2 / 44
第1話 最悪姉妹と犬
しおりを挟む
足音が近づいてくる。
「この時期に雪が降るなんて珍しいねー」
「そうね」
2種類の声。
ふたつの女の声。
「どーしたの、お姉ちゃん?」
……お姉ちゃん。ということは、姉妹か。
足音が消えた。
どうやら立ち止まったらしい。
「……さくら」
「ホントだ。もう桜の季節なんだね」
「でも、雪」
「あはは。なんだかおかしいね」
「私は、雪も桜も好き」
「あたしも好きだけど、寒いのは苦手かな」
「そう?」
「シロちゃんなんて、今日は、ずっと家の中にいるよ」
「シロは寒がりだから」
「うん。ゴーちゃんは、こんなに元気なのにね」
その言葉に同意するかのように、
ワンワンワンッ!
……犬か。
「あっ、そんなに引っ張るなーっ」
グルルルルルゥ……。
犬の唸り声が、俺の耳元で聞こえる。
「ここになにかあるの?」
ワンワンッ!
うるさいから、そんなに騒ぐな……。
俺は思う。
だが、声を出す力も残っていない。
とても眠い。
そっとしておいて欲しかった。
暗くて、
冷たくて、
どうしようもなく、眠い。
がりがりがり……。
「ゴーちゃんが、雪を掘り出したよ、お姉ちゃんっ!」
「食べ物でも埋まってるのかしら」
ひょっとして俺のことか。
犬畜生に食われるなんて、嫌な最後だな……。
がりがりがり……。
がりがり……。
がり、
「あ、なんか見えてきたよっ!」
じょ~~~……。
「……ゴーちゃん」
「残念。食べ物じゃなかったわね」
じょ~~……。
……ん。
なんだか、
じょ~……。
なんだか、顔が生温かい……。
「き、」
「どうしたの?」
「きゃぁぁぁああああああああああ!!!!!!!!!」
「わ、おっきな声」
「く、首ぃぃっ! 生首ぃぃぃ!!」
「あら本当」
「なにのん気な事言ってるの! これはバラバラ殺人なんだよ!」
「そう? でもこの人、身体もあるけど」
「……あ」
「ほんとだ。じゃあ、普通の殺人事件かな」
グルルルルルゥ……。
「あ、こら、ゴーちゃんダメだよぉ!」
ずるずるずる……。
痛い。
おもいっきり噛まれてるぞ、俺……。
「めっ!」
めっ、じゃねぇ……。
早くこのくそバカ犬をどうにかしてくれ。
まあ、雪の中からは、脱出できたみたいだけど。
「わかったわ」
「なに、お姉ちゃん?」
「ゴーちゃんは、この人をうちに連れていこうとしてるのよ」
俺には食い殺そうとしているとしか思えないが。
「え、まだ生きてるの?」
「息してる」
「……あ、ほんとだ」
グルルルルルゥ……。
ずるずるずる……。
すごい力で地面を引きずられている、気がする。
「家まで運んでくれるのかなぁ」
体の感覚がなくなってきている。
右肩を強烈に噛みつかれているが痛みはない。
「がんばれ、ゴーちゃん♪」
犬に任せてないで、お前が頑張れ。
「帰ったらご褒美よ」
……なんて姉妹だ。
こいつらは人間じゃない。
女でも2人がかりで運べば、なんとかなるだろうに。
いくら見ず知らずの人間でも死にかけてるんだぞ。
グルルルルルゥ……。
ずるずるずる……。
だんだん意識が遠のいていく……。
「あと200メートル♪」
俺はあと200メートルも引きずられるのか……。
「頑張れ♪ 頑張れ♪」
誰でもいい、助けてくれ……。
異世界にでも転移させてくれ……。
「あっ、そう言えば家にソリがあったわね」
「ソリ?」
「あれにこの人を乗せて運べば、私たち2人でも、なんとかなるんじゃないかな」
助かった……。
つーか、最初からそうしろ。
「あと150メートルなのに……」
非常に残念そうな妹。
「でも、肩からすごい血が出てるから」
「……うわ」
「左肩に変更するって手もあるけど」
頼む、勘弁してくれ。
「……すごい血」
「ね、すごいでしょう」
……俺の右肩は、どうなってるんだろう。
体中の感覚は、もう完全に失われていた。
かなりの間、雪の中にいたから、凍傷にかかってしまっているようだ。
「あたし、ソリ取って来るね」
「転ばないでね」
「うんっ」
どうやら妹が行ってくれるらしい。
グルルルルルゥ……。
ずるずるずる……。
「もういいのよ。ゴーちゃん」
ワンワンッ!
「……すごい血」
ぽつりと姉が呟く。
そんなにすごいのか?
「……大丈夫かしら。この人」
大丈夫じゃなくさせたのは、誰だと思ってるんだ。
不満をぶちまけたかったが金縛りにあったように体の自由がきかない。
目が開かない。
口も利けない。
身体を動かすこともできない。
いまの俺の目に映るのは闇だけ。
なのに、意識だけは妙にハッキリしていた。
桜の季節、雪の降る日。
俺は犬の小◯にまみれながら、
右肩を食い千切られそうになりながら、
最後には、悪魔のような姉妹に拉致された。
ただ、友人の墓参りに来ただけなのに。
「この時期に雪が降るなんて珍しいねー」
「そうね」
2種類の声。
ふたつの女の声。
「どーしたの、お姉ちゃん?」
……お姉ちゃん。ということは、姉妹か。
足音が消えた。
どうやら立ち止まったらしい。
「……さくら」
「ホントだ。もう桜の季節なんだね」
「でも、雪」
「あはは。なんだかおかしいね」
「私は、雪も桜も好き」
「あたしも好きだけど、寒いのは苦手かな」
「そう?」
「シロちゃんなんて、今日は、ずっと家の中にいるよ」
「シロは寒がりだから」
「うん。ゴーちゃんは、こんなに元気なのにね」
その言葉に同意するかのように、
ワンワンワンッ!
……犬か。
「あっ、そんなに引っ張るなーっ」
グルルルルルゥ……。
犬の唸り声が、俺の耳元で聞こえる。
「ここになにかあるの?」
ワンワンッ!
うるさいから、そんなに騒ぐな……。
俺は思う。
だが、声を出す力も残っていない。
とても眠い。
そっとしておいて欲しかった。
暗くて、
冷たくて、
どうしようもなく、眠い。
がりがりがり……。
「ゴーちゃんが、雪を掘り出したよ、お姉ちゃんっ!」
「食べ物でも埋まってるのかしら」
ひょっとして俺のことか。
犬畜生に食われるなんて、嫌な最後だな……。
がりがりがり……。
がりがり……。
がり、
「あ、なんか見えてきたよっ!」
じょ~~~……。
「……ゴーちゃん」
「残念。食べ物じゃなかったわね」
じょ~~……。
……ん。
なんだか、
じょ~……。
なんだか、顔が生温かい……。
「き、」
「どうしたの?」
「きゃぁぁぁああああああああああ!!!!!!!!!」
「わ、おっきな声」
「く、首ぃぃっ! 生首ぃぃぃ!!」
「あら本当」
「なにのん気な事言ってるの! これはバラバラ殺人なんだよ!」
「そう? でもこの人、身体もあるけど」
「……あ」
「ほんとだ。じゃあ、普通の殺人事件かな」
グルルルルルゥ……。
「あ、こら、ゴーちゃんダメだよぉ!」
ずるずるずる……。
痛い。
おもいっきり噛まれてるぞ、俺……。
「めっ!」
めっ、じゃねぇ……。
早くこのくそバカ犬をどうにかしてくれ。
まあ、雪の中からは、脱出できたみたいだけど。
「わかったわ」
「なに、お姉ちゃん?」
「ゴーちゃんは、この人をうちに連れていこうとしてるのよ」
俺には食い殺そうとしているとしか思えないが。
「え、まだ生きてるの?」
「息してる」
「……あ、ほんとだ」
グルルルルルゥ……。
ずるずるずる……。
すごい力で地面を引きずられている、気がする。
「家まで運んでくれるのかなぁ」
体の感覚がなくなってきている。
右肩を強烈に噛みつかれているが痛みはない。
「がんばれ、ゴーちゃん♪」
犬に任せてないで、お前が頑張れ。
「帰ったらご褒美よ」
……なんて姉妹だ。
こいつらは人間じゃない。
女でも2人がかりで運べば、なんとかなるだろうに。
いくら見ず知らずの人間でも死にかけてるんだぞ。
グルルルルルゥ……。
ずるずるずる……。
だんだん意識が遠のいていく……。
「あと200メートル♪」
俺はあと200メートルも引きずられるのか……。
「頑張れ♪ 頑張れ♪」
誰でもいい、助けてくれ……。
異世界にでも転移させてくれ……。
「あっ、そう言えば家にソリがあったわね」
「ソリ?」
「あれにこの人を乗せて運べば、私たち2人でも、なんとかなるんじゃないかな」
助かった……。
つーか、最初からそうしろ。
「あと150メートルなのに……」
非常に残念そうな妹。
「でも、肩からすごい血が出てるから」
「……うわ」
「左肩に変更するって手もあるけど」
頼む、勘弁してくれ。
「……すごい血」
「ね、すごいでしょう」
……俺の右肩は、どうなってるんだろう。
体中の感覚は、もう完全に失われていた。
かなりの間、雪の中にいたから、凍傷にかかってしまっているようだ。
「あたし、ソリ取って来るね」
「転ばないでね」
「うんっ」
どうやら妹が行ってくれるらしい。
グルルルルルゥ……。
ずるずるずる……。
「もういいのよ。ゴーちゃん」
ワンワンッ!
「……すごい血」
ぽつりと姉が呟く。
そんなにすごいのか?
「……大丈夫かしら。この人」
大丈夫じゃなくさせたのは、誰だと思ってるんだ。
不満をぶちまけたかったが金縛りにあったように体の自由がきかない。
目が開かない。
口も利けない。
身体を動かすこともできない。
いまの俺の目に映るのは闇だけ。
なのに、意識だけは妙にハッキリしていた。
桜の季節、雪の降る日。
俺は犬の小◯にまみれながら、
右肩を食い千切られそうになりながら、
最後には、悪魔のような姉妹に拉致された。
ただ、友人の墓参りに来ただけなのに。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
SONIC BLUE!〜極彩のロックンロール〜
森上ゆらら
キャラ文芸
自由を手に入れた瑠璃は高校入学を期に、それまで殺風景だった日常が色付いていくのを感じた。個性豊かな友達と、バンドをやることになったはいいものの、何からやればいいのか分からない。そんな時、瑠璃は父の遺した動画を見つける。題名からして瑠璃に宛てたものではあるようで、瑠璃はひとまず再生する。実はそれは、ギタリストとして名を馳せた父の、瑠璃に向けたレッスン動画だった。見よう見真似で父の言う通りに練習していく瑠璃は、瞬く間に上達していく。だがそれだけではなく、彼女の持って生まれたある才能が、音楽を通して更に開花していき——予期しない方へと、彼女を導いてしまうのだった。瑠璃は得た仲間と、思い描いた夢に辿り着けるのか。青春ガールズバンドコメディー! ※小説家になろうにも掲載しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
小児科医、姪を引き取ることになりました。
sao miyui
キャラ文芸
おひさまこどもクリニックで働く小児科医の深沢太陽はある日事故死してしまった妹夫婦の小学1年生の娘日菜を引き取る事になった。
慣れない子育てだけど必死に向き合う太陽となかなか心を開こうとしない日菜の毎日の奮闘を描いたハートフルストーリー。
五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。
あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。
夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中)
笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。
え。この人、こんな人だったの(愕然)
やだやだ、気持ち悪い。離婚一択!
※全15話。完結保証。
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。
今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
第三弾『妻の死で思い知らされました。』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。
ラジメカ~スキル0ですがメカニック見習いはじめました~
もるまさ
キャラ文芸
田舎にある小さな自動車整備会社「オートサービスラジアル」に高校卒業後、曖昧な気持ちで就職した主人公。原付免許しか持っていない、まったくのスキル0で見習い整備士となった主人公『チョコ』と、先輩の気が強い女整備士『美鶴』との少し緩い物語。
彼らが働く「ラジアル」は、都会よりも少しだけ時間がゆっくり流れているかのように錯覚する、良くも悪くもアットホームな職場でした。
お互いが信頼関係を構築するまでの日常を時々シリアスに、時々コメディタッチで描きます。
サイキック症候群 〜psychic syndrome〜
響 夏華
キャラ文芸
昔、生まれつき特殊能力を持つことに悩み続けた1人の男が死神と契約を結んだことによって、様々な能力が時代を超えて他者へと受け継がれ、現代まできた。
力を持つことへの苦しみ、優越・・・
それぞれの思いを抱えた能力者たちが信念のもとに闘う!!
日常(少しギャグ)×サイキックストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる