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百五十七話 誰も口を開かない

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「まずはこちらがアラッド様がお買いになった物品になります」

「……ふふ、思わずニヤけてしまいますね」

アラッドの前の前にはミスリル鉱石とローズオレッド、魔眼のスキルブックに目玉の商品であるヒヒイロカネが丁重に置かれている。

「見事な競り合いでした。子供ながらにあそこまで大人と張り得るのは、アラッド様しかいないでしょう」

「どうも、ありがとうございます」

鉱石とスキルブックは職員が丁寧に箱へ入れ、アイテムポーチの中へ入れる。

(落札した鉱石にそれなりに金を使ったけど、なんか……鉱石を入れる箱がやたら高そうに感じたな。金を払うべきなのではと思ったぞ)

アラッドはミスリル鉱石などを入れる用の箱に驚いていたが、落札した鉱石の質を考えれば当然の配慮。
寧ろ、適当な箱に入れては無礼行為になる可能性がある。

「それでは次に、奴隷たちを呼びます」

職員が奴隷たちを呼ぶ十秒ほどの間に、司会者を務めた男は気になっていたことを尋ねた。

「その……アラッド様はどういったお考えで彼女たちを購入したのですか?」

司会者の問いに、フールとグラストは厳しい目を向ける……ことはなかった。
何故なら、二人も司会者と同じくアラッドがどういった理由で彼女たちを落札したのか、いまひとつ分からないから。

「訓練相手になりそうだと思ったのと……後はなんとなく、ですね」

なんとなく、事実である同情したからという考えは口に出さなかった。

「な、なんとなくですか。質問に答えて頂きありがとうございます」

職員は奴隷たちを部屋に連れて入り、改めてアラッドは自身が落札した奴隷たちを見た。

(……改めて見ると、あの脂ぎったおっさんたちが熱心になっていたのも分かるな)

エルフの美女姉妹と獣人の兄と妹。最後にハーフドワーフの長身美女。
アラッドとしては本来買うつもりがなかったが、大金を払って買っても損はないと思えた。

「お前たち、こちらの方が主人となるお人だ」

司会者が紹介した人物を目にし、エルフたちはなんとなく自分たちを落札した者が子供だということは分かっていた。
ただ、改めてその事実を確認すると驚かずにはいられなかった。

しかし奴隷たちが驚く中でアラッドはアイテムポーチの中から淡々と金貨一万五千四百六十枚分の金を取り出し、司会者へと渡した。

「それではアラッド様、この者たちとの契約を行いましょう」

「あぁ、よろしく頼む」

専用のスキルを持つ者が作業を行い、五人の奴隷はアラッドの者となった。

「服はサービスしておきます」

「ありがとうございます」

こうしてアラッドが落札した商品の受け渡しを終了すると、今度はフールが空間収納のスキルブックの受け渡しを済ませ、アラッドたちは馬車に乗って屋敷へと戻った。

(……………………なんというか、随分と勢いに任せて買ってしまったな)

落札して彼女たちの主人となった以上、彼女たちの面倒はしっかりとみる。
それはアラッドの中で決心している。

「「「「「…………」」」」」

周囲の者たちから注目されるのは居心地悪いと思い、彼女たちは全員箱の中に入って椅子に座っている。
ただ…………主であるアラッドが話し始めないので、彼女たちもずっと黙ったまま。

フールもこの空気を断ち切るのは自分ではないと思い、口を開かない。

(俺が屋敷にいる間は……俺の専属使用人? みたいな立場になると思うけど、冒険者になる時は一人でスタートしたいからな……母さんに譲るか? 皆強そうだし、母さんはピッタリな訓練相手が出来たと思って喜ぶのは間違いなさそう)

確かにアリサは彼女たちの様な訓練相手ができれば、心の底から喜ぶことは間違いない。

モンスターを倒す機会が少なくなったので、あまりレベルの変動はないが、訓練は基本的に毎日欠かさず行っているので技術面は少しずつだが上昇している。

(まぁ、珍しい訓練相手が出来たと思えば喜ばしい事だよな)

なんて考えつつも、既に空気が重すぎて屋敷に戻るまで誰一人として口を開くことはなかった。
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