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井戸の中
第2話 vs.スライム
しおりを挟む彼女は今日も決められた時間にやってきて僕にキスをする。
今朝はその後、数秒間だけ抱きしめられた。何か嫌なことがあったらしい。彼女は僕と話すことはなくなってしまったけれど、キスの長さや深さ、温度や息づかい、唇の潤い具合でその時の感情を伝えてくれる。
「今日はいいゴーレムが作れそうな気がするよ」
彼女は僕の言葉なんてまるで聞こえない様子で、立ち止まることなく工房から出ていってしまった。
僕は気を取り直してゴーレムを造りはじめる。
「よいしょ、っと!」
いつもよりやや多めの粘土をテーブルにどんっと置く。
腰を入れて粘土を押し引き、体を大きく使ってこねる。粘土がかなり柔らかくなってきてから魔力を練り込むと、いつもよりも全体に魔力が行きわたっている気がした。
「うーっ! きっつーっ!」
手首が痛い。腰もつらい。金属製のヘラをつかって粘土を縦に千切りにし、それらをまとめてまたひとつの塊に戻していく。ねりっねりっ。いつもよりも少し手ごたえが重い気がする。続いて僕は粘土を丁寧に人型に整えていく。
「よしっ!」
少し短足かもしれないけれど重心が低い分バランスは取りやすいはず。昨日よりも左右の腕の太さも長さも均等になった。僕は仕上げとしてゴーレムの胸に赤く透明な術石を埋め込む。続いて僕はゴーレムに向かって呪文を唱える。すると術石が鈍い赤色の光を放ち、ゴーレムに命が吹き込まれる。この術石は彼女が作ってくれたものだ。彼女は高名な魔法士の弟子だと冒険者のカミルが教えてくれた。もしかしたら僕は凄い人の彼氏なのかもしれない。
「うん。今回は、なかなか良さそう」
これまで造った中で一番のデキと言っていい。カッコいいとは到底言えないけれど、どっしりと地に足がついている。全身に厚みをつけた分、全長は昨日よりも少し低そうだ。
このゴーレムならもしかしたらスライムを倒すことができるかもしれない。僕はできたばかりのゴーレムを台車に乗せて意気揚々と鑑定院に持ち込んだ。
「こんにちは、セーシャさん」
「いらっしゃい。今日もゴーレムの鑑定ですよね?」
「お願いします」
鑑定院の受付嬢のセーシャさんは、少し青みがかった髪をかき上げ、鑑定装置の準備をはじめる。僕は台車をそばに移動してゴーレムを待機させた。
「バトルも一緒にお願いします。サイズはCです」
セーシャさんに聞かれる前に必要な情報を伝える。
「ありがとうございます。さあどうぞ」
笑顔のセーシャさんの目の前で、僕のゴーレムが鑑定台の上に立つ。音もなく鑑定装置から一枚の紙が出てきた。今回僕が持ち込んだゴーレムの鑑定証だ。
名称:なし
種別:人型
LV:1
魔力:G
攻撃:E
防御:E
総合:F
サイズ:C
以上、鑑定結果である。
「やった!」
攻撃と防御が2ランクも上がっている。レベルは相変わらず1だけれど。11回目にしてついにオールGを脱出したんだ! 帰ったら今日の製作過程の復習をしないと!
「それでは、バトル会場に転送しますね。前回と同じで相手はスライムですから、シュルトさんもご一緒に転送させて頂きます」
「はい」
セーシャさんは僕とゴーレムを魔法で地下闘技場に転送してくれる。
鑑定院の地下闘技場には7つバトルエリアがある。広さも大きさも様々で、僕がいつも転送されるのは最も狭い会場『ヤマト』。地下闘技場の中で一番広い『アトラス』では、過去にドラゴンと戦った冒険者がいたらしい。
僕のゴーレムもいつかあそこで戦えるくらい、強くなれるのだろうか。
【彼女の魔法完成まであと335日】
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