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八百三十四話 奴は完全に消えた

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「ところでソウスケさん、分身の方は本当に音沙汰なく消えたという設定にするのですか?」

入浴と夕食が終わり、宿の部屋でダラッとしているソウスケにミレアナが分身の件について尋ねた。

「そりゃ勿論、そういう設定で押し通すに決まってるだろ。冒険者ギルドやエイリスト王国の政府にとっちゃ、一人分の報酬を払わなくて済むんだから、寧ろ有難いって思ってるだろ」

「それはそうですが……事情を説明すれば、分身の分の報酬も手に入るのでは?」

「まぁ、分身なんて珍しいスキル持ってる人が世の中に一人もいないってことはないと思うけど……面倒が増えるだけだから、却下だな」

戦争に参加した理由は、守りたいと思う者がエイリスト王国にいる。
そもそもルクローラ王国の裏部隊が卑怯な手を使ってきたのが気に入らないから……といった理由だったため、報酬に関してはそこまで期待してない。

金はいくらあっても困らないものだが、それでもソウスケの手元には頑張らないと使いきれない程の財産が蓄えられている。

「……かしこまりました。これ以上は何も言いません。ですが……おそらく、レガースさんには気付かれていると思うのですが」

「それはまぁ、そうだな。でも、レガースさんはこっちの事情を汲んでくれてそうだから、そこまで心配する必要はないと思う」

分身の記憶はきっちり引き継いでいる。
そのため、当時の様子からレガースが自身の存在に気付いていることに関しては、薄々気づいていた。

だが、気付いてもレガースが仮面とフード付きマントを纏った分身に声をかけなかった。
つまりそれが答えである。

「そうですね……しかし、あまり目立ちたくないと言っていたソウスケさんが、遂にエイリスト王国の英雄になってしまいましたね」

「うぐっ…………そこを突かれると、痛いな」

そのような話をしていた過去は、本人もしっかり覚えている。

確かにあまり目立ちたくないという思いはあったが、それ以上に冒険をしたいという思いが強かった。
結局目立ってしまった理由はそれ以外にもあるが……とにかく、ソウスケという名の冒険者は完全に一介の冒険者という枠には収まらなくなっていた。

「でも、英雄ってのはこう……違くないか?」

「ソウスケさん……諦めてください」

少々可哀そうな目をリーダーに向けながら、ソウスケにとってある意味哀しいお知らせを伝えた。

「ソウスケさんは今回の戦争中、部隊に所属しながら行動していましたが、それでも敵兵や冒険者、騎士を討伐した数は……おそらく、トップファイブには入る筈です」

ソウスケたち以外にも猛者たちは多く居たが、それでも敵部隊の遭遇数と撃破数はトップクラス。

レヴァルグの投擲ぶっ放による殲滅攻撃もあり、非常に多くの猛者たちを討伐。
ミレアナやザハークも同じレベルの功績ではあるが、ソウスケは最後の最後のバトルで見事勝利を収めた。

「そして最後の三番勝負で、見事勝利を収めつつ、敵の騎士を殺さずに勝利しました。ここまでの功績から……英雄と呼ぶな、というのは無理かと思われます」

「いや、ほら……英雄とか呼ばれるのは、恥ずかしいだろ」

「最後の三本勝負で私かザハークが出ていれば、話は変わっていたかもしれませんが、私はソウスケがリーダーであるパーティーのメンバーで、ザハークはソウスケさんの従魔。私たちは英雄の仲間、という認識で終わると思いますが、最初から最後の最後まで活躍したソウスケさん、間違いなく英雄です」

「……あっ、そうですか」

真正面から何度も英雄、英雄と呼ばれるのは非常に恥ずかしい。

とにかく、その日はそれ以上自身が今後どう呼ばれるのか、と考えるのは放棄。


「よう、英雄! 特に用なんてないだろ。昼と夜は空けといてくれよな!!」

「いや、ちょ待っ……て、つかなんでその呼び名なんだよ」

ぐっすり睡眠を取った翌朝、同じ宿に泊まっていた参加者から昼と夜を空けといてくれと頼まれたついでに、英雄呼びに関してツッコミたかったが、男は直ぐに宿を出て何処かへ行ってしまった。
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