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過去 - 09

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 < the terrace at night >

 ここのところ、いつも頭の片隅で、一枚のパネルが回転している

 表には『正しい』と書いてあり、

 裏には『正しくない』と書いてある

 どちらかに止まることなく、ぱたっぱたっと、パネルの裏表は交互に入れ替わる

 正しい

 正しくない

 正しい

 正しくない

 片時も頭から離れない

 私の決断は、正しかったのだろうか

 一体、私は誰を救ったというのだろうか

 1つの命を潰し、

 1つの意思を殺し、

 新たな一人の人間を誕生させたことで、誰が幸福になったというのだろうか

 ……あの子は生まれて幸せだったのだろうか

 私は首を振る

 あれは最良の選択だった

 手術は成功したし、

 今の結果は予想の範囲内であり、むしろ大成功と言える

 だが、

 彼女は失われてしまった

 カナは、宇佐美うさみカナとして生まれ変わった

 はじめは不安定だった人格の基礎は定着し、時間が経つにつれてカナとカナは、ますます距離が遠くなってきている


 私は私のエゴで、カナを消し去ってしまった

 後悔はしていない

 それなのに、どうしてか罪悪感が拭いきれない

「……ごめんなさい」

 自然と、謝罪の言葉を呟いていた

 3階のテラスで夜風にあたりながら、庭で歩行訓練をしているカナを眺める

 暗がりの中で、倒れ、立ち上がる

 服は泥だらけで

 時折、汚れた服の袖で両目をこすり、

 また歩き始める

 すぐに倒れてしまう。今度は起き上がらない

「……」

 下弦の月が雲に隠れ、カナの姿が見えなくなる

 今のカナは、日差しが強い昼間は、数分外にいるだけで皮膚が炎症を起こしてしまう

 彼女の苦痛を肩代わりすることができたら、どんなに気分が楽か

 私は音を立てないように部屋に戻り、そっと窓を閉める

 そのまま部屋を通り抜けて、廊下に出る

 立ち、止まる

 カナのために作らせた真新しい手すりが、廊下の端から端まで一直線に伸びている

 一ヶ月ほどかけて、屋敷のあらゆる所をバリアフリー化した

「……老後対策は完璧ね」

 私は眠い目をこすりながら、カナの着替えを取りに向かう

 頭の中では、相変わらず正否のパネルがパタパタと回転している
 
 
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