器を限定した状況での負け。

だが……今回、バイアードとの模擬戦では全力で……モテる武器を全て使ったにもかかわらず、負けてしまった。

その体験が今回の交流会で得た、大きな収穫だった。

(これからは、もっと糸使った動きと攻撃を学んでいかないとな……でも、あんまりむやみやたらにモンスターを狩り過ぎるのもな……冒険者たちの迷惑になるよな)

現在、アラッドは手に入れた素材の殆どをリンに渡すか、錬金術の材料として使っており、あまりギルドで買い取ってもらう機会は少ない。

領地の周りにはそれなりの数のモンスターがいるが、無限に増え続ける訳ではない。

(ダンジョンでもあったら、そこで無限に生まれてくるモンスターを実験台に出来るんだが……いや、そもそも潜ることを父さんと母さんもさすがに許してくれないか)

今のところ、野営をして翌日返ってくるという流れもアウト。
アラッドの年齢を考えれば当然なので、本人もそこは分かっている。

そしてダンジョンに潜ろうとすれば、当然戻ってくるまでに何日もかかる。

(転移魔法なんてチートは持ってないからな……まっ、ダンジョン攻略は冒険者になってからの楽しみとして取っておかないとな)

いくらアラッドでも、簡単に転移魔法をゲットすることは不可能であり……そもそも習得したとしても、そう簡単に遠距離移動が出来る訳ではない。

糸を使えば殆ど体力を消費せずに移動できるが、それでも数日かかる距離を日帰りで移動するのは不可能。

「アラッド様、眉間に皺が寄ってるっすよ」

「ん? あぁ……ちょっと色々考えてた」

「色々ってのは、やっぱりあれっすか? 糸の使い方とか」

「使い方や、使うタイミングもそうだが……問題はそれの実験台となるモンスターの数というか質というか……あんまりやり過ぎると冒険者の迷惑になるかもって思って」

「なるほど……今はまだ全然大丈夫だと思うっすけど、可能性がゼロとは言えないっすね」

森の中で活動している冒険者が偶にアラッドたちを見かけることはあるが、特に獲物が被ったりすることはない。

アラッドもサーチアンドデストロイをしてはいないので、面倒な揉め事に遭遇したこともない。

「まっ、そういうのは起こってから考えるのぐらいが丁度良いっすよ。今考えても大した策は浮かばないでしょうし」

「…………それもそうかもな」

今のところ、狩りに出かける日数を減らすという案しか浮かべない。
そしてその案も日数を減らしてしまっては、糸の技術を磨く機会が減ってしまう。

(いや、焦りは禁物だな。まだ……うん、七歳なんだし焦らずゆっくりいこう)

冒険者になるまで大量の時間がある。
それに改めて気付き、少し心にゆとりを持てたアラッド。

ただ……家に帰ってくると、早々にアリサとルリナからレイ嬢との交流会はどうだったのかを隅々まで吐かされた。

(女性って、本当にこういう話が好きだよな。別に俺も嫌いではないけど、自分の話をするのは……やっぱり嫌か)

こういった話は話すよりも聞く方が良いと、改めて思ったアラッド。

そして二人からの質問という名の尋問が終わり、次は父親であるフールへにざっとどういった内容だったのかを説明しなければならない。

フールはアリサやルリナの様にレイ嬢との関係を事細かに訊いてくることはなく、アラッドとしては特に身構えることなく話を続けることが出来た。

ただ、話し終えた後に伝えられた内容を聞き……少しぶっ倒れそうになった。
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