5 / 1,006
五話 それは格を下げる発言となる
しおりを挟む
騎士長、グラストの予想では二人の模擬戦はそれなりに長引くと思っていた。
日頃から鍛錬を重ね続けているアラッド。
五歳の誕生日に剣技のスキルを手に入れ、最近は今までより剣術の稽古に意欲的なドラング。
まだ二人が五歳ということもあり、そこまで大きな差はないと考えていた。
騎士として贔屓目なしの眼で予想し、六対四でアラッドがやや有利。
そう思っていたが……結果は大きく覆された。
グラストが模擬戦開始の合図を行ったと同時に身体強化のスキルを発動し、拳と脚に魔力を纏った。
そして一瞬でドラングとの距離を詰め、あばらに重い拳がめり込んだ。
(俺はアラッド様の実力を甘く見ていたようだ)
普段はあまり兵士たちと模擬戦を行うことはなく、ロングソードを扱う際の注意点などを聞いてひたすら素振りや素手によるシャドーを行う。
魔力操作の訓練も重点的に行っているのは知っていた。
だが……それでもここまで圧倒的な結果になるとは思っていなかった。
(流れるような動作で魔力を部分的に纏い、ドラング様が反応出来ない速度で懐に潜り、一撃を入れた……圧倒的過ぎる)
現在、長男であるギーラスや次男のガルア、長女のルリナを含めて全員が戦闘訓練を日常的に行っている。
その中でもルリナとガルアはアラッドの四つ上で、現在九才。
普通に考えて才能があったとしても、五歳児が九歳の子供に勝つのは不可能に近い。
その筈なのだが、グラストは二人がアラッドに勝てるビジョンが浮かばなかった。
(さすがにギーラス様と戦えば、勝つのはギーラス様だが……ルリナ様とガルア様には高確率で勝利する可能性が高い。まさに傑物)
二人の模擬戦を観ていた三人もまさかの光景に驚かざるを得なかった。
三人ともアラッドがやや有利な戦況になると思っていたが、ふたを開けてみればアラッドの圧勝。
勝った本人は特に勝利を喜ぶことはなく、訓練場から出て行った。
「はぁ、はぁ、はぁ……クソっ!!!! あの野郎……どこにいった!!!!」
「アラッド様は訓練場から出て行きました。そしてドラング様、今のは油断していたから直ぐに再戦を行う、とは口にしない方がよろしいかと。油断している隙を突いた、それは立派な戦術です。それを理由に再戦を申し込もうとすれば、それはドラング様の格を下げる行為になります」
「うぐっ!!! …………クソッ!!!!!!!!」
先にグラストが全て話したことで、ドラングがアラッドに無茶な理由で再戦を申し込むことはなかった。
ドラングはグラストが真剣に自分のことを考えて発言したのだと子供ながらに解り、ギリギリのところで理性が勝ち、直ぐにアラッドに勝負を挑もうとは思わなかった。
(ドラング様が決して弱いのではない。寧ろ同年代の子供と比べれば格上の存在になるだろう……だが、今のアラッド様とはあまりにも差が大きい)
今回の模擬戦で、アラッドはパンチという攻撃方法しか使用しなかった。
アラッドは既に剣技のスキルを習得しており、糸というエクストラスキルという切り札もある。
そして魔法の才も並ではなく、魔法という攻撃手段もある。
(平行発動できるかどうかは解らないが、仮に……もし仮に平行発動を習得していれば、今のドラング様には全く勝機がない)
この世界では魔法を発動する際に、詠唱は必要ない。
だが、発動するまでに威力相応の時間が必要。
そして魔法を使い慣れていなければ、集中して魔法を使わなければ上手く発動しないので、基本的にその場から動けない。
しかし器用な者、もしくは根性と努力で慣れてみせた者は動きながら魔法を発動することができ、その技術を平行発動と呼ぶ。
五歳児が平行発動を習得したという記録はないが、グラストはアラッドならもしかしたらと思ってしまった。
「あれね、瞬殺だったわね」
「そうだね。もっと接戦になると思ってたけど、まさかこんな結果になるなんてね……血の繋がった兄であるガルアとしてはやっぱり悔しいかい?」
「……いや、あんまりだな。模擬戦が始まる前はドラングに勝ってほしいなって思いはあったが、結果を見たら可能性が全くないと解ってしまった」
ギーラスは五歳の誕生日にドラングと同じく剣技のスキルを手に入れ、ルリナは細剣技。ガルアは槍技のスキルを手に入れた。
三人の仲は悪くなく、それなりに良好といえる関係だった。
日頃から鍛錬を重ね続けているアラッド。
五歳の誕生日に剣技のスキルを手に入れ、最近は今までより剣術の稽古に意欲的なドラング。
まだ二人が五歳ということもあり、そこまで大きな差はないと考えていた。
騎士として贔屓目なしの眼で予想し、六対四でアラッドがやや有利。
そう思っていたが……結果は大きく覆された。
グラストが模擬戦開始の合図を行ったと同時に身体強化のスキルを発動し、拳と脚に魔力を纏った。
そして一瞬でドラングとの距離を詰め、あばらに重い拳がめり込んだ。
(俺はアラッド様の実力を甘く見ていたようだ)
普段はあまり兵士たちと模擬戦を行うことはなく、ロングソードを扱う際の注意点などを聞いてひたすら素振りや素手によるシャドーを行う。
魔力操作の訓練も重点的に行っているのは知っていた。
だが……それでもここまで圧倒的な結果になるとは思っていなかった。
(流れるような動作で魔力を部分的に纏い、ドラング様が反応出来ない速度で懐に潜り、一撃を入れた……圧倒的過ぎる)
現在、長男であるギーラスや次男のガルア、長女のルリナを含めて全員が戦闘訓練を日常的に行っている。
その中でもルリナとガルアはアラッドの四つ上で、現在九才。
普通に考えて才能があったとしても、五歳児が九歳の子供に勝つのは不可能に近い。
その筈なのだが、グラストは二人がアラッドに勝てるビジョンが浮かばなかった。
(さすがにギーラス様と戦えば、勝つのはギーラス様だが……ルリナ様とガルア様には高確率で勝利する可能性が高い。まさに傑物)
二人の模擬戦を観ていた三人もまさかの光景に驚かざるを得なかった。
三人ともアラッドがやや有利な戦況になると思っていたが、ふたを開けてみればアラッドの圧勝。
勝った本人は特に勝利を喜ぶことはなく、訓練場から出て行った。
「はぁ、はぁ、はぁ……クソっ!!!! あの野郎……どこにいった!!!!」
「アラッド様は訓練場から出て行きました。そしてドラング様、今のは油断していたから直ぐに再戦を行う、とは口にしない方がよろしいかと。油断している隙を突いた、それは立派な戦術です。それを理由に再戦を申し込もうとすれば、それはドラング様の格を下げる行為になります」
「うぐっ!!! …………クソッ!!!!!!!!」
先にグラストが全て話したことで、ドラングがアラッドに無茶な理由で再戦を申し込むことはなかった。
ドラングはグラストが真剣に自分のことを考えて発言したのだと子供ながらに解り、ギリギリのところで理性が勝ち、直ぐにアラッドに勝負を挑もうとは思わなかった。
(ドラング様が決して弱いのではない。寧ろ同年代の子供と比べれば格上の存在になるだろう……だが、今のアラッド様とはあまりにも差が大きい)
今回の模擬戦で、アラッドはパンチという攻撃方法しか使用しなかった。
アラッドは既に剣技のスキルを習得しており、糸というエクストラスキルという切り札もある。
そして魔法の才も並ではなく、魔法という攻撃手段もある。
(平行発動できるかどうかは解らないが、仮に……もし仮に平行発動を習得していれば、今のドラング様には全く勝機がない)
この世界では魔法を発動する際に、詠唱は必要ない。
だが、発動するまでに威力相応の時間が必要。
そして魔法を使い慣れていなければ、集中して魔法を使わなければ上手く発動しないので、基本的にその場から動けない。
しかし器用な者、もしくは根性と努力で慣れてみせた者は動きながら魔法を発動することができ、その技術を平行発動と呼ぶ。
五歳児が平行発動を習得したという記録はないが、グラストはアラッドならもしかしたらと思ってしまった。
「あれね、瞬殺だったわね」
「そうだね。もっと接戦になると思ってたけど、まさかこんな結果になるなんてね……血の繋がった兄であるガルアとしてはやっぱり悔しいかい?」
「……いや、あんまりだな。模擬戦が始まる前はドラングに勝ってほしいなって思いはあったが、結果を見たら可能性が全くないと解ってしまった」
ギーラスは五歳の誕生日にドラングと同じく剣技のスキルを手に入れ、ルリナは細剣技。ガルアは槍技のスキルを手に入れた。
三人の仲は悪くなく、それなりに良好といえる関係だった。
273
お気に入りに追加
6,098
あなたにおすすめの小説
転移したらダンジョンの下層だった
Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。
もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。
そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。
妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
私のスキルが、クエストってどういうこと?
地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。
十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。
スキルによって、今後の人生が決まる。
当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。
聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。
少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。
一話辺りは約三千文字前後にしております。
更新は、毎週日曜日の十六時予定です。
『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。
魔☆かるちゃ~魔王はこたつで茶をすする~
浜柔
ファンタジー
魔王はダンジョンの奥深くでお茶をすすりながらのんびり暮らしている。
魔王は異世界の物を寸分違わぬ姿でコピーして手許に創出することができる。
今、お気に入りはとある世界のとある国のサブカルチャーだ。
そんな魔王の許にビキニアーマーの女戦士が現れて……
※更新は19:30予定
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~
平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。
しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。
カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。
一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる