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四百三十話 様々な客

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「まぁ……知ってる人は知ってるかもしれないってレベルですよ」

ソウスケの言葉は間違っておらず、仲間であるミレアナとザハークの姿を見れば一目で覚えるが、ソウスケ達のパーティーはギルドの依頼をそこまで受けているわけでは無いので名がそこまで広まる実績が無い。

「この店にはやっぱりそこそこ有名な人が来ますか?」

「そうねぇ~~、それなりにこの街では有名な人が来るわね。太っ腹な人もいればちょっと心配になるような人もいるし」

「心配な人とはどんな人ですか?」

なんとなくは解るが、それでも興味があるので生の嬢から聞いてみたいという気持ちが強い。

「まずはそんなのお酒が強く無いのにたくさん頼んで飲んでしまう人ね」

「それは……でも、ミリウスさん達からすれば良いお客さんでじゃないんですか?」

金払いが良い客は基本的に嬢にとっても店側にとっても嬉しい。
ただ、最終的に潰れてしまう客は少々厄介なのだ。

「そうね、たくさんお酒を頼んでくれるのは確かに嬉しいわ。でも、お酒がそんなに強く無い人がたくさん呑んだらどうなるかしら?」

「酔っぱらって暴れるか……もしくはそのまま酔い潰れるかのどちらかですかね」

「大抵はそうなってしまうの。酔い潰れてしまうならまだ良いのだけど……暴れられると本当に面倒なのよ。だって、このお店のボーイ達はそれなりに強いけど、それでも敵わない人の方が多いじゃない」

「……そう、かもしれませんね」

実際に鑑定を使って調べた訳では無いが、それでもボーイ達の強さは中級レベルには及ばない。
この店に冒険者として有名な者がやって来るならば、ボーイ達だけで対処するのは難しい。

(そもそもそんな事をすれば出禁になると思うんだが……そこら辺はそう出来ない事情があるのか? いや、もしかいて出禁は出来るけど初めてやって来た相手だとどういう性格なのか分からないし、そこら辺を見抜いて事前に防ぐのは無理か)

ソウスケの考えは全く間違ってはいないが、そういった被害に合うのは最初の一店舗のみ。
その一店舗で問題を起こせば即座に歓楽街中にその者の名と特徴が広がる。

「それと、ソウスケ君みたいにまだ幼い子供がこういった店に来るのもちょっと心配ね」

「自分と同じぐらいというと……貴族の子息ってことですか」

「そうよ。基本的にソウスケ君と同じぐらいの歳の子で来るのは貴族の子息か……もしくは大きい商会の子供ぐらいね」

「なるほど。確かにそういった人達しか来れなさそうですね。あれ、でも……普通に考えてそんな人達が歓楽街に来ることじたい、ちょっと危なく無いですか?」

「そこは護衛の人達が付いて来てるから問題無いわ。その子が酔い潰れても護衛の人達が持って帰ってくれるし」

こういった店にやって来る子供は当たり前だがまだまだアルコールに耐性が無く、遺伝的に強く無ければ潰れる事が多い。
ただ、やっぱり貴族や商会の子供ということだけあって金払いは良いので、嬢達にとっては有難い客である。

「でも、その子達にはこれからまだまだ楽しい人生が待っている筈なのよ。人によっては大丈夫だけど、ハマってしまって抜け出せなくなる子もいるのよ」

「それは何と言いますか……お気の毒ですね」

「まっ、その場合は親に無理やり更生させられるか、追い出されるらしいのだけどね」

(そ、それはそれでお気の毒というか、ご愁傷様だな)

年齢が低ければ低い程、女性とのコミュニケーションが少なければ少ないほど、男はこういったお店にハマってしまう。

「それで一番心配というか……これは厄介なお客さんね」

「厄介なお客さん……それはそれで興味ありますね」

ミリウスの表情からしてただ厄介な客では無いという事を察し、それがどんな客なのか更に興味が湧く。

「それはねぇ……私達に本気で恋をしてしまう人よ」

「えっと……それは、悪い事なんですか?」

この世界には確かに身分の差によって叶わない恋がある。
ただ、嬢と貴族の子息や商人の息子が嬢に恋するのが悪いとソウスケは思わなかった。

「諦めてくれるのなら問題無いのよ。ただ……向こうが本気で恋していると、色々と面倒なのよ。少しの間恋人でいるぐらいなら大丈夫だけど、結婚するのは基本的に無理なのよ」

「結婚……な、なるほど。それは流石にハードルが高いですね」

無理な理由にソウスケは完全に納得出来た。

(貴族の子息や商会の息子が嬢と結婚……商会の息子はまだ可能性がありそうだけど、貴族の子息はどう考えても無理だろうな)
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