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百八十一話 寝てはいけない

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(別に同年代の子供と街を散策するのは嫌って訳じゃないんだが……俺、レナルトの街を全然知らないんだよな)

アラッドはレナルトに到着してから、毎日街の外に出て狩りをするのだと思っていた。
なので、レナルトの街にどういったデートスポットがあるのか……その辺りは全く調べていない。

(お金は持っているから、どの店に入るのも問題はない。ただ、どういった店に入ればレイ嬢が喜ぶのか……)

自分のことは考えず、レイ嬢をエスコートすることだけを考える。
普段のアラッドであれば、武器屋やマジックアイテムが売っている場所に一直線だが、今回はそういうわけにはいかない。

「ッ! レイ嬢、あそこに行かないか」

「……劇、か。うむ、良いな。ただ、どんな劇がやっているのだ?」

「中に入って確認しよう」

二人で劇場の中に入り、一日の間に公演される劇を確認。
すると、後十分程度で悪魔に連れ去られた姫を勇者が助ける……といった、ありふれた内容ではあるが、二人が興味を引く内容のものがあった。

「これなら……見たいな」

「分かりました。では、直ぐにお金を払って席に座りましょう」

料金は一人銀貨五枚と、少々お高い。
だが、平民にも払えなくはない良心的な価格とも言える。

そしてアラッドは二人分の料金である銀貨十枚をサラッと払った。

「アラッド、私の分はしっかり払うぞ」

「いえ、今日は俺がレイ嬢をエスコートさせてもらう立場なので、これぐらいは払わせてください」

「むっ。そ、そうか……分かった」

歳は間違いなく同じなのだが、アラッドからまるで幾つも歳上のような優しさと雰囲気を感じ、いつもの少々強気な態度が呆気なく崩れていた。

(……劇場まで付いてきてるんだな。まっ、普通に考えれば当たり前か)

本日、アラッドとレイ嬢がデートを行うにあたって、変装と監視に慣れている者たちが万が一のことを考え、少し離れた場所から二人を付けている。

勿論、彼ら彼女たちに二人のデートを邪魔しようという気は微塵もなく、変に絡もうとする輩がいれば即座に捕まえて裏でお話しするだけ。

レイ嬢は自分たちを見守っている存在に気付いていないが、二日に一度森の中でモンスターを狩っているアラッドはレイ嬢よりも視線に敏感なので、直ぐに気付いた。

「始まったか」

いよいよ公演の時間となり、舞台に役者たちが現れ……迫真の演技を行っていく。

(……前世を含めて、今まで全く演劇とか見たことなかったけど、ドラマ撮影を近くで観てる感じ、なのかな?)

この世界で……貴族なら、演劇ぐらいは最低でも数回ぐらいは実際に見るものだが、アラッドは一ミリも興味がなかったので今まで一度も見たことがなかった。

レイ嬢とデートする、という機会がなければこれからの人生で、一度も見なかったかもしれない。

(通常の場面は……まぁ、あれだなって感じだけど、戦いのシーンはやっぱりまだまだ子供だからか、見てて楽しいな)

悪魔役の者や、勇者に騎士役の者たちは本物程の強さはないが、それでも一般人よりは圧倒的に強い。

そして観客席には衝撃などが飛んでいかない様に障壁を張っているので、魔法なども平気で使っている。
ただの一般人からすれば、誰であっても思わず興奮してしまう光景だった。

(勇者や騎士役の人は、どっかの剣術を齧ってる? とにかく、戦闘シーンは見ていて本当に面白いな)

混戦となるシーンでも、役者一人にスポットライトが当たる様に動き、非常に見やすい。

自分で演劇を見ないかと言っておきながら、正直寝てしまうのではという不安はあった。
しかし、異性と一緒に演劇を見に行って寝てしまうなど、愚の骨頂。

睡魔に勝って終わるまで起きていなければ……なんて最初は思っていたが、始まってみればそんな心配はいらず、終始少しワクワクしながら見ていた。
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