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八百十一話 偶に、でないと困る

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「……って感じで戦いたいんだけど、どうかな」

「おぅ、良いんじゃねぇか。そっちの方が生き残る確率が高そうだし」

ソウスケ本体が同じ部隊の仲間に、万が一のことを考えてザハークメインの戦陣に関して伝えると、予想よりもあっさり受け入れられた。

(受け入れてくれるのは嬉しいんだが……えっ、本当に良いのか?)

部隊全員が生き残るための、最善策。
ソウスケ本体はそう思い、同じ部隊の仲間に伝えたが、ここまであっさり受け入れられるとは思っていなかった。

「えっと、本当に良いのか」

再度確認を行うが、首を横に振る者はいなかった。

「良いに決まってるだろ。だって、それはソウスケが俺たちの身の安全を考えた上でのアイデアだろ」

「あ、あぁ……それはそうなんだけど」

「なら、俺としては断る理由はない。お前らも同じ考えだろ」

自分たちの身の安全を考えた上での作戦。
つまり、見方によれば彼らの実力を下に見ている、と捉えられてもおかしくない。

実際のところ、同じ部隊の騎士の男はソウスケ本体から伝えられた作戦に、少々プライドが傷付けられたと感じた。

「騎士のあんたも、ソウスケの作戦に文句はねぇだろ」

「……私としては、一人でも多くの敵を斬り倒すことが一番の目的」

国を守る騎士として、その考えに間違いはなく、同じ部隊の冒険者もからかうことはなかった。

「しかし、それは生きてこそ実行出来るというものだ」

今でも胸に抱く信念こそ変わらないが、ソウスケ本体からの提案が受け入れられない程、頭は固くなかった。

「ソウスケ、君の作戦に異論はない。それに……ルティナ・ヴィリストの名声は私たちエイリスト王国の騎士にも届いている」

ソウスケ本体と同じ部隊に属する騎士の実力は、最低でもBランク。
一番実力が高い騎士に関しては、Aランクの域に一歩足を踏み入れている。

騎士の中でも上役たちは、彼を未来の騎士団長候補として考える者もいる。
そんな同僚たちからの信頼と、確かな実力を有する男であっても、現時点でルティナ・ヴィリストに勝てると断言は出来ない。

「確か、サイレントハーベストって二つ名を持ってんだよな……騎士なのに、奇襲とか暗殺が得意って訳じゃねぇんだろ」

「あぁ、そうだな。そういう意味の二つ名ではない」

音も立てず敵の首を、命を刈り取る……そういった意味ではなく、彼女の渾身の一撃は、音がない。

その一撃がどれだけ凄いのか解かる騎士は、思わず身震いを起こす。

「……音が出ない斬撃。それは、斬撃の極致といっても過言ではない」

「斬撃の極致……って、その令嬢騎士は、その斬撃を何度も出せるってのか!!??」

「お、落ち着け。いざという時の場面で、その斬撃を繰り出し危機を乗り越えてきたからこそ、サイレントハーベストという二つ名が付けられたのだ」

冒険者たちは二つ名の由来を知り、ひとまずほっとした。

因みにこれに関しては、ソウスケもこっそりホッと一安心していた。

(良かった~。そんな斬撃ポンポン出されたら、溜まったもんじゃないっての)

クリムゾンリビングナイトとの戦いで剣術の腕を短期間の間に磨いたソウスケだが、自分なりの良い一撃と思える斬撃を繰り出せたことはあっても、斬撃の音を消せたことはない。

「……まぁ、多分そっちはなんとか出来ると思うよ」

何故そう言い切れるのか?

そう問おうとした部隊なメンバーは、ソウスケ本体の視線の先を見て……思わず「なるほど!」と納得してしまった。

(本当に凄い女性騎士なんだろうけど、ザハークの闘争心の方が勝ってる……筈だ)

獰猛な笑みを……無意識に周囲を威圧してしまう笑みを、ギリギリ堪えている鬼神がそこにいた。
恐ろしい笑みを堪えてはいるが、表情に薄っすらと笑みを浮かべており……騎士、他の冒険者たちはその笑みにひとまず頼もしさを感じた。
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