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八百二十四話 油断していたとしても

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翌日、ソウスケ本体だけではなく、分身も含めてルクローラ王国側の大将首を狩りに向かう。

戦況がエイリスト王国側に優位であり、敵の強戦力を削いだ情報は既に前線全体に伝わっているため、ソウスケたち以外の強者たちも現場に直行。

(あいつら、まさかルティナ・ヴィリストが率いる部隊を全滅させて無事だったとはな……やっぱ、色々と普通じゃねぇな)

(私たちのクランにも戦力は揃ってると思うけど、正直あの三人の総戦力だけで並ばれてる気が……いえ、さすがに過大評価し過ぎかしら?)

(今はパーティーで行動しているようだが、クランに興味があったりするか? 興味があるなら、是非とも勧誘したいところだが……マスターに報告しておこう)

ソウスケ本体たちの部隊は改めて編成され、総戦力はルティナ・ヴィリストが率いた部隊や……レジル・アルバティアがソウスケ分身を完璧に潰すために率いた部隊よりも上。

本隊へ到達するまでの道中で敵部隊と遭遇しても、戦闘終了までに一分と掛からない。

それは部隊にAランク冒険者、もしくは同等の実力を持つ騎士や傭兵がいても同じ結果。

「怪我もなくそこまで魔力を消費することもない。順調な行進具合だな」

「油断は禁物だけど、正直そこら辺の部隊に負ける可能性はまずないでしょうね」

「ソウスケ君もそう思わないか?」

「そうですね。そこら辺の部隊に限れば、油断していたとしても負けることはないかと」

傲慢が過ぎる言葉だが、事実としてルクローラ王国側の本陣を潰すために集められた戦闘者たちは、個の実力が非常に飛び抜けている。

それでいて、これまでの経験から即席のメンバーでもある程度の連携を行えるアドリブを有している。

(他の前線からあと何人の強者が送られるのかは分からないけど、分身の奴もくる……ってなると、ちょっと本陣で構えてる人たちが可哀想になってくるな)

戦争にそういった感情を持ちこむのは無意味。
戦闘の際に邪魔になってしまうだけだが、ソウスケ本体はそう思わずにはいられない程……一新された部隊のメンバーに頼もしさを感じていた。

「日が落ちてきた。そろそろ夕食にしようか」

戦場から戦闘者たちが去り、周囲に自分たちを狙う者たちがいないのは確認済み。

「おいおい、あれだけ戦えるのに料理まで出来るのかよ」

「出来るって言っても、別にプロの人たちと比べれば全然ですよ」

謙遜しながらも、丁寧に……そして素早く野菜を切り刻む。

「……この匂い、たまらんな」

料理完成の終盤、その匂いに本能が耐えられず……ソウスケやミレアナも含めて全員の腹から音が零れる。

「さぁ、食べましょう」

主に料理を行ったソウスケ本体が許可を出すと、ザハークも含めて腹ペコ戦闘者たちは一斉に料理へ食らいついた。

(それなりの量を作ったんだから、慌てずゆっくり食べてくれ……って言っても聞こえないか)

ソウスケ本体も無くなってしまう前に料理を口に放り込んでいく。

有名クランに所属している強者たちともなれば、野営時に食べる食事は決して貧しくひもじくない。
ただ、ソウスケ本体は折角ならと、かなり手の込んだ料理を同じ部隊の仲間たちに提供。

女性として色々と負けたと敗北感を味わっていた女性たちも、今は男性陣に負けじと夕食にかぶりついていた。

「なぁ、ソウスケ君。戦争が終わったら僕が所属しているクランに来ないかい。勿論、ミレアナさんや従魔のザハークも一緒に」

「「「「「「っ!!??」」」」」」

戦争が終わるまでは、どこにも所属していない三人を勧誘してはならない……という暗黙のルールが、誰かが口に出さずとも全員察していた。

しかし、強者の一人である青年が耐えられず、今この場で勧誘を行い、鋭い視線を向けられている。

「勧誘は嬉しいですけど、俺たちはどこにも縛られず旅をしたいパーティーなんで、遠慮させてもらいます」

速攻で断れた男に、自分たちの要望も間接的に断られたことになるのだが、鋭い視線がざまぁみろというニヤニヤとした小バカにするものへ変わった。
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