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九百六話 他言無用

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(……あのモンスターが、ボスではない理由は、なんなのですか!)

現在、アマンダたちがいる階層は五十七階層。
ソウスケとミレアナは慣れているとはいえ、アマンダたちは高速で移動し続けるのは慣れていない。

それでも……二人のサポートもあって、中々の速さで五十五階層を突破。

しかし、ダンジョンとは冒険者たちを……挑戦者たちを誘惑し、寸でのところで潰して食べてしまう。
それを表すが如く、五十七階層で数体のBランクモンスターを倒した直後……一体の巨狼が襲い掛かった。

「お前の相手は、俺だッ!!!!!!!」

その襲撃者にいち早く反応したのはアマンダのサポート、もしくは護衛のソウスケ。

こいつが相手では……手札を隠すのは愚の骨頂。
そう判断したソウスケはブロウスを取り出し、雷光となり、戦場を駆け、互いの牙をぶつけ合う。
その上で……要所要所で蛇腹剣を使用。

特殊な、人が得られないスキルを使うのではなく、凶悪な……敵を抉り斬る刃として振るう。

(こんの狼……マジ、強過ぎるだろ!!!!!!)

戦闘が始まってから一分が経過した。

ソウスケたちに襲い掛かったガルムは以前ソウスケが戦ったガルムと同じく、経験予測のスキルを持っており、ギリギリのタイミングで雷光の刺突を回避し、毛皮が……肉が少々斬れる程度で留めている。

(俺もあの頃より、ちょっと強く、なってるんだぞ!!!! クソったれがッ!!!!!)

色んな意味で、ここで時間を使っている余裕はない。

恐ろしい攻撃の射程がアマンダたちに届くかもしれない、という危機を回避する為……ソウスケは蛇腹剣の強化スキルも発動。

これは……これだけは、ここ最近あまり使いたくないと思っていた。
それでも、時間を掛けたくない……再度使える物を使わなければ死ぬ可能性がある。

向けられている牙の鋭さを理解し、ソウスケの速さは……雷光から神速へと変化。

「……ふぅーーーーー。悪いな」

勝者の呟きに、既に首を貫かれたガルムは反応しない。
反応しないが……「気にする必要はない」そんな言葉を向けられた気がした。


(ッ…………み、見えなかった。ただ……閃だけしか、見えなかった)

アマンダは自分を強者だと自覚している。
奢り、偉ぶる気はサラサラない。
しかし……自身が強者ではないと否定するほど、他者の努力を侮辱するつもりはない。

そんな強者である筈の自分が……閃だけしか見えなかった。

「すいません、お待たせしました」

「い、いえ……全く、本当に全く待っていませんよ」

途中まではややソウスケが有利といった戦況だった。
だが、一瞬。たった一瞬で文字通り戦況が激変。

(何かをしたようには見えませんでしたが……おそらく、何かをしたのでしょう)

この時……アマンダの中で、とある考えが浮かんだ。

彼を、留めなくても良いのかと。
ソウスケやパーティーメンバーであるミレアナやザハークが、ルクローラ王国との戦争の際に、多大な貢献をもたらしたことは把握していた。

だが、その眼でおそらく本気で戦ったであろうソウスケの姿見て……本当は、彼等だけで大半の敵を壊滅する事が出来たのではないか。
そんな恐ろしい光景が浮かんだ。

(…………止めておきましょう)

アマンダはこの後、先程の戦闘だけに関しては同行している女性騎士たちに、他言無用だと伝えた。

何故……と、全員が思った。
全員がソウスケという冒険者に敬意を持っている。

敬意を持っている人間の活躍など……思いっきり誰かに話したくなるもの。
それは正直な話……アマンダも同じだった。

しかし、団長から何故ソウスケが騎士の爵位を持っていないのか、騎士団からの誘いを断っているのか。
そう伝えると……決して馬鹿ではない彼女たちは、アマンダが何を言いたいのか理解した。
この事実を誰かに話す事があれば……最悪、ソウスケたちと対立するかもしれない。

色々と世話になっている身として、それだけは絶対に避けたかった。
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