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奴隷の認識
しおりを挟む奴隷はその場で引き取った。
家に届けてもらえば良いだろうと父は言っていたが、いやだと駄々をこねた。俺は今、連れて帰りたかったのだ。
店は小さな道をくねくね曲がる、奥まった場所にある。そんなところではもちろん乗り物にのって移動するには少々道がせまいため、大きなとおりに出るまでは徒歩で移動する。人通りは大通りに比べればそれほど多いというわけではないが、それでもがやがやと言うくらいには賑わっていた。
すれ違う人々をよけながら、
ひょこひょこと、なんとも頼りなさげに歩く奴隷の彼に歩幅をあわせて帰路をたどる。
父と俺が前、彼が後ろ、という形であるいているのだが。
やはりというか。
かなりの視線が俺たちに降り注がれていた。
理由はいろいろあるだろうが、一番はきっと…奴隷の彼だろう。
彼には首輪がつけられている。首輪からは鎖が伸び、その端を持っているのは——俺。
つまりそれは、彼が奴隷で、俺がその主人だということを示す。
普通、庶民は奴隷を持たない。普通に買うだけでもそこそこ値が張るし、維持費もかかる。その上、買ったときから貧弱で死にやすいとあっては、奴隷を買うのは損だ、と考える人が多いのだ。
だから、だいたい奴隷というのは貴族のような金持ちな人々がもつもの、と民衆には考えられている。ゆえに、彼らにとっては奴隷の姿が珍しく、つい視線が向いてしまうのだろう。
また、それに加え、
奴隷は一般に、汚らしいもの、として認識されている。
殴ったりして良い、好きに使役して良い、ものとして扱って良い。こいつは人じゃない。と。
だから人々は奴隷の彼に軽蔑の眼差しを向ける。
自分たちより下等なものとして。
そして、その視線を一身に受ける奴隷の彼。
彼は僕の前に主人がいたようなので、こういう扱いは、受け慣れているのだろうか。顔を少し伏せるだけで、特に何も反応していなかった。
気の毒に。
そんな気持ちが湧いて出る。けれど、俺の立場的に今はどうしようもできない。
凄く凄く、歯がゆい。
「父上」
「…なんだ、彰。やはり奴隷は置いてきた方が良かっただろう?」
俺がこの視線に耐えかねたと思ったのか、そういう父。
たしかに俺はこの視線に耐えかねた。けれど意味が違う。
「あの奴隷の手を握ってもいいですか」
「…はぁ。だめだ」
「む。何故ですか」
まあ、聞かなくても分かる。奴隷の手を握るなど、この国では言語道断。ありえないことだった。
そしてもしそれをしたならば。俺…いや、俺たちはきっと貴族社会において生きづらくなる。今共に歩くことを許されているだけで、父の懐の深さがうかがえるというものだ。
父も俺が「何故ダメか」の答えを知っていると分かっている。だから俺の問いには答えなかった。
難儀な世界。
俺にとってこの世界は息苦しい。
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