上 下
210 / 1,129

二百九話ここでもか

しおりを挟む
「ふぅ・・・・・・朝、か。っと、そういえば昨日は頭にタオルを巻いたまま寝たんだったな」

髪型が変わる様にと昨夜、髪の毛を乾かした後に頭に巻いてそのままにしていたタオルを外し、自身の手で頭を軽く触る。

「良い感じだな。鏡でちょっと見てみるか」

ベットから降りてソウスケは鏡の前に立って自身の髪型を確かめる。

「・・・・・・・・・・・・ふっ、なんだろうな。今までずっとストレートだったから物凄い違和感があるな。まぁそれでも、これでちょっとは同業者から見下されることは無いか?」

ソウスケが自身の少し変化した容姿を確認しているとミレアナが目を覚ました。

「んぅ・・・・・・おはようございますソウスケ、さ、ん・・・・・・」

「おう、おはようミレアナ。・・・・・・どうしたんだそんな呆けた顔をして。やっぱり変かこの髪型は」

自分の髪の毛を触りながらソウスケは恥ずかしそうに笑うが、ミレアナは今のソウスケの髪型を一切変だとは思っていない。

「そ、そんな事無いですよ。と、とても似合っていると思います」

「そうか? それなら嬉しいんだけどな。取りあえずこれで少しぐらいは俺に絡んでくる同業者の数が減るだろう」

ソウスケに絡んでくる冒険者がゼロになるとはミレアナも思っていないが、それでも髪型一つでかなり印象が変わったソウスケを見る限り四分の一ぐらいは減るかもしれないと思う。

「はい、今のソウスケさんの外見ならば下らない事で絡んでくる冒険者も少なくなるかと」

「そう願うばかりだな。さて、朝飯を食ったらすぐにダンジョンへ向かおう」

パパッと食事を終えてダンジョンに向かい、到達階層を増やしてお目当てのモンスターを倒して素材を手に入れたい。そう思っていたソウスケだが物事はそう簡単には進まない。


「なぁなぁ、君たちもダンジョンに挑むんだろ。なら俺達一緒にパーティーを組んで探索しないか?」

朝食を食べているソウスケ達のテーブルに三人の冒険者が声をかけて来た。
男が二人に女が二人。服装から前衛後衛のバランスが取れているパーティーだと解る。

年齢は全員が十代後半。ソウスケが自分達と歳が近く、傍にエルフが自身達より数段強いと雰囲気から感じ取り、この二人と組めば今より深い階層に潜れるのではないかと思いソウスケとミレアナに声をかけた。

そんな思惑が合って声をかけられたソウスケは表情にこそ出していないが、内心では表情を歪めていた。

(・・・・・・まさか酒場でもダンジョンに一緒に潜らないかと誘いを受けるなんてな。別に今のところ大して名が売れている訳でもないんだが。でも、ミレアナからはこの人何となく強いなってオーラが出て来るからミレアナの強さ目当てで誘って来たのか?)

ソウスケの考えは全て合っている訳では無いが、大まかには合っていた。
勿論その探索一回限りでの誘いだが、ソウスケとしては是非とも遠慮したい。

(見た目ランクEからDってところか? 別に弱いとは思わないけど、特別強いとも思えないな。何か凄い奥の手を隠している様には見えないし。てか、まず俺達がこいつら一緒にダンジョンを探索するメリットはないんだよな)

即刻に誘いを断りたい。しかし自分が行ってものらりくらりと躱してミレアナと交渉を始めるかもしれない為、ソウスケはテーブルの下で四人には見えない位置でミレアナの足を突いた後に×を描く。

それだけでミレアナはソウスケがどうしたいのかを理解して四人に答えを返す。

「申し訳ありませんが私達は二人でダンジョン探索を進めているので、その誘いは断らさせていただきます」

「そ、そうなんですか。で、でも二人よりも自分達と組んで六人の方が探索のベースは速くなると思いますよ」

男の冒険者の言う事は間違ってはいない。だが、明らかにランクとは不相応な実力を持っている二人にとっては全く逆。
自分達と実力が近く、足の速さと持久力が有れば少し話は変わっているが目の前の四人が自分達の速さに付いてこれるとは到底思えない。

(自分達の常識を他人に当てはめるなと言いたいところですが、そんな事を言えば周囲で食事をしている冒険者達に要らない誤解を与えるかもしれない。それだけは避けたいところです)

余りにきっぱり断ったり、悪意は無くとも相手を見下す様な言葉を言えば乱闘騒ぎになるかもしれない。
仮にそういった事態になったとしてもミレアナは一向に負ける気はないが、多少なりとも目立つ事には変わりなかった。

ミレアナが誘いを断る言葉を選んでいると一人の冒険者がやってくる。

「おいお前ら、そこのエルフの姉ちゃんと坊主は二人で潜るって言ってんだ。あまり迷惑をかけるような誘いは良くねぇぞ」

身長は百八十後半、体格も腕はか細い女性の腕ほど太い。一目で虚仮威しでは無いと解る風貌の男が四人の冒険者に注意の言葉をかける。

「じ、ジーラスさん。ぼ、僕たちは決して彼女たちに迷惑をかけるつもりは・・・・・・それにやはり二人のダンジョン探索は危険ですし」

「迷惑かどうかを決めるのはエルフの姉ちゃんと坊主だ。それにな、誰かを心配するならもう少し強くなってからにしろ。言っとくが、こっちのエルフの姉ちゃんにとってはお前らは足手まといにしかならない」

きっぱりとお前たちは足手まといだと言われた四人の表情は歪む。
足手まといだと言って来た男は自分達より先輩であり、ランクも上。しかし冒険者になってまだ数年とはいえそれでも冒険者としてプライドがある。

「た、確かにそこのエルフの方は僕達より腕は上かもしれません。ですがジーラスさんが言う程足手まといにはならない筈です」

パーティーのリーダーである男に同意するように他の三人も頷く。
しかしジーラスは首を横に振って四人の考えを否定する。

「いいや。俺が言う程足手まといになる筈だ。エルフの姉ちゃんと坊主は二人で潜る事を前提としてダンジョンに挑んでいる、おそらく移動速度を重視しているんだろう。そこでまずお前たちがいる時点で荷物になる」

ジーラスが自分の考えを当てている事にソウスケは多少驚くが、その通りなので顔には出さないが心の中でその通りだと呟く。

「そんで戦闘に関してもエルフの姉ちゃんがいればお前たちが戦闘に加わるより速く片が付く。モンスターパーティーにでも襲われたら話は別かもしれないが、仮にそうなったとしたら余計に足手まといだ」

お前たちがこの二人と組めば、お前たちに利益はあるかもしれないがこの二人には一切の利益は無い。この二人にとっては迷惑でしかないから一緒に探索するのは諦めろ。
そういった意味を含まれた言葉を受けたリーダーの男は歯ぎしりをして握りこぶしに力を入れる。

そこで口には出さない様にしていた言葉をつい出してしまう。

「な、なら・・・・・・そっちの少年はエルフの女性の足手まといにはならないと言うんですか」

幾ら髪を上げたとはいえ、幼さが完全に消える訳では無い。
四人から見てソウスケは自分達より年下でありランクも低く、実力も自分達より下で冒険者歴もソウスケよりは長いと思っていた。
殆どの事はあっているが一つだけ間違っていた。

ソウスケは目の前の四人よりも冒険者歴は短くランクも下。
だが、実力では全くの逆だった。

「そうだな・・・・・・正確には解らねぇけど、取りあえずお前らと違ってエルフの姉ちゃんの足手まといやお荷物にはならねぇだろうな。だから一緒にパーティーを組んでるんだろ」

ジーラスの言葉に周囲の笑い声が大きくなり、四人の表情はだんだんと赤くなる。

「分かりました!!!! 失礼させて貰います、行くよ!!!!」

これ以上この場にいて笑い者になりたくないと思った男は声を張り上げて仲間に声をかけ、宿から出て行く。
周囲の冒険者や商人達などは恥ずかしさに耐えきれず逃げ出した四人を見て、少し笑い過ぎてしまったかと思って苦笑いになる。

出て行った四人の冒険者に同情しなくはないが、それでも面倒な相手が消えてくれてソウスケとしては嬉しかった。
しおりを挟む
感想 251

あなたにおすすめの小説

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai
ファンタジー
人を助けた代わりにバイクに轢かれた男、工藤 英二 その魂は異世界へと送られ、第二の人生を送ることになった。 侯爵家の三男として生まれ、順風満帆な人生を過ごせる……とは限らない。 裕福な家庭に生まれたとしても、生きていいく中で面倒な壁とぶつかることはある。 そこで先天性スキル、糸を手に入れた。 だが、その糸はただの糸ではなく、英二が生きていく上で大いに役立つスキルとなる。 「おいおい、あんまり糸を嘗めるんじゃねぇぞ」 少々強気な性格を崩さず、英二は己が生きたい道を行く。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

異世界転移でのちに大陸最強の1人となった魔剣士 ~歌姫の剣と呼ばれし男~

ひぃ~ろ
ファンタジー
とある過疎化の進んだ地区で地方公務員として働いていた 橘 星那 《たちばな せな》高卒30歳独身、彼女無しが近くに住んでいた祖父の家に呼ばれ 蔵の整理をしたところ大きく古びた櫃のようなものを開けるとその中に吸い込まれてしまい きづいた時には見慣れぬ景色の世界、異世界へと飛ばされていた そこで数々の人々と出会い 運命の人に出会い のちにナンバーズと呼ばれる 大陸最強の13人の一人として名をはせる男のお話・・・・です ※ おかげさまで気づけばお気に入り6、000を超えておりました。読んでいただいてる方々には心から感謝申し上げます。  作者思いつきでダラダラ書いておりますので、設定の甘さもありますし、更新日時も不定、誤字脱字並びにつじつまの合わないことなど多々ある作品です。  ですので、そのような駄作は気に入らない、または目について気になってしょうがないという方は、読まなかったことにしていただき、このような駄作とそれを書いている作者のことはお忘れください。  また、それでも気にせず楽しんで読んでいただける方がおられれば幸いとおもっております。  今後も自分が楽しく更新していけて少しでも読んで下さった方が楽しんでいただければと思います。

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

処理中です...