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魔法が息を止める日

第38話 報酬、就寝

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「ゴーレムマスターの称号は、ギルドが発行する登録カードに記載されてはじめて意味を持ちます。私が手配しておきますので、お時間のある時に冒険者ギルドをご訪問ください」

「冒険者ギルド!? 魔法士ギルドじゃないんですか?」

 前に調べたことがある。冒険者ギルドの登録には年齢制限があって僕は条件に満たしていない。

「12歳以上であることは条件の一つだが、例外が認められている。S冠エスクラン冒険者または王族からの推薦状だ。キミは私と隣国トリアーナ王国のノエル=リエル公の推薦でこの国で最年少の冒険者になる」

 ノエル=リエル公?
 公爵だからトリアーナ王家の分家だと思うけど……聞いたことのない名前だ。

「ノエル=リエル公? その方には会ったこともないのですが……」

「私の古い友人だよ。時間を遡ることができる『時の魔法陣』の使用は3国合意に基づいて行われた。キミは身元引受人の私がいるサンブルク王国のこの町に住み、ハイレシア王国出身のリリアナ=ソレルの庇護下にある。つまりシュルト君との距離が一番遠いのはトリアーナ王国だ。実に面倒なことだが、形式だけでもキミとの接点をトリアーナに与え、バランスを整えておく必要がある。こうしておけば今後トリアーナへの入国もしやすくなる。近いうちに役立つだろう」

「……僕が冒険者」

 リリアナと同じ冒険者。
 小さな一歩かもしれないけれど、リリアナに近づいた気がする。

「冒険者ギルドに加入すれば入手できる情報も増え、一般人が立ち入れない場所にも入ることが許され、他の町のギルドのサポートも受けられる。称号も含めて存分に利用したまえ」

「ありがとうございます。感謝いたします」

 僕が頭を下げると、ゴーレム猫のルルがキセラの頭から僕の頭にジャンプしてくる。僕は片手でルルを押さえながら顔を上げる。

「話したいことは他にもあるが、キミも初めての長旅で疲れただろう。今日のところはキミが今この場で聞きたいことに答え、それでお終いにしよう」

 僕が今一番セラ様に聞きたいこと?
 それなら。

「ではひとつだけお願いします。今回の旅のどこからどこまでがセラ様の計画なのでしょうか。何が想定外で何が想定内だったんですか?」

「メキア村にメルギトスの娘がいることと、彼女の姓がローレンツだということは知っていた。それ以外のことは想定外だ。キセラなら強引に魔法を解除して魔剣を抜くことができたから、ルルメ君の存在は必須ではなかったよ」

 それなら僕たちがルルメと会わず、キセラが剣を抜く未来もあったってことか。そうなっていたら、メルギトスの記憶はルルメに届くことはなかった。

「トロメーアがメキア村を襲った目的を知っていたら教えて欲しいです」

「目的は魔剣『ドグマ』だ。別の守護者、第4のジュデッカの指示だということまでは分かっている。だが、何のために欲しがっていたかはトロメーアも聞かされていないようだね。どこからか噂を聞いて武器として手に入れたかったのか、他に理由があったのか……いずれにしても『ドグマ』は奪われず、メルギトスの妹ルルメによって抜かれた。既に魔剣は夜の世界に返還され、私の懸念は払拭されている」

「シュルト様、今は心配しなくていいと思います」

 気になるけれど、キセラの言う通りかもしれない。
 他に考えなきゃいけないことや、やらなきゃいけないことが沢山ある。

「わかりました」

「では最後に私から報酬の話をしよう。まず旅に出る前に取り決めしていたキミへの報酬は僕への質問だったね。数の制限はしないから質問に内容を書面に起こしてキセラに渡しておいてくれないか。回答は使いの者に届けさせる。質問の件はこれでいいね? 次に魔法士ギルドからの報酬だ。クエストの達成報酬として金貨10枚、ストレージの使用許可、解析が完了している全土魔法の使用許可とその資料を提供しよう」

「ストレージ! 本当ですか!?」

 この報酬が一番嬉しい!
 造ったゴーレムを持ち歩いたり、ゴーレムの素材を保管したり、外出時に荷物を入れたり、色々な使い方ができる。

「ストレージの使い方はキセラが教える。以前説明した通り、キミの造るゴーレムが強くなるほど盗まれた時のリスクが増していく。今後はストレージに保管してくれたまえ。土魔法の許可設定も含めて、後日あらためてこちらから連絡しよう」

 セラ様が立ち上がり、僕に向かって手を差し伸べてくる。
 握手だろうか。

「今夜はゆっくり眠るといい」

 僕はセラ様の手を取る。
 シチュエーションは全く違うけれど、300年前の世界でリリアナの手を取った時のことを思い出す。

「セラ様はシュルト様に厳しいです。もっと優しい言葉をかけてください。自分が9歳の頃のことを思い出してください。ちなみに9歳の私はどこにでもいる普通の子どもでした」

 キセラが言う。
 
「私は感謝しているよ」

「外から見ていると、そうは思えません」

「そうなのか? ではどうしたらいいのかな」

「抱きしめてあげてください。それが最大級の賛辞です」

「……これでいいかい?」

 恐る恐る、僕のことを抱き寄せてくるセラ様。お腹のあたりに僕の顔があたる。香水の香りだろうか、花のように優しい匂いがした。

「僕はセラ様のこと、好きですよ。だからもっと優しく接してください」

 正直な気持ちだ。
 強い口調は苦手だけれど、セラ様はリリアナみたいに僕のことを考えてくれている。

「……善処しよう。それでは転移魔法で家に帰すよ。動かずじっとしていてくれ」

 セラ様が長くて細い人差し指で空中に文字を書いていく。
 
「おやすみ、シュルト君」

「おやすみなさい、シュルト様」

 視界が闇に覆われ、次の瞬間僕は自宅の2階に立っていた。18日ぶりの我が家だ。馬車の中に荷物を置いてきてしまったけれど、もう全部明日でいい。
 パレードの喧騒がまだ耳に残っているけれど、自宅について安心したせいか急激に睡魔が押し寄せてくる。
 明日以降のことは明日考える。
 今夜は久しぶりのベッドでとことんまで寝よう。僕を起こす人は誰もいない。


【彼女の魔法完成まであと308日】
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