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第二章
第49話 魔女を思い出に、これからのハンナを…。
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夜が明けて、俺とハンナは朝食をとるべく食堂へ行くと、
「やぁ、おはよう。 昨日はとても良い結婚式だった。そして、昨夜(初夜)もご苦労だったな」
父上がニヤニヤと揶揄うような表情でこちらを見ながら長テーブルの真ん中辺りに陣取っていた。
そして、隣では何故か頬をポッと赤くしながら俯くハンナ。
すると、その様子に父上の表情が綻ぶ。
「そうか、そうか! 昨夜も燃え上がるような夜を二人で過ごしたわけか! それは何よりだ!!」
……やれやれ。 もういい。勝手にやっててくれ。
俺は溜息を吐く以外何も反応を示さないまま、隣り合わせに2人分の朝食が整えてある片方の席に着いた。遅れてハンナも俺の隣に腰を落とした。
「それはそうと、父上が食堂で食事をとるなんて珍しいですね」
「何を言っている? 家族全員で食卓を囲むのは当たり前の事だろう?」
これまで食事など仕事の合間に執務室で簡単に済ませる程度のだったというのに、ハンナがこの家に来てからこの変わりようだ。
義理とはいえ、娘が出来た事がよほど嬉しいのだろう。父は実の息子である俺には見せないようなデレつい表情でハンナと2人仲良く談笑しながら食事を始める。
そして口下手な俺はというと当然、2人の会話の輪に入れるわけもなく、いつものように蚊帳の外。
俺は無言でパンを手に取り黙々と食べる。
「ハンナが我が家へ来て今日で3日目だな。 突然の環境の変化で疲れていないか?」
「いいえ。 私は元気だけが取り柄ですので。だから大丈夫です!むしろ、ヴィルドレット様の妻としての教養を得る為に早速今日から頑張る所存です」
「あははは! それは頼もしい!良い心掛けだ! しかし、私はハンナの体が何より心配だ。確かに、ヴィルドレットの妻として、当家の一員としての教養は身に付けて欲しいが、それは明日からで良い。まずは今日一日体をゆっくり休めなさい」
確かにそれが良いだろう。たった2、3日の間だが色々とあった。更には嫁として、更には下級貴族だったハンナにとっては、その環境の変化も相まって心労が募っているはず。
そして俺にとっても密度の濃い数日間で。特に驚くべきは、俺の心境の変化だろう。
あれほど魔女に心酔していた俺の心に魔女以外が入り込む余地などあり得ないと思っていた。
今や俺の心の中にははっきりとハンナの存在がある。もちろん魔女の存在もだ。
今思い返してみても不思議だ。
何が、不思議かってハンナの存在が俺の心の中に入ってくる過程があまりにも自然で、まるで、元から存在していたかのように、いつの間にか居座っている。
俺が愛する者は魔女のみ。その誓いは固く、揺るがないものだが、その想いを貫く義理は俺には無い。何せ、俺からの一方的な恋心に過ぎないのだから。
でも、魔女のあの言葉が――
『クロが私の旦那さんになってくれる?』
この言葉が俺のハンナに溺れようとする心に待ったを掛ける。
俺はおもむろに視線を隣へ移した。
そこには父上と談笑するハンナのキラキラとした笑顔があり、俺は昨夜の事を思い出す。
『待つのは辛いです……』
妻はそう言ったのだ。 待たせるわけにはいかない。
しかし、呪いのように固着した魔女に対する恋心は今尚健在で、果たしてこれが無くなってくれる日は来るのだろうか? そして、俺が妻に「愛している」と胸を張って言える日が来るのだろうか?
俺は決心する。魔女に対する恋心を持ちながらでも、その強すぎる想いに掻き消されない為にも、
今世、俺はハンナと共に必ず幸せになると。
そう強く、固く誓った。
「やぁ、おはよう。 昨日はとても良い結婚式だった。そして、昨夜(初夜)もご苦労だったな」
父上がニヤニヤと揶揄うような表情でこちらを見ながら長テーブルの真ん中辺りに陣取っていた。
そして、隣では何故か頬をポッと赤くしながら俯くハンナ。
すると、その様子に父上の表情が綻ぶ。
「そうか、そうか! 昨夜も燃え上がるような夜を二人で過ごしたわけか! それは何よりだ!!」
……やれやれ。 もういい。勝手にやっててくれ。
俺は溜息を吐く以外何も反応を示さないまま、隣り合わせに2人分の朝食が整えてある片方の席に着いた。遅れてハンナも俺の隣に腰を落とした。
「それはそうと、父上が食堂で食事をとるなんて珍しいですね」
「何を言っている? 家族全員で食卓を囲むのは当たり前の事だろう?」
これまで食事など仕事の合間に執務室で簡単に済ませる程度のだったというのに、ハンナがこの家に来てからこの変わりようだ。
義理とはいえ、娘が出来た事がよほど嬉しいのだろう。父は実の息子である俺には見せないようなデレつい表情でハンナと2人仲良く談笑しながら食事を始める。
そして口下手な俺はというと当然、2人の会話の輪に入れるわけもなく、いつものように蚊帳の外。
俺は無言でパンを手に取り黙々と食べる。
「ハンナが我が家へ来て今日で3日目だな。 突然の環境の変化で疲れていないか?」
「いいえ。 私は元気だけが取り柄ですので。だから大丈夫です!むしろ、ヴィルドレット様の妻としての教養を得る為に早速今日から頑張る所存です」
「あははは! それは頼もしい!良い心掛けだ! しかし、私はハンナの体が何より心配だ。確かに、ヴィルドレットの妻として、当家の一員としての教養は身に付けて欲しいが、それは明日からで良い。まずは今日一日体をゆっくり休めなさい」
確かにそれが良いだろう。たった2、3日の間だが色々とあった。更には嫁として、更には下級貴族だったハンナにとっては、その環境の変化も相まって心労が募っているはず。
そして俺にとっても密度の濃い数日間で。特に驚くべきは、俺の心境の変化だろう。
あれほど魔女に心酔していた俺の心に魔女以外が入り込む余地などあり得ないと思っていた。
今や俺の心の中にははっきりとハンナの存在がある。もちろん魔女の存在もだ。
今思い返してみても不思議だ。
何が、不思議かってハンナの存在が俺の心の中に入ってくる過程があまりにも自然で、まるで、元から存在していたかのように、いつの間にか居座っている。
俺が愛する者は魔女のみ。その誓いは固く、揺るがないものだが、その想いを貫く義理は俺には無い。何せ、俺からの一方的な恋心に過ぎないのだから。
でも、魔女のあの言葉が――
『クロが私の旦那さんになってくれる?』
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俺はおもむろに視線を隣へ移した。
そこには父上と談笑するハンナのキラキラとした笑顔があり、俺は昨夜の事を思い出す。
『待つのは辛いです……』
妻はそう言ったのだ。 待たせるわけにはいかない。
しかし、呪いのように固着した魔女に対する恋心は今尚健在で、果たしてこれが無くなってくれる日は来るのだろうか? そして、俺が妻に「愛している」と胸を張って言える日が来るのだろうか?
俺は決心する。魔女に対する恋心を持ちながらでも、その強すぎる想いに掻き消されない為にも、
今世、俺はハンナと共に必ず幸せになると。
そう強く、固く誓った。
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