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第二章
第70話 繁華街
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早速、幸せを噛み締め、頬が緩む私はふと噴水のすぐ横に控えている馬車に目をやった。直後、その影からルイスが現れた。
「お待ちしておりましたお嬢様。 ささ、どうぞこちらへ」
ルイスに促され、ヴィルドレット様にエスコートされながら私は馬車に乗り込んだ。続いてヴィルドレット様も乗り込み、向かい側に腰を落ち着かせる。
「それでわ出発致します。商店街までは20分ほどで着くと思われます」
ルイスはそう言うと扉を閉め、前の方へと移動した。どうやらルイスがこの馬車を走らせてくれるようだ。
屋敷を出発してから約20分後、ルイスの予定時刻通り、目的地の繁華街へ到着した。
エドワード領は経済活動が盛んで王国の中でも指折りの力ある領地だ。
そんなエドワード領の中心街なのだから当然、沢山の人々が行き交い、賑わっている。
一番多く目につくのは呉服店だ。ショーウィンドウを備えた店が幾つも立ち並び、その店々の嗜好は展示されているマネキンに着せられた商品で見てとれる。
他には、平民でも気構える事無く入店出来そうなアクセサリー店から、明らかに上級貴族が客層と思しき格式高そうな宝石店。それにドレスを取り扱う店に、靴屋。さらには今流行りの貴族令嬢が肌身離さず持ち歩く、あの豪奢なデザインのあの扇の専門店まである。
ありとあらゆるジャンルの店々が無数に立ち並ぶ様は正に、『繁華街』。
人混みの中、私とヴィルドレット様は立ち並ぶ店々を右側に、横に並んで歩く。
「まずは昼食にするか」
日も高くなり、そろそろお腹が空いたと思っていたところだった。自然と笑みが零れる。
「はい!」
元気に返事をしたちょうどその時、私はある事を思い立った。
「私、ヴィルドレット様がいつも行くと言っていた大衆レストランに行ってみたいです!」
ヴィルドレット様が騎士として王城で勤務する日、即ち平日に食べる昼食は、ほぼほぼ固定されているらしい。
『いつも俺が行く大衆レストランのオムライスは絶品だ!』
あのヴィルドレット様が珍しく力強い口調で言うものだから、それからずっとそのオムライスが気になっていたのだ。
「……そこに、行きたいのか?」
どことなく、苦い表情を浮かべるヴィルドレット様に対して、私ははっきりと首を縦に振る。
「あそこは王都寄り、この繁華街の外れにある。だから少し歩くぞ?本当に、いいのか?」
何故か念を押すような物言いに対して私は力強く頷いた。
それを受けたヴィルドレット様は一つ小さい溜め息を吐くと、
「そうか、分かった。 じゃあ、そこへ行くとしよう」
諦めたような表情で如何にも渋々といった感じで同意してくれた。
――あぁ、そうか。
考えてみれば、ヴィルドレット様にとっては『いつものオムライス』。
いくら美味しいとはいえ、たまには違ったものが食べたかったのだろうと、言った直後に後悔するのは私の悪い癖だ。
とはいえ、そのオムライスに私がありつけるチャンスは今日しかない。
基本、食べ物において見境が効かない私はそのまま遠慮なく我儘を通させて貰おうと決意を固める。
「お待ちしておりましたお嬢様。 ささ、どうぞこちらへ」
ルイスに促され、ヴィルドレット様にエスコートされながら私は馬車に乗り込んだ。続いてヴィルドレット様も乗り込み、向かい側に腰を落ち着かせる。
「それでわ出発致します。商店街までは20分ほどで着くと思われます」
ルイスはそう言うと扉を閉め、前の方へと移動した。どうやらルイスがこの馬車を走らせてくれるようだ。
屋敷を出発してから約20分後、ルイスの予定時刻通り、目的地の繁華街へ到着した。
エドワード領は経済活動が盛んで王国の中でも指折りの力ある領地だ。
そんなエドワード領の中心街なのだから当然、沢山の人々が行き交い、賑わっている。
一番多く目につくのは呉服店だ。ショーウィンドウを備えた店が幾つも立ち並び、その店々の嗜好は展示されているマネキンに着せられた商品で見てとれる。
他には、平民でも気構える事無く入店出来そうなアクセサリー店から、明らかに上級貴族が客層と思しき格式高そうな宝石店。それにドレスを取り扱う店に、靴屋。さらには今流行りの貴族令嬢が肌身離さず持ち歩く、あの豪奢なデザインのあの扇の専門店まである。
ありとあらゆるジャンルの店々が無数に立ち並ぶ様は正に、『繁華街』。
人混みの中、私とヴィルドレット様は立ち並ぶ店々を右側に、横に並んで歩く。
「まずは昼食にするか」
日も高くなり、そろそろお腹が空いたと思っていたところだった。自然と笑みが零れる。
「はい!」
元気に返事をしたちょうどその時、私はある事を思い立った。
「私、ヴィルドレット様がいつも行くと言っていた大衆レストランに行ってみたいです!」
ヴィルドレット様が騎士として王城で勤務する日、即ち平日に食べる昼食は、ほぼほぼ固定されているらしい。
『いつも俺が行く大衆レストランのオムライスは絶品だ!』
あのヴィルドレット様が珍しく力強い口調で言うものだから、それからずっとそのオムライスが気になっていたのだ。
「……そこに、行きたいのか?」
どことなく、苦い表情を浮かべるヴィルドレット様に対して、私ははっきりと首を縦に振る。
「あそこは王都寄り、この繁華街の外れにある。だから少し歩くぞ?本当に、いいのか?」
何故か念を押すような物言いに対して私は力強く頷いた。
それを受けたヴィルドレット様は一つ小さい溜め息を吐くと、
「そうか、分かった。 じゃあ、そこへ行くとしよう」
諦めたような表情で如何にも渋々といった感じで同意してくれた。
――あぁ、そうか。
考えてみれば、ヴィルドレット様にとっては『いつものオムライス』。
いくら美味しいとはいえ、たまには違ったものが食べたかったのだろうと、言った直後に後悔するのは私の悪い癖だ。
とはいえ、そのオムライスに私がありつけるチャンスは今日しかない。
基本、食べ物において見境が効かない私はそのまま遠慮なく我儘を通させて貰おうと決意を固める。
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