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六百八話 もう一度、ハッキリと

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「ミレアナさん、冷静に考えてください。私たち氷結の鋼牙との話と、そちらの学生との話……どちらが有益な会話になるか、直ぐに解る筈です」

ギリス・アルバ―グル。
この男だけは先程までの態度と全く変わりない……そう、表面上は変わりない。

だが、内心ではミレアナから漏れ出す冷気を氷結の鋼牙のリーダーである、クランマスターと同等かもしれない。
反応的に実力の一端を察知した。

(なるほど、これほどまでの冷気を発するのであれば中級者向けダンジョンの下層を一人で探索し、更には最下層のボスを一人で倒してしまうという話も、信憑性が増しますね)

中級者向けダンジョンの下層を一人で探索するとなると、戦闘力以外の力も必要になるのだが、ひとまず生き残るために重要なモンスターを倒し続ける強さ。
それに関しては間違いなく持っている、それは分かった。

ただ……この冷気と同じ様な感覚をクランマスターから一つの体験として、与えられたことがあったギリスだからこそ、ミレアナの雰囲気が変わっても冷静でいられた。

「私は有益な会話というのにさほど興味はありません。先程も言いましたが、私が重要だと思うのは生徒たちとの会話。あたな方……氷結の鋼牙でしたか? あなた達には全く興味がありませんので」

冷気と殺気を放ったミレアナに対して、態度を崩さなかったギリスには賞賛を与えるべきかもしれない。
それでも、選んだ言葉が上から目線過ぎる。
直ぐに謝ろうとしなかったということもあり、ミレアナの機嫌を損ねる結果となった。

しかし、先程までミレアナと話していた生徒たちは、どうすれば良いのかオロオロしていた。
生徒たちが目指す先は冒険者。

まずはこの街からスタートしようと考えているので当然、有名どころのクラン名は頭に入っている。
氷結の鋼牙……学術都市でトップクランという訳ではないが、トップ帯には入る有名どころ。
個人的には、自分たちと話すよりもクランメンバーであるギリス・アルバ―グルと話す方が重要……そして有益であると思ってしまう部分がある。

ただ、そんな重要人物との会話よりも自分たちとの会話の方が重要だとミレアナは宣言した。
そのことに関しては、心の底から嬉しいと思う生徒たち。

というわけで、自分たちよりもギリスとの会話を優先した方が良い……そんな思いを持ちながらも、ミレアナが自分たちとの会話が大切と思ってくれている気持ちが嬉しいため、何も言い出せずにいた。

「興味がない、ですか……これはまた随分と大きく出ますね。冒険者として活動しているならば、クランに興味がないということはあり得ないでしょう」

冒険者であれば、クランに興味を持って当たり前。
ギルスのこの言葉は間違っているとは言えない。

冒険者のパーティーという組織から進化した形態、クラン。
このクランに加入することにより、冒険者はギルドに所属しているだけでは受けられない恩恵が手に入る。

クランの規模によっては、冒険者ギルド自体が無視できない存在へと大きくなることもある。
勿論、クランに入れば多くの冒険者と一応は仲間になる。
その中には気に入らない奴が在籍している場合もあるので、絶対に加入した方が良いのかどうか……それは個人の考えや気持ちによるところ。

ただ、有名どころのクランが拠点としている街の若者であれば、冒険者になるのが目標……ではなく、冒険者になってどこそこにクランに加入するのが目標。
そんな未来のひよこたちもいるので、クランという存在は冒険者として活動するならば、嫌でも意識しなければならない存在。

ミレアナもクランという組織がどういった存在なのか、ある程度は理解していた。
しかし目の前の冒険者とその人物が在籍しているクランに対して、本当に……心の底から興味がないのだ。

「申し訳ありませんが、ハッキリと言わせてもらいます。あなたにも……あなたが所属する氷結の鋼牙というクランに対して、心底興味がありませんので」

もう一度……綺麗に深く、ギリスたちのラブコールはフラれてしまった。
この結果に、二人のやり取りも見ていた野次馬から小さな笑い声が漏れた。
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