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プロローグ
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美しい。
彼の第一印象はその一言に尽きた。
木々の間から溢れる日の光を受け、キラキラと宝石のように輝く銀色の髪。
整った鼻と、引き結ばれた唇が、陶器のような肌の上にバランスよく配置され、まるで人間味がない。顔だけ見ればまるで聖なるもののようだ。反して、首より下は、足首まですっぽりカーキ色の布で覆われていて、何となく神聖さを感じさせる容姿とあっていなかった。
そして最も特筆すべきことが一つ。
耳。
三角耳。まるで動物のようなそれは、おそらく、獣人というのものの特徴に当てはある。まがい物でなければ彼は獣人という地球では空想上のものとされている種族なのだろう。
いろいろなことが現実離れしていて、物語上の人物であるかのような彼の人物に
出会った瞬間思わず息を飲んだ。
しかしその空気は、
「おいあんた死ぬぞ!」
彼の一言目で一気に霧散した。
「・・・え?」
「いいから走れ!死にたいならここじゃないどっかで死ね!」
今はとにかく走れ!と、彼の神聖なる姿と粗野な口調のギャップに戸惑う暇もなく、腕を掴まれて強引に走らされる。
袖から見える手首は俺より細いくせに、引っ張る力は予想以上に強い、というか痛い。
「もっと早く走れねぇの!?」
「これが精一杯だよ!」
煩わしそうに顔をしかめる彼。しかし、反論したい。
俺は体育祭でアンカーを任されたくらいには足が速いんですが!?100メートル11秒切るときもありますけど!?
獣人さんが早すぎるだけだ!
言いたい気持ちは山々だが、獣人さんに引っ張られ限界を超えた速度で走っているせいで、息が切れ、話すこともままならない。
「ち、しょうがねぇ」
彼は俺の手を離して急に立ち止まった。思わず俺も足を緩めるが、すかさず「先走れ!全力!」と叱咤され慌てて走り出す。
とりあえず走り出すが、それでも彼を一人残すのは気がかりで、ちらっと振り返るとそこには、
とてつもなく巨大な熊が立っていた。
巨大な熊。10メートルくらいありそう。
そして熊の前には、50センチくらいの剣を両手に1本ずつ構えた獣人の彼。
どう見てもかなわない。圧倒的な差だった。
なのに彼は立ち向かっている。俺を背にして。足が遅いとか文句を言いながらも俺を引っ張って、追いつかれそうになった途端、俺だけ先に走らせて、自分は足止めなんて。
つまり彼は、・・・俺を逃がすために自分を犠牲にしようとしているのか?
こんな、見ず知らずの他人のために?
「おい、あんた・・・」
「黙って走れ!」
こちらをチラリとも見ずに吐かれた怒鳴り声に、身がすくむ、と同時に唇を噛み締めた。
わかってる。俺は戦えない。走ることだけで精一杯だし、攻撃手段を持っていない。だから俺は、戦えない俺は足手まといだってちゃんとわかってる。
けど、心のどこかが引っかかる。
「このまま置いていけない」「彼が犠牲になって自分だけ助かるのは嫌だ」と。
けど、俺が助けに行ったところで、むしろ彼が生き残る可能性を消してしまうだけかもしれない。いや、確実にそうだ。
けどやっぱり、彼一人だけ置いていくのは俺の良心が許さない。
(けど、戦闘に介入して俺は、無駄に死んでしまうだけになるのでは?)
けど、けど、けど。
冷静な部分と、感情的な部分がごちゃごちゃと混じり合い、心の中で逆接が飛び交う。
非日常的な状況下で、ありえないような選択肢を突きつけられた俺の心は、限界だった。だから、俺は素直になった。素直に、・・・感情に従って、足を止め後ろを振り返った。彼を、自分を犠牲にして俺を助けようとしてくれた、彼を一人で死なせないために。
(けれど)
「え?」
「あ?なんで逃げてねんだテメェ。あぶねーって」
目に飛び込んできたのは、倒れている獣人さんでもなく、瀕死の獣人さんでもなく。
大きな傷跡から血を吹き出して倒れているクマと、その返り血を浴びて真っ赤に染まったかの獣人さんの姿だった。
いや、なんていうか
「予想外だ・・・」
彼の第一印象はその一言に尽きた。
木々の間から溢れる日の光を受け、キラキラと宝石のように輝く銀色の髪。
整った鼻と、引き結ばれた唇が、陶器のような肌の上にバランスよく配置され、まるで人間味がない。顔だけ見ればまるで聖なるもののようだ。反して、首より下は、足首まですっぽりカーキ色の布で覆われていて、何となく神聖さを感じさせる容姿とあっていなかった。
そして最も特筆すべきことが一つ。
耳。
三角耳。まるで動物のようなそれは、おそらく、獣人というのものの特徴に当てはある。まがい物でなければ彼は獣人という地球では空想上のものとされている種族なのだろう。
いろいろなことが現実離れしていて、物語上の人物であるかのような彼の人物に
出会った瞬間思わず息を飲んだ。
しかしその空気は、
「おいあんた死ぬぞ!」
彼の一言目で一気に霧散した。
「・・・え?」
「いいから走れ!死にたいならここじゃないどっかで死ね!」
今はとにかく走れ!と、彼の神聖なる姿と粗野な口調のギャップに戸惑う暇もなく、腕を掴まれて強引に走らされる。
袖から見える手首は俺より細いくせに、引っ張る力は予想以上に強い、というか痛い。
「もっと早く走れねぇの!?」
「これが精一杯だよ!」
煩わしそうに顔をしかめる彼。しかし、反論したい。
俺は体育祭でアンカーを任されたくらいには足が速いんですが!?100メートル11秒切るときもありますけど!?
獣人さんが早すぎるだけだ!
言いたい気持ちは山々だが、獣人さんに引っ張られ限界を超えた速度で走っているせいで、息が切れ、話すこともままならない。
「ち、しょうがねぇ」
彼は俺の手を離して急に立ち止まった。思わず俺も足を緩めるが、すかさず「先走れ!全力!」と叱咤され慌てて走り出す。
とりあえず走り出すが、それでも彼を一人残すのは気がかりで、ちらっと振り返るとそこには、
とてつもなく巨大な熊が立っていた。
巨大な熊。10メートルくらいありそう。
そして熊の前には、50センチくらいの剣を両手に1本ずつ構えた獣人の彼。
どう見てもかなわない。圧倒的な差だった。
なのに彼は立ち向かっている。俺を背にして。足が遅いとか文句を言いながらも俺を引っ張って、追いつかれそうになった途端、俺だけ先に走らせて、自分は足止めなんて。
つまり彼は、・・・俺を逃がすために自分を犠牲にしようとしているのか?
こんな、見ず知らずの他人のために?
「おい、あんた・・・」
「黙って走れ!」
こちらをチラリとも見ずに吐かれた怒鳴り声に、身がすくむ、と同時に唇を噛み締めた。
わかってる。俺は戦えない。走ることだけで精一杯だし、攻撃手段を持っていない。だから俺は、戦えない俺は足手まといだってちゃんとわかってる。
けど、心のどこかが引っかかる。
「このまま置いていけない」「彼が犠牲になって自分だけ助かるのは嫌だ」と。
けど、俺が助けに行ったところで、むしろ彼が生き残る可能性を消してしまうだけかもしれない。いや、確実にそうだ。
けどやっぱり、彼一人だけ置いていくのは俺の良心が許さない。
(けど、戦闘に介入して俺は、無駄に死んでしまうだけになるのでは?)
けど、けど、けど。
冷静な部分と、感情的な部分がごちゃごちゃと混じり合い、心の中で逆接が飛び交う。
非日常的な状況下で、ありえないような選択肢を突きつけられた俺の心は、限界だった。だから、俺は素直になった。素直に、・・・感情に従って、足を止め後ろを振り返った。彼を、自分を犠牲にして俺を助けようとしてくれた、彼を一人で死なせないために。
(けれど)
「え?」
「あ?なんで逃げてねんだテメェ。あぶねーって」
目に飛び込んできたのは、倒れている獣人さんでもなく、瀕死の獣人さんでもなく。
大きな傷跡から血を吹き出して倒れているクマと、その返り血を浴びて真っ赤に染まったかの獣人さんの姿だった。
いや、なんていうか
「予想外だ・・・」
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