864 / 1,129
八百三十四話 奴は完全に消えた
しおりを挟む
「ところでソウスケさん、分身の方は本当に音沙汰なく消えたという設定にするのですか?」
入浴と夕食が終わり、宿の部屋でダラッとしているソウスケにミレアナが分身の件について尋ねた。
「そりゃ勿論、そういう設定で押し通すに決まってるだろ。冒険者ギルドやエイリスト王国の政府にとっちゃ、一人分の報酬を払わなくて済むんだから、寧ろ有難いって思ってるだろ」
「それはそうですが……事情を説明すれば、分身の分の報酬も手に入るのでは?」
「まぁ、分身なんて珍しいスキル持ってる人が世の中に一人もいないってことはないと思うけど……面倒が増えるだけだから、却下だな」
戦争に参加した理由は、守りたいと思う者がエイリスト王国にいる。
そもそもルクローラ王国の裏部隊が卑怯な手を使ってきたのが気に入らないから……といった理由だったため、報酬に関してはそこまで期待してない。
金はいくらあっても困らないものだが、それでもソウスケの手元には頑張らないと使いきれない程の財産が蓄えられている。
「……かしこまりました。これ以上は何も言いません。ですが……おそらく、レガースさんには気付かれていると思うのですが」
「それはまぁ、そうだな。でも、レガースさんはこっちの事情を汲んでくれてそうだから、そこまで心配する必要はないと思う」
分身の記憶はきっちり引き継いでいる。
そのため、当時の様子からレガースが自身の存在に気付いていることに関しては、薄々気づいていた。
だが、気付いてもレガースが仮面とフード付きマントを纏った分身に声をかけなかった。
つまりそれが答えである。
「そうですね……しかし、あまり目立ちたくないと言っていたソウスケさんが、遂にエイリスト王国の英雄になってしまいましたね」
「うぐっ…………そこを突かれると、痛いな」
そのような話をしていた過去は、本人もしっかり覚えている。
確かにあまり目立ちたくないという思いはあったが、それ以上に冒険をしたいという思いが強かった。
結局目立ってしまった理由はそれ以外にもあるが……とにかく、ソウスケという名の冒険者は完全に一介の冒険者という枠には収まらなくなっていた。
「でも、英雄ってのはこう……違くないか?」
「ソウスケさん……諦めてください」
少々可哀そうな目をリーダーに向けながら、ソウスケにとってある意味哀しいお知らせを伝えた。
「ソウスケさんは今回の戦争中、部隊に所属しながら行動していましたが、それでも敵兵や冒険者、騎士を討伐した数は……おそらく、トップファイブには入る筈です」
ソウスケたち以外にも猛者たちは多く居たが、それでも敵部隊の遭遇数と撃破数はトップクラス。
レヴァルグの投擲ぶっ放による殲滅攻撃もあり、非常に多くの猛者たちを討伐。
ミレアナやザハークも同じレベルの功績ではあるが、ソウスケは最後の最後のバトルで見事勝利を収めた。
「そして最後の三番勝負で、見事勝利を収めつつ、敵の騎士を殺さずに勝利しました。ここまでの功績から……英雄と呼ぶな、というのは無理かと思われます」
「いや、ほら……英雄とか呼ばれるのは、恥ずかしいだろ」
「最後の三本勝負で私かザハークが出ていれば、話は変わっていたかもしれませんが、私はソウスケがリーダーであるパーティーのメンバーで、ザハークはソウスケさんの従魔。私たちは英雄の仲間、という認識で終わると思いますが、最初から最後の最後まで活躍したソウスケさん、間違いなく英雄です」
「……あっ、そうですか」
真正面から何度も英雄、英雄と呼ばれるのは非常に恥ずかしい。
とにかく、その日はそれ以上自身が今後どう呼ばれるのか、と考えるのは放棄。
「よう、英雄! 特に用なんてないだろ。昼と夜は空けといてくれよな!!」
「いや、ちょ待っ……て、つかなんでその呼び名なんだよ」
ぐっすり睡眠を取った翌朝、同じ宿に泊まっていた参加者から昼と夜を空けといてくれと頼まれたついでに、英雄呼びに関してツッコミたかったが、男は直ぐに宿を出て何処かへ行ってしまった。
入浴と夕食が終わり、宿の部屋でダラッとしているソウスケにミレアナが分身の件について尋ねた。
「そりゃ勿論、そういう設定で押し通すに決まってるだろ。冒険者ギルドやエイリスト王国の政府にとっちゃ、一人分の報酬を払わなくて済むんだから、寧ろ有難いって思ってるだろ」
「それはそうですが……事情を説明すれば、分身の分の報酬も手に入るのでは?」
「まぁ、分身なんて珍しいスキル持ってる人が世の中に一人もいないってことはないと思うけど……面倒が増えるだけだから、却下だな」
戦争に参加した理由は、守りたいと思う者がエイリスト王国にいる。
そもそもルクローラ王国の裏部隊が卑怯な手を使ってきたのが気に入らないから……といった理由だったため、報酬に関してはそこまで期待してない。
金はいくらあっても困らないものだが、それでもソウスケの手元には頑張らないと使いきれない程の財産が蓄えられている。
「……かしこまりました。これ以上は何も言いません。ですが……おそらく、レガースさんには気付かれていると思うのですが」
「それはまぁ、そうだな。でも、レガースさんはこっちの事情を汲んでくれてそうだから、そこまで心配する必要はないと思う」
分身の記憶はきっちり引き継いでいる。
そのため、当時の様子からレガースが自身の存在に気付いていることに関しては、薄々気づいていた。
だが、気付いてもレガースが仮面とフード付きマントを纏った分身に声をかけなかった。
つまりそれが答えである。
「そうですね……しかし、あまり目立ちたくないと言っていたソウスケさんが、遂にエイリスト王国の英雄になってしまいましたね」
「うぐっ…………そこを突かれると、痛いな」
そのような話をしていた過去は、本人もしっかり覚えている。
確かにあまり目立ちたくないという思いはあったが、それ以上に冒険をしたいという思いが強かった。
結局目立ってしまった理由はそれ以外にもあるが……とにかく、ソウスケという名の冒険者は完全に一介の冒険者という枠には収まらなくなっていた。
「でも、英雄ってのはこう……違くないか?」
「ソウスケさん……諦めてください」
少々可哀そうな目をリーダーに向けながら、ソウスケにとってある意味哀しいお知らせを伝えた。
「ソウスケさんは今回の戦争中、部隊に所属しながら行動していましたが、それでも敵兵や冒険者、騎士を討伐した数は……おそらく、トップファイブには入る筈です」
ソウスケたち以外にも猛者たちは多く居たが、それでも敵部隊の遭遇数と撃破数はトップクラス。
レヴァルグの投擲ぶっ放による殲滅攻撃もあり、非常に多くの猛者たちを討伐。
ミレアナやザハークも同じレベルの功績ではあるが、ソウスケは最後の最後のバトルで見事勝利を収めた。
「そして最後の三番勝負で、見事勝利を収めつつ、敵の騎士を殺さずに勝利しました。ここまでの功績から……英雄と呼ぶな、というのは無理かと思われます」
「いや、ほら……英雄とか呼ばれるのは、恥ずかしいだろ」
「最後の三本勝負で私かザハークが出ていれば、話は変わっていたかもしれませんが、私はソウスケがリーダーであるパーティーのメンバーで、ザハークはソウスケさんの従魔。私たちは英雄の仲間、という認識で終わると思いますが、最初から最後の最後まで活躍したソウスケさん、間違いなく英雄です」
「……あっ、そうですか」
真正面から何度も英雄、英雄と呼ばれるのは非常に恥ずかしい。
とにかく、その日はそれ以上自身が今後どう呼ばれるのか、と考えるのは放棄。
「よう、英雄! 特に用なんてないだろ。昼と夜は空けといてくれよな!!」
「いや、ちょ待っ……て、つかなんでその呼び名なんだよ」
ぐっすり睡眠を取った翌朝、同じ宿に泊まっていた参加者から昼と夜を空けといてくれと頼まれたついでに、英雄呼びに関してツッコミたかったが、男は直ぐに宿を出て何処かへ行ってしまった。
83
お気に入りに追加
4,753
あなたにおすすめの小説
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす
Gai
ファンタジー
人を助けた代わりにバイクに轢かれた男、工藤 英二
その魂は異世界へと送られ、第二の人生を送ることになった。
侯爵家の三男として生まれ、順風満帆な人生を過ごせる……とは限らない。
裕福な家庭に生まれたとしても、生きていいく中で面倒な壁とぶつかることはある。
そこで先天性スキル、糸を手に入れた。
だが、その糸はただの糸ではなく、英二が生きていく上で大いに役立つスキルとなる。
「おいおい、あんまり糸を嘗めるんじゃねぇぞ」
少々強気な性格を崩さず、英二は己が生きたい道を行く。
「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「近接は戦士に劣って、魔法は魔法使いに劣って、回復は回復術師に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」
パーティを組んでBランク冒険者になったアンリ。
彼は世界でも稀有なる才能である、全てのスキルを使う事が出来るユニークスキル「オールラウンダー」の持ち主である。
彼は「オールラウンダー」を持つ者だけがなれる、全てのスキルに適性を持つ「勇者」職についていた。
あらゆるスキルを使いこなしていた彼だが、専門職に劣っているという理由でパーティを追放されてしまう。
元パーティメンバーから装備を奪われ、「アイツはパーティの金を盗んだ」と悪評を流された事により、誰も彼を受け入れてくれなかった。
孤児であるアンリは帰る場所などなく、途方にくれているとギルド職員から新人の教官になる提案をされる。
「誰も組んでくれないなら、新人を育て上げてパーティを組んだ方が良いかもな」
アンリには夢があった。かつて災害で家族を失い、自らも死ぬ寸前の所を助けてくれた冒険者に礼を言うという夢。
しかし助けてくれた冒険者が居る場所は、Sランク冒険者しか踏み入ることが許されない危険な土地。夢を叶えるためにはSランクになる必要があった。
誰もパーティを組んでくれないのなら、多少遠回りになるが、育て上げた新人とパーティを組みSランクを目指そう。
そう思い提案を受け、新人とパーティを組み心機一転を図るアンリ。だが彼の元に来た新人は。
モンスターに追いかけ回されて泣き出すタンク。
拳に攻撃魔法を乗せて戦う殴りマジシャン。
ケガに対して、気合いで治せと無茶振りをする体育会系ヒーラー。
どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児に頭を抱えるアンリだが、彼は持ち前の万能っぷりで次々と問題を解決し、仲間たちとSランクを目指してランクを上げていった。
彼が新人教育に頭を抱える一方で、彼を追放したパーティは段々とパーティ崩壊の道を辿ることになる。彼らは気付いていなかった、アンリが近接、遠距離、補助、“それ以外”の全てを1人でこなしてくれていた事に。
※ 人間、エルフ、獣人等の複数ヒロインのハーレム物です。
※ 小説家になろうさんでも投稿しております。面白いと感じたらそちらもブクマや評価をしていただけると励みになります。
※ イラストはどろねみ先生に描いて頂きました。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
異世界転移でのちに大陸最強の1人となった魔剣士 ~歌姫の剣と呼ばれし男~
ひぃ~ろ
ファンタジー
とある過疎化の進んだ地区で地方公務員として働いていた 橘 星那 《たちばな せな》高卒30歳独身、彼女無しが近くに住んでいた祖父の家に呼ばれ
蔵の整理をしたところ大きく古びた櫃のようなものを開けるとその中に吸い込まれてしまい きづいた時には見慣れぬ景色の世界、異世界へと飛ばされていた
そこで数々の人々と出会い 運命の人に出会い のちにナンバーズと呼ばれる
大陸最強の13人の一人として名をはせる男のお話・・・・です
※ おかげさまで気づけばお気に入り6、000を超えておりました。読んでいただいてる方々には心から感謝申し上げます。
作者思いつきでダラダラ書いておりますので、設定の甘さもありますし、更新日時も不定、誤字脱字並びにつじつまの合わないことなど多々ある作品です。
ですので、そのような駄作は気に入らない、または目について気になってしょうがないという方は、読まなかったことにしていただき、このような駄作とそれを書いている作者のことはお忘れください。
また、それでも気にせず楽しんで読んでいただける方がおられれば幸いとおもっております。
今後も自分が楽しく更新していけて少しでも読んで下さった方が楽しんでいただければと思います。
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
神眼のカードマスター 〜パーティーを追放されてから人生の大逆転が始まった件。今さら戻って来いと言われてももう遅い〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「いいかい? 君と僕じゃ最初から住む世界が違うんだよ。これからは惨めな人生を送って一生後悔しながら過ごすんだね」
Fランク冒険者のアルディンは領主の息子であるザネリにそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
父親から譲り受けた大切なカードも奪われ、アルディンは失意のどん底に。
しばらくは冒険者稼業をやめて田舎でのんびり暮らそうと街を離れることにしたアルディンは、その道中、メイド姉妹が賊に襲われている光景を目撃する。
彼女たちを救い出す最中、突如として【神眼】が覚醒してしまう。
それはこのカード世界における掟すらもぶち壊してしまうほどの才能だった。
無事にメイド姉妹を助けたアルディンは、大きな屋敷で彼女たちと一緒に楽しく暮らすようになる。
【神眼】を使って楽々とカードを集めてまわり、召喚獣の万能スライムとも仲良くなって、やがて天災級ドラゴンを討伐するまでに成長し、アルディンはどんどん強くなっていく。
一方その頃、ザネリのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
ダンジョン攻略も思うようにいかなくなり、ザネリはそこでようやくアルディンの重要さに気づく。
なんとか引き戻したいザネリは、アルディンにパーティーへ戻って来るように頼み込むのだったが……。
これは、かつてFランク冒険者だった青年が、チート能力を駆使してカード無双で成り上がり、やがて神話級改変者〈ルールブレイカー〉と呼ばれるようになるまでの人生逆転譚である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる