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八百三十九話 働いて稼げばいい

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「え、いや……ちょ待て、似合ってるのか?」

「あぁ、俺は似合ってると思うぞ」

「私も似合ってると思います」

外は赤、内側は黒といった色合いがソウスケのカッコ良さを引き立てている、というのが二人の感想。

(む~~~……まぁ、結構動きやすくはあるから、悪くはない……のか)

周りの雰囲気に押し切られたのもあり、ソウスケは赤メインのタキシードの購入が決定。

「……今更あれなのだが、俺はモンスターだ。こういった服を着る必要はあるのか?」

「あるに決まってるだろ馬鹿たれ」

「本当に今更な話ね」

現在ザハークが身に付けている礼服は、蒼色のタキシード。

普通の人族よりは体格がかなり大きいザハークだが、そこは流石王都の衣服店でトップスリーに入る店。
しっかりとザハークの体格にも合う礼服がある。

「ザハークのメイン魔法は水なんだし……うん、かなり似合ってるな」

「そうですね。普段から水を纏ったりしているので、こう……そこまで違和感がない。いや、色が濃い分ギャップが強くて、そこがまた良さそうですね」

「確かに! 今回みたいな場合に着るからこそ、ギャップの威力が計り知れなくないな」

「………………」

二人が対など一切なく褒めまくる為、自動的に蒼のタキシード購入が決定。

そして最後はミレアナの番。

「その……さすがにこの服は値段が張ると思うのですが」

「ば~か、俺たちが幾ら稼いでるのか、だいたい把握してるだろ」

ここまで来れば、別にそんなに高くない服でもな構わない、という考えが吹き飛ぶ。

ミレアナの為に用意された礼服は、翡翠色のドレス。

「こちら、エルフの方々にも人気のドレスです」

「確かに……全体的にエルフっていう種に合うな」

正確にはハイ・エルフなのだが、この際そんな細かい部分は気にしない。

「うん、マジで似合ってるな。褒美を受け取った後のパーティーが怖くはあるけど」

「はっはっは! ソウスケさんの言う通りだな。騎士や貴族の令息たちに言い寄られる光景が容易に想像できる」

普段のミレアナも非常に綺麗。
それはソウスケの中で不変の評価だが、翡翠色のドレスを身に纏うミレアナは……美の戦闘力が急上昇。
そんな力を測れるスカウターがあれば……エラーを起こして爆発してもおかしくない。

「……ソウスケさん、その場合は物理的に断ってもよろしいでしょうか」

「いや~、頼むからこう……上手く決闘とかに誘導してから物理的に断ってくれ」

「畏まりました」

こうしてミレアナが試着した翡翠色のドレス、プラス一部のアクセサリー類の購入も決定。

そして会計は……当然の如く、白金貨一枚では収まらず、軽く十枚は吹き飛んだ。

「……はい、丁度ですね」

合計で白金貨三十枚と少し吹き飛んだが、ソウスケとしてはそんなに痛くない。

ただ、一番礼服の代金が高かったミレアナは、少々申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

「ミレアナ、もしかして礼服の代金を気にしてんのか?」

「いえ、その…………はい、そうです」

全員が一着、絶対に白金貨数枚以上の高級礼服とはいえ、ミレアナのドレス代金は二人のタキシードの約倍。

「礼服の代金が高いと思うなら、自力で稼げばいいだけの話じゃないのか?」

「ッ……ザハーク、偶には良いこと言いますね」

「偶にという言葉は余計だ」

自分は何も出来ない小娘ではなく、確かな実力を有する冒険者。
その力を活かして利用すれば、ドレス分の代金を稼ぐことも不可能ではない。

それを思い出させてくれたザハークに、珍しく例の言葉を告げたミレアナ。

とはいえ、全員自身の礼服として購入したタキシードやドレスに対し……まだ若干の恥ずかしさはある。
それでも明日の朝にはその礼服を身に纏い、王城に向かわなければならない。


(何事もなければ良い。食事と軽い会話を楽しめれば良いと思ってるんだけど……うん、無理だよね)

翌日の朝、ソウスケは朝から覚悟を決め、迎えが来る前の時間になると、礼服へと着替え始めた。
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