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九百九十三話 知らないからこそ

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「私は貴族の内部事情を詳しくありません。なのであまりこういう事を口にするのはよろしくないのは解っていますが、人というのは……自分の何かを守るために、自分と関係が無ければ平気で命を奪う可能性があります」

これから話すのは、あくまでミレアナが考えた妄想である。
それが確実に事実となる保証はない。

「アネット様の存在を邪険に感じた者たちが結託し、アネット様が派遣された任務で……わざと守るべき存在を亡き者にするかもしれません」

「っ!!」

普通に考えて、国に仕える者たちの中に、そういった者はいないと否定しなければならない。

だが、アネットも王族。
幼いながらに人は、権力者にはそういった部分があると解っていた。

「そういった愚か者が現れないようにするためにも、どこかの部隊に所属する際には上に、そして同じ部隊に仲間……とまでは言わずとも、完全な中立的立場を保って行動し、意見してくれる人物が必要かと」

下手に口が回る者ほど、アネットがどの様な心で、覚悟で一人の魔術師として仕事に臨もうとも……陰口はいくらでも出てくる。

その度にそうではないと、正しい意見をバカどもにぶつけてくれる者がいなければ……少なくとも、バカ共が際限なく増え続けてしまう。

「……そこまで心配してくれて、ありがとうございます」

「恐れ入ります」

下手に戦場に出なければ、蝶よ花よと手厚く守られ続ける。

戦場に出たからには……他と同じ立場で動かなければ、遊びではないのだと示す事が出来ない。

「使える物はなんでも使い……今の内から、正しく動き続けるようにしなければなりませんね」

そう……王女であれば、そこら辺に貴族の当主よりも金を使える。
国民の血税ではあるが……そこは王女。
王も基本的に娘が可愛い。

そんな娘が将来の為、いずれは国の為とお願いすれば……どういった理由で断れるか。

頼み事の理由を考えれば更に断りたくなるところだが、もう娘であるアネットの心は固まっている。


「なぁ、ソウスケさん」

「なんだ、ザハーク」

「アネット様は……どういった道を行くと思う」

「……あれだな、随分とアネット様を気にかけてるんだな」

馬車の外で護衛として歩いている二人は……しっかりと護衛として話しながらではあるが、周囲に敵らしき気配はいないか探っている。

「いや、ただ単純に興味があるだけだ。あれほど優れた才を持つ者が……その才を活かす道に進むのか、それとも全く活かさない道に進むのか……」

「なるほど。まぁ、どの道に進のもアネット様の自由ではあるからな。今はモンスター、もしくは悪人? と戦う立場に進むことを熱望してるみたいだけど……そもそもそれを父親である国王陛下が許すかどうか分からない」

「…………あれか、父親は娘を危ない道に進ませたくない心理、という奴か?」

「基本的にそういう真理だろうな」

まだまだ娘どころか子供を育てる予定もないソウスケだが、頭の中で想像すれば……それとなく世の中の娘を持つ父親たちの気持ちが解らなくもない。

「……だが、あの国王は頭が堅そう、というイメージはなかったがな」

国王対し……あの、と付けて呼ぶのは騎士たちの前でアウトでは? と思われるが、第三騎士団の騎士たちは二人がここ最近行われた戦争の英雄であり、その実力が確かなものであると解っているため、敢えてツッコまなかった。

「イメージだけでは解らないところもあるだろ。あの場ではザ・国王陛下として振舞われていたかもしれないが、本当は超子煩悩で愛妻家かもしれないだろ」

「「「「「ブっ!!!!」」」」」

彼女たちは……決して国王のプライベートでの顔を知っているわけではない。
ソウスケやザハークと同じく、国王陛下として厳格な雰囲気、姿は知っている。

ただ……その姿だけしか知らないということもあって、ソウスケが口にした内容を想像してしまい……失礼だと解っていながら、耐え切れずに思いっきり吹き出してしまった。
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