上 下
47 / 1,019

四十七話 その差を補うために

しおりを挟む
アラッドにブラックウルフを従魔にした方法を尋ね、別れた後……ドラングは真っ先にフールの執務室に向かった。

「随分と真剣な表情だね。何か頼み事でもあるのかい?」

「…………はい」

いつもより真剣な表情をしている。
親子なので、直ぐにそれは見抜いた。

(どんな頼みかな……もしかして新しい剣を勝ってほしいとかかな? 毎日頑張って鍛錬を続けてるし、それぐらいなら良いかな)

アラッドの様な効果が付与されている剣はまだ早いが、一般的な真剣であれば買ってあげても良いかなと思ったフールだが、ドラングからの頼みごとは予想していた内容よりも遥か上だった。

「父さん……ドラゴンの卵が欲しいです」

「…………すまない、ドラング。ちょっと疲れてるみたいだ。もう一度言ってくれないか」

「分かりました。父さん、ドラゴンの卵が欲しいです」

あまりにも真剣な表情でぶっ飛んだ頼み事をされ、フールは思わず上を向いて目を閉じてしまった。

(聞き間違えでは無かったね。確かにドラゴンの卵が欲しいと言った……えっ、なんで?)

突然の申し出にフールの思考はまともに機能しなくなった。

(ドラングの目標って竜騎士になることだっけ? 確かアラッドに一対一の勝負て勝つことだったよね……あっ、そういうことか)

アラッドに勝つ。そのワードでドラングが何故ドラゴンの卵が欲しいと言い出したのか解かった。
解ったが……さすがにそんなほいほい用意できる物ではない。

「ドラング、ドラゴンのランクは基本的にB以上だ。卵が置かれている巣にはだいたい雌のドラゴンが卵を纏っている。暴力に身を任せて暴れるドラゴンも恐ろしいけど、子を守るために戦うドラゴンを恐ろしいんだ」

「……属性のドラゴンとは言いません。ワイバーンの卵でも良いです」

「はぁーーーーー……仮にCランクのワイバーンであっても、逆鱗に触れたドラゴンは本当に恐ろしいんだ。容易に兵や騎士を使って取って来ることは出来ない」

「なら、冒険者ギルドに依頼を出せば」

「かなりの金額が必要になる。冒険者は依頼を受けて生き残ってこそ意味がある。ドラゴンの卵を回収して届ける……ワイバーンの卵であっても、途中で孵化してしまう可能性等を考えれば、受けようと思う冒険者は少ない」

高ランクの冒険者であっても、ドラゴンの巣から卵を取ってきて欲しい。
そんな依頼を簡単に受けようとはしない。

内容が卵を取ってきて欲しいという内容であれば、フールの言う通り届けるまでに孵化させる訳にはいかない。
届けるまで他のモンスターに襲われて卵を駄目にするわけにはもいない。

その他の可能性も考えると、白金貨単位で報酬を出しても受けようとしてくれるパーティーやクランは少ない。

「でも、大金を出せば受けるパーティーは絶対にある筈です!!!」

「……大金を出せば、確かに受けるパーティーはいるかもしれない。だが、そんなお金をドラングに出せるのか?」

「うっ……こ、これから十年はその……誕生日プレゼントは、いりません。だから、お願い致します!!」

アラッドは己の力でブラックウルフを従魔にした。
単体ですら劣っているのに、新たな力を義理の兄は手に入れたのだ。

その差を補うためには単純明快、ドラゴンを従魔にすればいい。
そんな浅はかな考えに至ってしまった。

「さ、最近パーシブル家に入って来る収入が上がったと聞きます。だから、お願いします!!!」

「どこからそんな情報を得たのか……」

確かにパーシブル家はここ半年で懐に入って来る金は多くなった。
だが、それに関しては明確な理由があり……身内にその幸運をもたらした人物がいる。

(ドラゴンの卵……ワイバーンの卵を取って来るぐらいの依頼なら、確かに依頼金として問題なく出せるぐらい収入は増えている)

ただ……それは全てリバーシを作ったアラッドのお陰。
それを一人の私利私欲の為に使うわけにはいかず……いや、少しなら使っても構わない。

だが、ドラゴンの卵を取って来るという内容の依頼を冒険者ギルドに頼むには、それなりの報酬金額を用意しないければならない。

しかし、フールがドラングの頼みを受けようと思わないのは他にも理由があった。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

元聖女だった少女は我が道を往く

春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。 彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。 「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。 その言葉は取り返しのつかない事態を招く。 でも、もうわたしには関係ない。 だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。 わたしが聖女となることもない。 ─── それは誓約だったから ☆これは聖女物ではありません ☆他社でも公開はじめました

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

おばあちゃん(28)は自由ですヨ

美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。 その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。 どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。 「おまけのババアは引っ込んでろ」 そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。 その途端、響く悲鳴。 突然、年寄りになった王子らしき人。 そして気付く。 あれ、あたし……おばあちゃんになってない!? ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!? 魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。 召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。 普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。 自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く) 元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。 外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。 ※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。 ※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要) ※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。 ※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

処理中です...