上 下
189 / 1,129

百八十八話何もないのが一番

しおりを挟む
「・・・・・・ふぅ、やっぱりつまらないな」

見張りを始めてから約一時間、ソウスケは欠伸をしながら愚痴っていた。
未だにソウスケ達を襲う襲撃者は現れていない。

余りに暇すぎるのでソウスケは四つの短剣でジャグリングを始める。
過去にお手玉しかやった事が無いソウスケだが、手元を見ず指を刃で切ってしまう事無く続けている。

「随分と器用だねソウスケ君。案外曲芸が趣味だったりするのかい?」

「そんな事無いですよ。ジャグリングなんて今初めてやりましたから」

ブライドは眠そうにしているソウスケが急にジャグリングを始めたのに驚き、気になり声を掛けた。
いきなり声を掛けて来たブライドに、見張りを始めてから気配感知を使い続けているソウスケは特に驚かず反応する。

「それにしては上手いね。手元も全く見ていないし。短剣も実は短剣がメインなのかな?」

「そう言う訳では無いですよ。基本は長剣で戦います。まぁ、メインの武器を失った時に予備として使える程度ですよ」

実際にソウスケはロングソード、長距離攻撃が出来て接近戦も行える蛇腹剣、格闘漫画などで何度も見た動きを思い出しながら実行する徒手空拳。

その三つがソウスケのメイン武器。勿論魔法も使うがメインで戦う事は今のところない。
短剣はせいぜい投擲ぐらいにしか使えない。

(まぁ・・・・・・鍛冶師のおっさんに造って貰った短剣ならメインで戦う事が出来そうだな)

使い捨てのつもりで頼んだ短剣が粗末に扱える物では無いと分かった時、ソウスケは嬉しくなかった訳では無いが少し残念に思ったのも事実。
今度言った時はコボルトの牙や爪で大量の短剣を造って貰おうと決めていた。

「そうなのかい? ソウスケ君なら短剣でも十分に戦えると思うけどね。まぁ、今それはどうでもいいことか。ところで初めての護衛はどうだい?」

「そうですね・・・・・・・・・・・・正直暇の一言かと。商人にとってはそれが一番結果だと思いますけど」

「ふっふっふ、確かにそう感じるのは無理無いかもしれないね。君の実力を考えれば。ただ、ソウスケ君言う通りそれが商人にとっては一番良い結果だ」

商人にとってモンスターや盗賊が襲ってこないという事は商品に傷がつかないという利点だけでは無い。
護衛の度にモンスター盗賊が現れ、冒険者達が傷を負ったや亡くなってしまったという結果が続けば依頼を受けてくれる冒険者もが少なくなる。

冒険者を始めたばかりのルーキーはそういった情報を集めないが、ベテランと呼ばれる冒険者達は最低限の情報を集めているため中々腕の立つ護衛を雇えなくなってしまう。

「ブライドさんは商人の護衛中に今日襲ってきたゴブリンの様な低ランクでは無く、もう少し強く数の多いモンスターの集団や盗賊が襲って来た事は過去にありましたか?」

「・・・・・・ああ、何度かね。モンスターに襲われた時は怪我を負ったけど他のパーティーを含めて死者は出なかった。でも盗賊に襲われた時に僕たちのパーティーは大丈夫だったけど、他のパーティーの死者が出た事はあった」

どこか悲しそうな表情を浮かべるブライドを見て、もしかしてその死者は知り合いだったのかとソウスケは直感的に思った。

「まぁ、その死者が出たパーティーのリーダーが盗賊のアジトを探して潰そうと言ったんだ。普通ならそんな事はしないんだけど、その時は少し感情は正常では無かったというか・・・・・・冷静では無かったんだろう。そのリーダーの意見に僕は賛成した」

決して低くないリスクを冒す事にブライドが賛成する。
その事実に今まで自身が見て来たブライドの一面しか知らないソウスケは表情に出して驚いた。

「意外かな? これでも感情で動く事はあるよ。いくつかのパーティーから対人戦が得意な者、斥候に長けている者達でアジトを探して乗り込んだんだよ。結果は殲滅する事に成功。油断してたみたいで五分と掛からず終わったんじゃないかな。盗賊貯めこんでいた物を持ち帰る事が出来たからかなりの臨時収入になったね」

笑いながら話すブライドだが、ソウスケは心の底から笑っておらず、その表情が仮面だと解った。

(仲間・・・・・・俺も、もしミレアナが殺されたら平常心でいられないだろうな)
しおりを挟む
感想 251

あなたにおすすめの小説

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

処理中です...