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七百五十九話 チップのお礼に

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「…………」

そろそろ帰りたい感が高まり、今回の探索も名槍が眠るとされている場所まで辿り着くことはなく、地上に戻った。

そんな中……ソウスケの表情には解りやすい程、不満が溜まっていた。
理由としては、ザハークが戦ったヴァルガングやオールドオーガの様な強敵と遭遇出来なかったから。

簡単に遭遇できるような個体ではなく、遭遇したらそれはそれで不運というもの。
普通は遭遇しないことに越したことはないモンスターなのだが、ザハークと強敵の戦いっぷりを見て、ソウスケの闘争心には良い感じに火が付いてしまっていた。

(ザハークにオールドオーガの相手を任せたのは後悔してない……してないけど、それからBランクのモンスターにすら遭遇しないなんてこと、ありえるか?)

残念ながら、十分にあり得る。
上級者向けダンジョンの四十一階層以降の様に、ある程度出現するモンスターのレベルやランクが設定されていれば、遭遇するのは難しくない。

しかし、ソウスケたちが今回探索している古代遺跡は、ダンジョンと似て非なるもの。
BランクやAランクのモンスターと遭遇するのは稀も稀。

(ソウスケさんの機嫌が、あまりよろしくありませんね……どうしましょう)

(……やはり、オールドオーガとの一戦は主人であるソウスケさんに譲るべきだったか?)

パーティーメンバーである二人は、どうすれば良いのか考える。
しかし、その間にイガルディスに到着してしまった。

「……夕食の時間になるまで、ぶらぶらするか」

「分かりました」

到着した時間は、夕食を食べるにはまだ早い。
という訳で、それまで武器屋やマジックアイテムを売っている店などを見て周り、時間を潰す。

多数の作品を見れたことで、多少ではあるが、強敵と遭遇出来なかった不満は薄れた。
しかし、まだ不満は残っている為……夕食時には料金を気にすることなく、高級料理店の料理を次から次に頼み、全てを平らげった。

「…………凄い、な」

「あの体のどごに入ってるんだ?」

周囲の客たちが驚き固まってしまう程の量を食べ、この日は珍しくザハークよりも多く平らげた。

美味い料理を胃袋に収めたことで、また少し不満の解消に成功。
だが……まだ完全には消えていない。

という訳で、ソウスケは夕食を食べてから約一時間後……夜の街、歓楽街へと訪れていた。
物知りなおっさんにチップを払って情報を貰い、イガルディスでもトップクラスの娼館へ一直線。

勿論服装は普段着なので、最初こそ黒服のお兄さん達からは怪しい目を向けられたが、手に白金貨を持っていると解った瞬間、態度は一変。

あっさりと中へ入れてもらえ、両サイドに並ぶ嬢たちに目を向ける。

(二人一緒ってオーケーなのか?)

その情報はおっさんから仕入れてなかったので、店員に尋ねた。

「えぇ、勿論大丈夫ですよ」

料金は倍になるが、金さえしっかり払えば全く問題無い。

「それじゃあ、あの人とあの人をお願いします」

「畏まりました」

人族の二十代半ばなちょっとお姉さんタイプを選び、料金を払っていざ部屋へ。

諸々の準備を済ませたら、早速夜の大乱闘がスタート。
いつも通りオークの精力増強のスキルを使用し……不満が溜まっていたこともあり、ソウスケのソウスケは最後の最後まで元気一杯だった。

ただ、自分が一般人よりも遥かに身体能力が高いというのは理解しているので、乱暴にすることはなく……ただただハッスルした。

とはいえ、ソウスケとしては溜まっていた不満をぶつけてしまったという思いがあり、いつもと違って二人にチップを渡した。

「あら、こんなに良いの?」

「はい。なんというか……ちょっと八つ当たり? みたいな感じだったんで」

「そうなの? 私は別に気持ち良かったから良かったけど……まっ、くれるなら貰うわ」

客からチップを貰ってはダメというルールはないので、嬢たちからすれば嬉しい臨時収入。

「お礼に、良いことを教えてあげる。君……他の冒険者から、狙われるかもしれないわ」

「そういえば、ソウスケ君に不満を持ってた客がいた様な……あり得そうな話ね」

「マジですか……教えてくれてありがとうございます」

無事に不満は解消され、不穏な情報を降りかかる前に教えてもらったことで、帰りの足取りはかなり軽くなっていた。
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