上 下
151 / 1,019

百五十一話 困ったら一礼

しおりを挟む
「六十枚!!!」

金貨五十五枚で落札……そう思われた時、一人の声が会場に響いた。

隣に座っている正体を隠したフールとグラストは全く驚いていないが、オークションに参加している者たちは驚きの表情を隠せないでいた。

何故なら……声だけでは分からなかったが、声を発した者の外見は……紛れもなく子供。

両隣りの大人が六十枚と発したのではなく、真ん中の子供が六十枚と宣言したのだ。

「ぐ、ぬぬ……六十五枚!!!!」

六十枚と値を吊り上げた者の外見に驚かされたが、先程五十五枚と宣言した貴族はもう金貨五枚、値段を上げた。

その者にとっては、自分の懐事情を考えてギリギリ上げることが出来る上げ幅。

だが、アラッドにとって落札額を更に金貨五枚ほど上げるなど、容易いことだった。

「七十枚!!!」

同じ少年が値段を更に上げたことで、会場にはどよめきが広がる。
アラッドと競った者は五十五枚の時点でかなりギリギリだったが、無理して六十五枚まで上げた。

だが……さすがに七十枚まで上げられては、手の出しようがない。
ここで七十一枚と上げても、少年が即座に落札額を上げてくるのは目に見えている。

「ぐっ……ここまでか」

ミスリル鉱石を欲しがっていた貴族はここで戦線離脱。

「七十枚、七十枚が出ました!!! よろしいでしょうか……七十枚で決定でよろしいでしょうか……七十枚で決定です!!!!」

司会者が落札決定と宣言すると、アラッドに向かって賞賛の拍手が向けられる。
それはアラッドと競った者も例外ではない。

商品を競り落とした者に拍手の嵐が送られるのは知っていた。
だが、いざ自分がその拍手の嵐を向けられると……どう反応すれば良いのか戸惑ってしまう。

そしてアラッドは一先ず拍手を送ってくれた者たちに対し、一礼をした。

「ふふ、とても堂々としていてカッコ良かったよ」

「私も同意見です」

「……それはどうも」

オークションに参加するというのは初めての経験ではあったが、何故かサラッと……堂々と落札額を宣言することに成功。

(なんでだ? 別に前世でこういった場面に慣れていた訳ではないんだが……もしかして、パーティーやお茶会に参加したから、それで耐性が付いたのか?)

あり得なくはないと思い、納得。

アラッドにとって貴族の令息や令嬢が参加するパーティーや、お茶会に参加するのも同じく緊張する。
だが、そんな状況でもアラッドは意外と堂々と立ち回ることが出来ていた。

(いや、パーティーに関しては家のあれこれを全部ドラングに押し付けて、ただただ美味い料理を食べてただけだったが……まぁ、有難い耐性が付いたと喜ぼう)

本来であれば緊張でガチガチに固まってしまう場面でも、堂々と発言することが出来る。
これはアラッドにとって喜ばしい耐性だった。

その事について表情にこそ出していないが喜んでいると、鉱石や宝石系の品が次々に出品されていく。

ミスリル鉱石を競り落としてからしばらく動かなかったアラッドだが、珍しい鉱石が出品された途端に目がマジモード。

舞台の上に登場した品はローズオレッド。
宝石と変わらない美しさを持つが、武器やマジックアイテムの素材として使える立派で……珍しい鉱石。

珍しいという点だけで考えると、その希少性はミスリル鉱石よりも上。

あっという間に先程アラッドがミスリル鉱石を競り落とした金貨七十枚という額を追い越し、百枚……つまり、白金貨一枚まで競り上がった。

(……やはり欲しいな)

希少な鉱石であるということは知っている。
この機会を逃せば、中々手に入らないかもしれない。

というわけで、勿論ローズオレッドを競り落としにいく。

「百十枚!!!」

ここであっさりと白金貨一枚を超える値段を宣言し、再びアラッドに視線が集まる。
だが、先程とは状況が違い、ローズオレッドを手に入れる為であればもっと金を使っても良いという猛者がいた。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

元聖女だった少女は我が道を往く

春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。 彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。 「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。 その言葉は取り返しのつかない事態を招く。 でも、もうわたしには関係ない。 だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。 わたしが聖女となることもない。 ─── それは誓約だったから ☆これは聖女物ではありません ☆他社でも公開はじめました

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

おばあちゃん(28)は自由ですヨ

美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。 その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。 どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。 「おまけのババアは引っ込んでろ」 そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。 その途端、響く悲鳴。 突然、年寄りになった王子らしき人。 そして気付く。 あれ、あたし……おばあちゃんになってない!? ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!? 魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。 召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。 普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。 自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く) 元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。 外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。 ※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。 ※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要) ※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。 ※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

処理中です...