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千九十話 吠える暇があるなら

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「ガァアアアアッ!!!!!」

「ッ、ふぅーーーー……っ」

ミレアナは動いた。

動いて動いて……動いた。
ただ、雷竜が放つ攻撃を対処するだけで、反撃はしない。

最初は強化系のスキルを使用し、旋風を纏って更に強化していた。
しかし、途中から旋風を纏わず、必要な時だけ魔力を纏って、迫る雷爪や雷尾をいなす。

(……我ながら、バカな事をしてますね)

戦いは嫌いではない。
ソウスケやザハーク程ではないが、戦いを楽しんでいる自分がいることは解っていた。

それでも……わざわざギリギリ攻めたり、相手の戦力に合わせて自身の身体能力を下げるような真似はしなかった。

(っ、雷竜もまだ全力を出しては、いませんでしたか)

ミレアナが旋風を解除してから数十秒後、誤差の範囲ではあるが、雷竜の移動速度が増した。

当れば無視出来ないダメージを食らってしまうと解っている。
それはしっかり理解しているので……把握力を高め、変わらずギリギリで回避する。

「~~~~~~~~~~ッ!!!!!」

躱され、躱され、いなされ、また躱されて……そんなミレアナの行動に苛立ちを隠せなくなった雷竜。

自分に戦いを挑んできた。
そういった意志を向けている筈なのに、何故か避ける、いなすだけで攻撃してこない。

ドラゴンである雷竜は他のモンスターと比べて大なり小なり差はあれど、知能がそれなりに高い。
自分に挑んできた人物が、結果として逃げたり避けたり防いだりといった選択肢しか取れないのと、ただ攻める気がなく避けていなしているだけの差は感じ取れる。

その差は、表情を見れば一目瞭然。
攻められるチャンスがないと感じ、避けたり防ぐことしか出来てない敵対者は、人間であろうとモンスターであろうと、表情に焦りが浮かんでいる。

だが……今現在自分と戦っているエルフは、戦意こそ感じても、表情は至って冷静。
ギリギリで雷爪を、雷尾を躱そうとも、顔に焦りが欠片も浮かぶことはない。

ミレアナは、決して雷竜を嘗めるような表情は浮かべなかった。
それでも、雷竜がそう感じるのも無理はなく……苛立ちが頂点に達した雷竜は上空に飛び上がり、雷のブレスを放とうとした。

そうすれば、逃げ場はなく倒すまではいかずとも、ダメージは与えられるだろうと。

「それはいけませんね」

「っ!!!???」

上空に移動する……その行動だけで雷竜が何をしたいのか察したミレアナ多数のウィンドアローを放った。

Aランクの領域に足を踏み入れようとしている雷竜であれば、大したダメージを食らうことはなく、ただチクチクとした痛みを感じるだけで済む。

ただ、狙われた場所が顔というのが良くなかった。

まだ雷のブレスを放つ準備が出来ておらず、顔に攻撃が飛来すれば、反射的に躱そうとするのはドラゴンも変わらなかった。

「では、そろそろ戦りましょうか」

多数の風矢を反射的に躱そうとする。
その短い動作があれば、跳躍して雷竜の上を取るのは十分。

「フッ!!!!!!!」

「がっ!!!!!?????」

いきなり背中を蹴られた雷竜は宙で止まらず、勢い良く地面に激突し、何本かの木々を破壊。

「ッ、ギィィィィイイアァアアアアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!!!」

「吠えてる暇があるなら、攻撃してください」

「っ!?」

やりたい事をやらせてもらえず更に怒りが溜まり、声を荒げることで少しでも発散しようとしたが、痛烈な言葉と共に多数の風槍が襲い掛かる。

一般的な冒険者や騎士であれば、先程の咆哮に気圧されていた。
戦意喪失とはいかずとも、圧されてほんの数瞬だけ動きが止まってしまってもおかしくない。

「ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!」

「そうです。そうしてください」

ミレアナは、未だに弓や短剣を手にしてない。
それでも先程までとは違い、再び旋風を纏い、連続で攻撃魔法を発動。

アップは終わり、ミレアナにとってようやく本番の始まりだった。
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