上 下
372 / 1,129

三百七十一話 殆ど使わないだろうけど

しおりを挟む
(職人だからか、人を見抜く目には優れているのかもしれないな)

店から出たソウスケは他の店を回りながら筋肉ドワーフとその娘のことを思い出していた。

(というか、あのおっさん絶対に強いよな。必要な素材は自分で採ってくる来る系の梶氏の人かもしれないな。まっ、そんな鍛冶師の方が腕は信用できるか)

勝手な経験則ながら、ソウスケは実戦の場を良く解っている商売人の方が信用出来ると考えている。

「ハンマーか・・・・・・持っていないことはないが、これほどまでに上等なハンマーは持っていないな」

ダンジョンの中で手に入れた宝箱の中にもハンマーはいくつかあったが、一度も使用したことがない。
だが、この先一定以上の威力を持つ打撃攻撃でなければ倒せないモンスターが存在する。

(ハンマーみたいな打撃専門の武器を持っておくのも悪くないか)

置かれてある武器を持ち上げると店長で鍛冶師でもある純粋なドワーフがソウスケに声を掛けてきた。

「お前さん、ハンマーや槌も使うのか?」

「いえ、基本的に長剣や短剣を扱うのがメインです。あとは素手での攻撃もしますね」

「じゃろうな。この街でお前さんの顔は初めて見たが、体格的には剣や手甲を装備して戦うタイプだ。腕力には自信があるのか?」

「はい。それなり自信はあります」

軽々とハンマーを持ち上げるソウスケにドワーフの鍛冶師は目を見開いて驚く。

(こいつは土魔法を習得し、一定以上の練度を持たない者でなければ持ち上げることが不可能に近いんだが・・・・・・こやつ、もしや魔法剣士の類か? 確かに魔力の総量も中々のようだ)

筋肉ドワーフと同じように多くの実力者を目にしてきた鍛冶師のドワーフは鑑定系のスキルを使わずとも、目の前の人物の実力や魔力総量などが大まかに解る。

(初めて見た顔だから他の街の実力者なんだろうが、歳はまだ二十を超えていない筈だ。それなのに接近戦も出来て魔法の実力も高いとは恐れ入った)

実力が恐らくは冒険者の中でBランク以上はあるだろうと予測したドワーフの店長はソウスケに特注のハンマーを買うかどうか尋ねる。

「お前さんがこいつを欲しいってんなら売ってやるぞ。ただし金はきっちりと貰うがな」

「因みにお幾らなんですか?」

「使った素材が素材だからなぁ・・・・・・白金貨三十枚でどうだ?」

(あ、阿呆みたいに高いな!!!!! でも、このハンマーの価値を考えれば当たり前か)

ソウスケが手に持っているハンマーは水龍の蒼剣に近い価値を持つ。
そしてソウスケの目の前にいるドワーフの鍛冶師はこの街でトップスリーに入る実力を持ち、使われた素材の価値も貴族が悲鳴を上げるほどに高価。

オークションで売れば最終的に白金貨三十枚では済まない程の価値があるので、お買い得といえばお買い得である。

(めったに使わない武器にそこまで金を使うのは如何なものかと思うが、それでもこんな価値のある武器を手に入れられると思えば安いものか)

働かずとも金が入るというわけではないが、副業の方が本業よりも圧倒的に儲かるソウスケにとって白金貨三十枚はそこまで高い買い物ではなかった。

「分かりました。このハンマー、買わせてもらいます」

「・・・・・・マジでかお前さん。白金貨三十枚だぞ」

「はい、金には結構余裕があるんで。パーティーの人数は少ないんですけど、仲間が超強いんで懐は結構暖かいんですよ」

白金貨三十枚を余裕で払うのは懐が結構暖かいどころの話ではない。

(仲間が超強いから、か。それでもこいつが財布を握ってるということはその仲間よりもこいつが強いって言ってるようなもんだ。実力は達者みたいだが、口の方はまだまだみたいだな)

今からドワーフの店長がソウスケの強さについて問い詰めようとすればソウスケは当然否定するが、それでも結論は変わらない。

(この兄ちゃんがリーダーだろう。こんなリーダーが大物なら、パーティーメンバーがどういったメンツなのか気になるな。まっ、この街で活動してればいずれ噂が聞こえてくるか)

ソウスケが白金貨をきっちり三十枚出したのを確認し、今までの鍛冶人生の中でおそらく最高傑作のハンマーを売った。
しおりを挟む
感想 251

あなたにおすすめの小説

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai
ファンタジー
人を助けた代わりにバイクに轢かれた男、工藤 英二 その魂は異世界へと送られ、第二の人生を送ることになった。 侯爵家の三男として生まれ、順風満帆な人生を過ごせる……とは限らない。 裕福な家庭に生まれたとしても、生きていいく中で面倒な壁とぶつかることはある。 そこで先天性スキル、糸を手に入れた。 だが、その糸はただの糸ではなく、英二が生きていく上で大いに役立つスキルとなる。 「おいおい、あんまり糸を嘗めるんじゃねぇぞ」 少々強気な性格を崩さず、英二は己が生きたい道を行く。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

異世界転移でのちに大陸最強の1人となった魔剣士 ~歌姫の剣と呼ばれし男~

ひぃ~ろ
ファンタジー
とある過疎化の進んだ地区で地方公務員として働いていた 橘 星那 《たちばな せな》高卒30歳独身、彼女無しが近くに住んでいた祖父の家に呼ばれ 蔵の整理をしたところ大きく古びた櫃のようなものを開けるとその中に吸い込まれてしまい きづいた時には見慣れぬ景色の世界、異世界へと飛ばされていた そこで数々の人々と出会い 運命の人に出会い のちにナンバーズと呼ばれる 大陸最強の13人の一人として名をはせる男のお話・・・・です ※ おかげさまで気づけばお気に入り6、000を超えておりました。読んでいただいてる方々には心から感謝申し上げます。  作者思いつきでダラダラ書いておりますので、設定の甘さもありますし、更新日時も不定、誤字脱字並びにつじつまの合わないことなど多々ある作品です。  ですので、そのような駄作は気に入らない、または目について気になってしょうがないという方は、読まなかったことにしていただき、このような駄作とそれを書いている作者のことはお忘れください。  また、それでも気にせず楽しんで読んでいただける方がおられれば幸いとおもっております。  今後も自分が楽しく更新していけて少しでも読んで下さった方が楽しんでいただければと思います。

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

処理中です...