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四十九話 その時まで忘れないように

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「……相変わらずの魔力操作ですね」

「グラストさん……何か用ですか? もしかして模擬戦の相手になってくれるんですか?」

「そうですね。少し話してから模擬戦にしましょうか」

宙にいくつも魔力の塊を違う大きさや、形でふよふよで浮かべているアラッドの元にグラストがやって来た。

「……クロも真似をしているのですね」

「軽く教えたら魔力の球体を複数浮かべるのは直ぐに出来たんだよ。その先はまだこれからだけど」

先日アラッドにコボルトの上位種から助けてもらい、従魔となったクロはアラッドの様に魔力を宙に浮かべて徐々に形を変えようとしていた。

だが、アラッドと違ってその表情に余裕はなかった。

「そうですか……アラッド様が鍛えるなら、いずれブラックウルフから違う種族に進化するかもしれませんね」

「違う種族に進化、か……それは楽しみですね」

頭にポ〇モンが浮かび、本当に進化するならこれからが楽しみで仕方ない。

「モンスターは戦闘を経験する度に私たちと同じく成長します。一説には魔石を食べると進化する手助けになるらしいですよ」

「へぇ~~~、それなら今度から倒したモンスターの魔石は珍しいやつ以外、クロに食べさせた方が良さそうですね」

クロがどういった種族に進化するのか。
色々と予想出来るが、アラッドが予想しない方向に進化する可能性もある。

(今のところ魔石を使った何かを作るほど錬金術の腕は高くないからな)

空いてる時間を使ってポーション造りを行っているが、アラッド的にはまだギーラスに買ったピアスや腕輪の様なマジックアイテムを造るのは早いと思っている。

実際のところは造り始めても特に問題無いのだが、決して全てが上質な一品になるとは限らない。

(錬金術はそれなりに好きだから、いずれはギーラス兄さんに買った色襲の警鈴や邪破の指輪みたいなマジックアイテムを造りたいと思ってるけど……道は長そうだな)

金ならたんまりあるので、高価な素材も自腹で買える。
しかし、せっかく良い素材を使うならしっかり素材の力を活かした一品を造りたい。

「そういえば、ドラング様がフール様にドラゴンの卵を買ってほしいと頼んだらしいですよ」

「……えっ、ドラゴン?」

突然の情報に動揺し、思わず魔力の塊を落としそうになるが、ギリギリセーフ。
だが、頭の中は何故? という疑問で埋め尽くされていた。

「どうやらアラッド様がブラックウルフを従魔にしたのを羨ましく感じた。あと、自分と更に差が開いたと感じたのでしょうね」

「あ、あぁ~~~、なるほど。そういうことか……いや、でもドラゴンの卵ってちょっとぶっ飛び過ぎじゃないか? せめて頼むならワイバーンの卵とかだと思うんだけど」

「ワイバーンの卵でも良いから欲しいと申したようですが、フール様は無理だときっぱり断ったようです」

「まぁ、そうなりますよね」

子供にそこまで厳しくないフールだが、諸々の可能性を考えたうえで買い与えるわけにはいかないと判断した。

「確かに竜騎士にはロマンを感じますけど、食べられる可能性だってありますよね」

「生まれたてでも接し方を間違えれば、そうなってしまう可能性はあります」

グラストの友人の友人は実際腕を食い千切られてしまったので、あまりドラゴンを従魔にしようとするのは賛成できない。

「それにしても無謀な頼みですよね。冒険者にドラゴンの卵を取ってきて欲しいと依頼するにはかなりの報酬金額を用意しないと受けてくれないですよね」

「ドラゴンと戦闘になる可能性がありますからね。ワイバーンはCランクですが、本気で暴れ始めると討伐難易度はBランクのモンスターと変わらないでしょう。そして属性持ちのドラゴンは最低Bランク以上です。そもそもそんな依頼を受けてくれる冒険者やクランがいるのか微妙なところです」

「ですよね……ドラングが森に入る許可が降りたら、護衛の隙を突いてドラゴンの卵を探しに行ったりしませんよね?」

少々猪突猛進な部分があるが、さすがにそんなことはしないだろう。
そう思っていたが、グラストの話を聞いてもしかしたらという不安が浮かんできた。

「さすがにそれは……ない、とは言い切れませんね。その時までしっかり可能性として覚えておきましょう」

グラストもそんなことは起らないと思いたいが、ドラングがアラッドをライバル視している点を考えれば、絶対に無いと断言はできなかった。
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