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第29話
しおりを挟む《何?》
緊急時以外は掛けるなと言われていた携帯に連絡をすると、前回と同じワンコールでエレナ先生が出た。
「カナは、元気ですか」
《ええ、元気よ。まさか、用件はそれだけじゃないでしょうね》
「あの……学校の友だちをカナに会わせたいんですけど……日曜日、会いに行ってもいいですか?」
《……。》
「先生?」
《伊月、あなたね……まったく、余計なことばかりしてくれるわ。いつ誰にどこまで話したの? #多川__たがわ__と白貫と、他は?》
「……二院ですけど」
《二院って、あの二院麻子? 学校一の秀才と伊月が友だちだったなんて、初耳よ》
「1年のとき、一緒のクラスでしたから」
《ふむ。まーいいわ、そのことは。で、その3人にどう話したの?》
「難病の手術を控えてる親戚の女の子がいるって……」
《その難病の子が居るの、私の家なんだけど》
「そ、そこはあれですよ。先生の巧みな話術で誤魔化してください。カナの家ってことにするとか」
《多少は後先考えて行動なさい》
「……すみません」
《うーん》
先生は数秒悩んだ後、
《いいわよ、連れて来ても。今更、カナちゃんのことが知れたところで、計画に影響
ないし》
「計画、ですか?」
《そーよ。どれだけ時間がかかるか判らないけれど……》
「……?」
《じゃー、切るわよ。やらなきゃいけないことが、山積みだから。そうそう。私も伝言があったわ。カナちゃんが帰るのにはまだまだ時間がかかりそう。一旦、無期限ってことで》
「待ってください」
《何?》
「カナは、本当に元気なんですよね?」
《ぼちぼちね》
「……さっきと言ってることが違いますけど」
《あらそう?》
「声、聞けませんか?」
《残念だけど、無理》
「一言でいいですから」
《んー》
「先生」
《『……進さま』》
「……」
《これでいい?》
「冗談は止めてください。ぜんぜん似てないですし」
《……チッ》
今、舌打ちしたよな、この人……。
「そんな子どもだましに引っかかるヤツいませんよ。もしかして、カナに……」
《あーうるさいうるさい。忙しいんだから、切るわよ》
「なにか隠してませんか?」
《山ほどね。当たり前じゃない》
「……」
《カナちゃんは近くにいないの。だから取り次げないの》
「……そう、ですか」
《何度も言ってるでしょう、私を信じなさい、って。ぜんっぜん役に立たなかった伊月の代わりに、私が頑張ってるんだから。日曜に会えるんだし、我慢してくれるかしら》
「……う」
それを言われると、何も言い返せない。
《じゃ、週末ね》
「……わかりましたよ」
《不服そうね》
「……」
《あ、そうだ。ねえ、伊月》
「……なんですか」
《動物園で、カナちゃんの体に変なことしなかった?》
「してません!」
《白状なさい。何かあったんでしょう?》
ふと、カナを抱きしめたことを思い出し、
「し、て、ま、せ、んっ!」
《ムキになってるところが怪しい》
「どこがですか。カナ相手に、俺が何するって言うんです?」
《……あ。そーいうことじゃないんだけど》
「……」
《カナちゃんの体質に急激な変異が見られたの。物質交代って言葉、知って──るわけないわよね》
「……ブッシツコウタイ?」
《説明する時間がもったいないから、今のは忘れて》
「俺はまた、ベンチ外ですか」
《スタメンに入れると、勝てる試合も勝てなくなるからね》
「……あんまりです、それ」
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