上 下
119 / 1,019

百十九話 金を取れる死合

しおりを挟む
「……凄いな」

あと半日もあればお茶会が開催されるグスタフ公爵が治める街まで辿り着くというところで、アラッドたちの前に二体のモンスターが現れた。

ただ、その二体のモンスターは決してアラッドたちに向かって襲い掛かる訳ではなく、二体同士が争い合っていた。
護衛の騎士たちから事情を聞いたアラッドは馬車から降り、その光景を観ていた。

(戦っているモンスターがモンスターだから、迫力が凄いな)

いきなりアラッドたちの前に現れた二体のモンスターはリザードとワイルドグリズリー。
四足歩行のドラゴンと大型のクマが周囲を気にすることなく全力で殺し合っている。

「俺達の方に全く気付きませんね」

「そうだね。もしかしたら……どちらかが仲間、もしくは伴侶を殺されたのかもしれないね」

「殺した側は逃げ切るのは不可能だと判断して、戦闘に応じた……そんなところですか?」

「もしかしたら、そうかもしれないって話だよ」

実際にフールとアラッドは何故リザードとワイルドグリズリーの二体が本気で争っているのか、理由は全く分からない。

しかし比較的大型モンスターである二体のガチバトルを見れるのは非常に楽しい。
攻撃がアラッドたちに飛んできたとしても、今揃っている面子を考えれば躱すか弾く。
余裕で対処することが可能。

(今この状況であいつらに攻撃をすれば、余裕で倒せそうだけど……やっぱり勿体ない)

アラッドは自身が戦うのは勿論好きだが、他者同士の戦いを観るのも楽しみの一つ。
目の前で繰り広げられる戦いを部外者である自分たちが終わらせるのは……非常に勿体ない。

それはアラッドだけの考えではなく、この場にいる全員が同じ事を考えていた。

(二体のランクは同じC。体型は違うけど、どちらが有利ってのは……なさそうだな)

仮に、ワイルドグリズリーが人と同じ様な考えを持ち、同じ様な動きをするのであれば話は変わってくるが、そのような希少な個体ではない。

ただただ己が勝つためだけの力のすべてを出し、目の前の敵を殺そうとする。
道中に現れる前にかなり戦っていたため、二体は既に多くの傷を負っていた。

しかしそれでも二体の攻防は衰えることなく、寧ろ激しさを増していく。
リザードのブレスに対してワイルドグリズリーは爪を全力で振り下ろし、爪斬を与える。
だが、ブレスは完全に消すことが出来ずに毛を焦がす。

重たい尾による一撃を腹に食らうが、耐え切った瞬間に尾を掴んで地面に叩きつける。
爪撃に対して爪撃で迎撃。

少しでも戦いに興味がある者であれば、この戦いを観る為に金を払っても構わないと思ってしまう。
実際、二体の戦いを観ているアラッドたちは金を払ってでも見る価値がある戦いだと感じていた。

「そろそろ、ですよね」

「あぁ、そうだね。そろそろ終わりそうだ」

観客達に好勝負だという感想を持たせた二体だが、着々と決着の時が近づいてくる。
そして最後の最後にリザードが放った渾身のブレスを突進で受け切り、ワイルドグリズリーの重厚な爪撃が頭に振り下ろされ……二体の戦いは幕を閉じた。

確実に相手を潰し、勝利を確信したワイルドグリズリーは勝利の雄叫びを力の限り叫んだ。
そして……何故か周囲から拍手の音が聞こえた。

「???」

アラッドたちは良いものを観せてもらったという感謝の意を込め、二体に拍手を送った。
だが、そんなアラッドたちの考えなどワイルドグリズリーが解るわけがない。
加えて拍手音が耳に入ったことで初めてアラッドたちの存在に気が付いたワイルドグリズリーの頭に浮かんだ思いは……続いて敵が現れた。
ただそれだけであった。

知識として、目の前の人間という生き物は自分たちを狩ろうとする存在。
そもそもワイルドグリズリーは拍手という行為を知らず、アラッドたちの眼や表情を見ても何を考えているのか分からない。

しかし基本的に自分の敵だという知識は頭に入っているので、直ぐに戦意を復活させてアラッドたちに襲い掛かった。

「その状態じゃあな」

ワイルドグリズリーは殺る気満々という状態だが、現在の体は万全という状態からほど遠い。
あまり集中力もなく、自分の首周りにいきなり何かが現れたという事実も察知出来ず、魔力を纏ったスレッドサークルによって首を斬られた。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

元聖女だった少女は我が道を往く

春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。 彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。 「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。 その言葉は取り返しのつかない事態を招く。 でも、もうわたしには関係ない。 だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。 わたしが聖女となることもない。 ─── それは誓約だったから ☆これは聖女物ではありません ☆他社でも公開はじめました

殿下、恋はデスゲームの後でお願いします

真鳥カノ
ファンタジー
気付けば乙女ゲームの悪役令嬢「レア=ハイラ子爵令嬢」に転生していた! いずれゲーム本編である王位継承権争いに巻き込まれ、破滅しかない未来へと突き進むことがわかっていたレア。 自らの持つ『祝福の手』によって人々に幸運を分け与え、どうにか破滅の未来を回避しようと奮闘していた。 そんな彼女の元ヘ、聞いたこともない名の王子がやってきて、求婚した――!! 王位継承権争いを勝ち抜くには、レアの『幸運』が必要だと言っていて……!? 短編なのでさらっと読んで頂けます! いつか長編にリメイクします!

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

処理中です...