転移したらダンジョンの下層だった

千十八話 受ける訳ないだろ

「ソウスケさん、中で何かあっただろ」

「あぁ、あったぞ」

外で待機していたザハークだが、中で何が起こっていたかは薄っすらと把握していた。

「また調子に乗った面倒な奴に絡まれていたのか？」

「……今回に関しては、まず俺の方が調子に乗ってるって思われたんだろうな」

「それはどういう事だ？」

「ドラゴニックバレーへ向かう正確なルートを尋ねたんだ。経験豊富で実力もあるベテランや、トップクラスの実力を持つ冒険者たちでさえ中々足を運ぼうとは思わない場所……そんな場所を尋ねれば、そのガキは調子に乗ってる様に見えるんだろ」

冷静に、落ち着いて考えれば、ソウスケは自分に絡んで来た元チャラ男などの気持ちなどは……一応理解出来なくはない。

理解出来なくはないが、納得するつもりも受け入れるつもりもない。

では、逆に自分がそうされたらどう思うのだ？　と尋ねたいものだが、彼らはどう頑張ってもソウスケの立場に立つことは出来ないのだ。
故に……ソウスケは元チャラ男たちの考え、気持ちを一応理解出来たとしても、その逆は不可能に近い。

「ふむ。それは…………そう、思ってしまうものか？」

「おっ、ザハークにしては冷静だな」

「深く……自分とは違う立場に立ってみて考えただけだ。とはいえ、どうせなら俺が殴りたかったとは思うがな」

「ははは、絶対に死んでしまうから止めてくれ」

「そうか？　俺も最近は上手く手加減出来るようになってきたと思うぞ」

確かにザハークはオーガの希少種となった頃と比べ、本当に上手く手加減が出来るようになってきた。

それは間違いないのだが、ソウスケに対して暴言を吐いたり侮辱するような輩に対しては、当然怒りが湧き上がってくる。
怒りという感情は手加減という手心……ブレーキを壊す役目を無意識に果たすため、ザハークは手加減したつもりであっても、うっかり殺してしまうことは絶対にないとは言えない。

「俺をバカにした相手がフルガードしてたら、半殺しで済むかもしれないな」

「ソウスケさん、ザハークの場合……いえ、私も含めて本能的に相手のガードが間に合う前に攻撃してしまうかと」

「あぁ…………うん、それは良いことではあるな」

実戦において、相手の体勢が整う前に倒してしまうのは全く悪い事ではなく、寧ろ出来るなら是非そうしろと推奨される技術。

それを無意識で行えてしまうなど……素晴らしいことこの上ない。
だが、やはりザハークの拳やミレアナの蹴りが相手の意識の隙間を縫って放たれれば、今回一番先に絡んで暴言を
吐いてきたチャラ男程度の実力者であれば……運良くて一割。
低確率ではあるが、生き残れる可能性はある。

殺してしまうのはさすがにマズいが、先に決闘という形にしてしまえば、不慮の事故として片づけられる。

これから先、グレンゼブル帝国での冒険を少しでも楽しく冒険するために、ソウスケは今回の戦いで敢えて……怒らせたらこうなるんだよという恐怖を同業者たちに与えた。

髪の毛を殆ど抜き、まつ毛も全て抜いてしまう。
この世界にも……一応育毛剤の研究をしている者はいるが、実用化しているかどうか……そもそもあの元チャラ男がそこまで辿り着くか分からない。

だが、そういった強烈な嫌がらせをするよりも、ただただ残酷でリアルで強烈過ぎる恐怖……死を見せれば、更に同業者たちはソウスケを恐れたかもしれない。

「俺としては、殺意が全力で湧き上がるほどの暴言を吐かれたりしない限り、さすがに同業者を殺そうとはしないよ」

「ソウスケさんは相変わらず心が広いな……しかし、ダンジョン内で仕掛けられたらどうするんだ？」

「その時は怒りや殺意云々関係無しに殺すよ。どんな理由があろうと、仕事中に……冒険中に殺そうとしてきたら、礼儀としてきっちり殺すよ」

殺る時は殺る。
その覚悟も相変わらず決まっている。

堂々と殺す時は殺すと宣言したソウスケ。
その横顔に見惚れるミレアナ。

この後、三人は少しだけ街に泊まったが……その間に冒険者ギルドの方から是非ともルーキーたちに指導を！！！！　と頼まれたが、ソウスケは良い笑顔で「お断りさせていただきます」と返し、街を出た。