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伝説の魔王の剣

第24話 単眼の翼猫

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「実は……こちらの世界でゴーレムを造れるのは僕しかいないみたいで……夜の世界のゴーレムの話が聞けて良かったです」

 セラ様の話によると、人族の魔法は各国の魔法士ギルドが連携して管理していて、誰がどんな魔法を使用できるかも把握されているらしい。漏れはないそうだ。
 ルルメは滅多に見せない陰りの表情を見せ、

「そうですか……こちら側でゴーレムの技術は滅びましたか。私が眠りにつく前は、昼の世界にもゴーレム造りをする人材が一定数いたと記憶しています。あらゆる面でヒカリビトの技術力はヤミビトよりも遥かに優れています。但しそれは、長年にわたる殺し合いや行き過ぎた好奇心によって向上してきたものです。ヒカリビトのゴーレムも当初は私の世界と同じ用途で使われていたはずです。ですが、戦争の道具や財産の防護に特化していき……技術が殺されてしまったのでしょう」

 戦争が技術を洗練させる。
 回り回ってその技術は人の生活を豊かにするけれど、悲しい話だ。

「ルルメの推測の通りです。建設と破壊。ゴーレムの技術だけでなく、魔法技術全体に言えることですが……現代の魔法は過去に燃やされ埋められたものを掘り返して使っているに過ぎません」

「お二人は魔法や魔力という言葉に違和感を抱いたことはありませんか? ヒカリビトの技術なのになぜ『魔』なのか。個体差はありますが、魔族の多くは火・水・風・土……世界を構成する四元素を操る能力を生まれながらに持っています。魔族はそれらを法術と呼びます。『魔族が法術を行使するために使う力』が魔力であり『魔族を真似てヒカリビトが作った法術』が魔法なのです。魔族は長寿です。皆さんよりも遥かに始祖の存在に近く、神代の力が受け継がれて残っています。一方、皆さんが魔法と呼ぶものは、神の力とは関係のないヒカリビトが自ら創り出した技術なのです。何度も争いの火種となって破壊され、年月とともにすっかり衰退してしまったようですが、昼の世界に千年以上前にあった魔法帝国『サグラドマギア』の魔法は、魔族の力を遥かに超える――神の足元に手が届くほどの技術だったと伝え聞いています。『サグラドマギア』の魔法技術には魔族が関わっていたという話もありますが、」

 ぱんぱん、と手を叩く音がして僕らが目を向けると、木箱を持ったリュースが呆れ顔でこちらを見ていた。

「何の準備もできてねえじゃねえか。まーた長話かよ。飽きないな、お前らは。俺は疲れた! 酒だ酒! メシだメシ! 続きはメシの後にやってくれ!」

 話に夢中で焚火の用意しかできていなかった。
 キセラはリュースを宥めるために酒瓶をストレージから取り出し、リュースに投げ渡す。
 馬車からテーブルと椅子代わりの木箱とかを運んでこないと……。

「私も手伝います、シュルト」

 ルルメが一緒に馬車までついてくる。
 僕の肩に乗っていたメメが、にゃーと鳴く。

「あれ、ルル……?」

「ルルはずっとルルメの頭の上にいますよ。こちらは新しく造ったゴーレムで、名前は『メメ』です。まったく同じ姿だとルルと区別がつかないと思ったので、しっぽを2本に……」

「しっぽが破滅的に可愛いです。おいでメメ」

 メメは体を沈み込ませて、ぴょんと跳ねてルルメの頭の上に乗る。普通の猫なら頭の上に2匹も乗らないけれど、手のひらサイズなので、2匹が体を寄せ合って仲良く座っている。

「あの、もし良かったら、メメを貰ってくれませんか? まだまだ勉強中のゴーレムなんですけど……僕も何かお返しがしたくて」

 その提案を聞くなり、長身のメメルはしゃがみ込む。
 僕の目線よりも低い姿勢になり、懇願するように上目遣いで、

「あの、ワガママを言ってもいいでしょうか。今のままでも可愛いのですが、メメに翼をつけて単眼にしてもらえませんか?」

 単眼、翼、2本のしっぽのゴーレム猫。
 もはや猫じゃないけれど……それでルルメが喜んでくれるなら。

「いいですよ」

「ありがとう、シュルト!」

 初めて見る無邪気な笑顔。
 こちらが赤面してしまいそうな、その表情を見ていると、ルルメが元魔王の妹で現魔王の姉とは到底思えなかった。

 僕たちはいつものように賑やかに夕食を取った後、それぞれ自由に時間を費やした。
 リュースは美味しそうに酒を飲み続け、
 キセラはルルのソースコードの解析に夢中になり、
 ルルメは僕がリクエストに応えてメメの造形を修正していくのを、まるで奇跡を目の当たりにした少女のように眺めていた。

 メメの造形が完成した頃には、地平線から優しい朝の光がじんわりと広がり始めていた。横を見るとキセラがぶつぶつと独り言を呟いていて、リュースは少し遠くで酒瓶を抱いて眠っていた。

「完成ですか?」

「はい。気になるところがあれば修正します。僕にはゴーレムを飛ばす技術がないですから、問題がなければゴーレム化をお願いできますか?」

「素晴らしい完成度です。ゴーレム化します」

 ルルメが術石に触れ、聞き取れない言葉で何かを呟く。
 一気にゴーレムが硬化していく。

「おはよう、メメ」

 その言葉に応えるように、にゃーとひと鳴き。
 メメの顔の中心にある瞳がゆっくりと開き、ぱちぱちとまばたきを繰り返す。両翼を大きく広げ、打ち上げ花火のようにもの凄い速度で垂直に空に飛び立つ。
 上空を舞うメメ。

「僕もルルメみたいなゴーレムが造れるようになりたいです」

「シュルト、あの子を造ったのはあなたです。とても嬉しいです。一生大切にしますね」

 喜んでもらえて良かった。
 僕は昼間も起きていたから眠い……日中はキセラたちと一緒に馬車で眠ることになりそうだ。

 今日、ようやく僕たちはメキア村に到着する。


【彼女の魔法完成まであと320日】
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