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二百七十四話視野が狭くなる
しおりを挟む「ッ!!!! ッ、―――!!??」
「ふむ、何を言っているのかは解らないが、お前が苦しんでいるのだけは解る」
歪む視線の先にこの勝負に勝った少し口角を上げる鬼が見える。
ふざけるなと、心の中で叫びながらグラップラーフォレストコングはその場からノーモーションで指の力だけで後ろへ跳ぶ。
勿論そんな事をして大きな負荷が掛かった指が無事な訳が無い。
しかし痛覚耐性を持つグラップラーフォレストコングには当然の様に耐えられる痛みだった。
ノーモーションでのバックステップに不意を突かれ、折角覆った水球が剥がれてしまったがザハークの表情に焦りは現れない。
視界が元に戻り、肺に酸素を送る事が出来、追って来る水球を躱す余裕が出来た。
これからどうやってあの水球を躱しながら鬼を倒すか。
水球は目の前にある一つだけ。息をするという行為が奪われ、極端に思考が狭まっていたグラップラーフォレストコングは過去の情報をすっかりと忘れていた。
「ゴハッ!!???」
まずは距離を取ってこちらも遠距離で対応しよう。
そう考えていたグラップラーフォレストコングは見事にザハークの作戦に嵌ってしまった。
後ろに下がって準備を整えてから反撃する。
後ろに下がる時点で、同じ攻撃を貰った事にグラップラーフォレストコングはようやく気付く。
鬼が生み出していた水があの水球一つ分な訳がない。
周囲には無数の水球があるかもしれない。それを考えると下手に動けなくなってしまうがそう言っておられず、もう一度指の力だけで後ろに下がろうとしたが、ザハークはグラップラーフォレストコングと違い学習していた。
「足元をしっかりと見ていた方が良いぞ・・・・・・と言ってももう遅いか」
ザハークはグラップラーフォレストコングが指の力で移動しようとする数秒前に水球をぶつけた。
結果力加減を調節出来なかったゴリラの闘士は背中から地面に直撃した。
その衝撃により折角取り込んだ酸素が吐き出されてしまう。
動きが止まった数瞬を逃さずに水球がぶち込まれ、口の中が水で満たされてしまう。
それだけではなく、水球はグラップラーフォレストコングの口の中だけでなく、耳の中にまで侵入してきた。
生物的に・・・・・・本能的に不味いと感じたゴリラの闘士はその場から即座に動き出そうとする。
「ウォーターバインド」
だがそれをザハークは許さない。四肢と胴体に水の鎖で地面から離さない。
グラップラーフォレストコングの全力ならば無意味な行動かもしれない。
しかし今十分な酸素が体が無く視界が、耳の中がぐちゃぐちゃになっているゴリラの闘士には十全の力は発揮できなかった。
保険として持続時間が十数秒な代わりに強度を最大限まで上げた水の鎖が引きち千切られる事は無く、ついにグラップラーフォレストコングは力尽き、動かなくなった。
「・・・・・・意外とあっけなかったな。いや、そういう風に誘導したのは自分なのだから結果としては良いのだろう」
完全に動かなくなったグラップラーフォレストコング。
けれども万が一を考えたザハークはその場から動かず、通常サイズより小さくしたウォーターランスを喉元目掛けて放つ。
狙いはブレずに命中し、余計な部分を壊さずに戦いを終えた。
ザハークの戦いが終わってから一分後、ようやくソウスケとフォレストコングタチトの戦いが終わり、三人は合流する。
「悪いな、俺が一番時間が掛かった」
「ソウスケさんのところが質で言えば一番面倒だった筈です。それに一分や二分など対して変わりませんよ」
「自分も同じです。自分も少し実験をしていたので本来の終了時間よりは遅くなった筈です」
身体強化のスキルを使い、力と速さに技術の三つのゴリ押しでグラップラーフォレストコングを圧倒する事もザハークには可能だった。
「俺は戦ってる最中にチラチラッとしか視界に入って無かったから正確には分らなかったけど、打撃戦から魔力を使った戦いに切り替えたんだろ」
「見事なものでしたよソウスケさん。水球を使って酸素の呼吸を停止させての完全勝利です」
「水球を使って・・・・・・あぁ、なるほど。なんとなくイメージ出来た。それは、確かに冒険者としては最適な倒し方だな」
「恐縮です」
冒険者にとって依頼を受けているなら討伐部位はしっかりと確保していなければいけないが、その他の売れる素材や魔石もグチャグチャにしなければギルドに売って更に金を得る事が出来る。
そういった積み重ねでギルドからの信用が少しづつ積み重なるのも事実。
「さて・・・・・・ここら辺のモンスターは大体倒しただろうし、他の同業者が来る前にササッと解体を終わらせてしまうか」
まだ少し不器用ながらも確実に腕が上達しているザハークとそこそこ慣れてきたソウスケに、腕前は既にプロのミレアナが計十三体のモンスターの解体を行い、掛かった時間は三十分。
ミレアナがいる事で血抜きに時間がとられる事無く圧倒的な速さで終わった。
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