転移したらダンジョンの下層だった

五百三十九話 うっかりやってはダメ

「……ミレアナが不機嫌そうな表情になっているが、何かあったのか？」

「いつも通りのことだ。面倒な視線が集中して集まったんだ」

「なるほど、それは確かにいつも通りだな」

ギルドに入れば、必ず凸凹コンビに注目が集まる。
それはもう、どうしようもない現実。

ソウスケがある程度成長するまで待つしかない。

「そういう訳だ、ミレアナ。そろそろ機嫌を直せって」

「……すいません、少しむきになっていました。ただ、やはりソウスケさんに侮るような視線を向けられる事にイラついて」

「あぁーー……その気持ちについては嬉しいよ。超嬉しい。でも、現状ではどこに行っても俺は下に見られるんだよ」

侮りの感情が含まれた視線を向けられることに、本人は慣れていた。
勿論、イラつきはする。

だが……もう仕方ないと思っている。
見た目の問題無いので、現状はどうしようもない。

（馬鹿が絡んできても、殺気を放ちながら睨めば大抵は引っ込む。体が大きくなるまでの我慢だ）

幸いにも成長期なので、身長は順調に伸びている。
このまま伸び続ければ、百八十センチを超える可能性もある。

「それにさ、俺に馬鹿が絡んで来たとして……負けると思うか？」

「思いません」

「思わないな」

二人は即答した。
自分たちのリーダーが有象無象に負けるなど、絶対にあり得ない。
心の底からそう思っている

「だろ。なら、それで良いじゃん。戦えば負けない……それで十分だと俺は思ってる」

本人の実力もトップクラスだが、蛇腹剣の能力を使えば実力は更に跳ね上がる。
勝てる相手など、そうそういない。

少なくとも、嫉妬や侮りなどの感情を含んで絡んでくるようなアホに負けることはない。

「という訳で、今日はのんびり街を回ろうぜ」

「……分かりました。のんびり楽しみましょう」

我がリーダーは心が広い。改めてそう思った……が、やはり不躾なカスは潰したいという感情は消えない。

（この感情はダンジョンのモンスター相手に発散しましょう……あっ、そういえば明日から一週間は学園の生徒達の模擬戦相手でしたね……）

学生を相手にストレスを発散するのは不味い。
それを今自覚出来て本当に良かった。

ミレアナがまだまだひよっこの学生を相手にストレス発散をしてしまったら……最悪の場合、ボキっとうっかり首の骨を蹴り折ってしまう。

他の二人も、学生を相手にうっかり本気をだしてはならない。
ソウスケが本気を出したらうっかり首を斬り落としてしまい。ザハークが本気をだしたらうっかり体中の骨をバキバキに折ってしまう。

「お二人共、本気を出したら駄目ですよ」

「……えっと、明日からの模擬戦のことか？」

「そ、そうです……すいません、言葉が足りませんでした」

らしくないミスをし、顔が赤くなってしまう。

本当に珍しいミスなので、ソウスケとザハークは思わず小さく笑ってしまった。

「大丈夫だって、最初は受け身で攻撃を防いでればある程度解かってくるし」

「ソウスケさんの言う通りだ。手加減して戦っていれば、学生が大怪我をすることはないだろ」

問題無い。大惨事が起こることなんてあり得ないと二人は思っていた。

リーダーであるソウスケの言葉は信用出来る。
ただ……ザハークの余裕な表情にはどこか不安を覚える。

（ザハークはそれなり不器用だから、基本的には心配いらないと思いますけど……生徒がそれなりに熱意がある子なら、その熱に当てられてうっかり本気を出さないか心配ね）

最近の戦闘光景から、徐々にザハークの器用さが上がっているのは知っている。
普通に戦っていれば問題が起こることはない。

「……ザハーク、やはり私はあなたがうっかりやらないか心配よ」

「ちょっと待て、相手は学生だろ。モンスターではない……そこまで心配しなくて良いと思うんだが」

「でも、相手がそれなりに戦えて熱意を持っていたら……釣られて熱くなりそうじゃない」

「うっ！！」

自分にそういうところがあると自覚しているので、否定出来なかった。

「はっはっは！　確かにザハークは少しそういうところはあるよな。でも、学園側だって模擬戦する時に直ぐ怪我を直せるように治癒士ぐらい傍に置いてる筈だろ」

その予想は見事に的中しており、ダイアスはソウスケたちが生徒達と模擬戦をする際には保健室の先生を一人借り、常備してもらう様に動いていた。