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葉月

第三十七話

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 ぽつんと、天井から落ちた雫が湯船に波紋を広げる。

「やっぱり狭いな」

 沈黙に堪えきれず、顔だけ振り返る。濡れた髪をかきあげている精悍な男は、薄く微笑んだ。その距離が思ったよりも近くて、どきりとする。
 少し広めとはいえ、男二人が浸かる湯船は窮屈で身動きがとれず、背後の男の肌がぴたりとくっついていた。

 最後に二人で風呂に入ったのは遥か昔のことで、自分の身の置き場など、とうに忘れてしまった。

「……ちょっと、やめろよ」

 悪戯な手が後ろから伸びて、脇腹や胸を撫で回す。くすぐったくて身を捩った。茹だった身体は簡単に疼き出してしまいそうで、男の手に手を重ねて引き剥がそうと試みる。

「いいだろ?」
「……風呂からあがってからにしようよ」

 俺の提案はあっさりと無視されて、胸の突起を摘ままれる。むず痒いようなチリチリとした快楽と、尻に当たる固い異物に、貴俊の欲情を感じて、思わず吐息が溢れた。

「……ぁ、………」

 古い風呂場は、小さな音でも拾い上げて反響させた。自分の唇から溢れた甘ったるい声が大きく響いて、かぁと羞恥心が煽られる。

 熱を帯びた男の瞳が細められる。そうして、優しく唇を重ね合わされた。腹の奥底から沸き上がった渇望のままに、男の唇に吸いつき、からかうように逃げる舌を追いかけて、絡み合わせる。ぱしゃんと跳ねる水音と、舌を絡ませあう水音に、劣情が募っていく。
 大きな手が内股を這い回る。貴俊は少し意地悪で、欲しいところには、なかなか触れてはくれない。焦れったくて、無意識に尻に当たる男のぺニスを擦ってしまえば、貴俊は喉の奥で笑った。

 湯の中でふぐりを撫でられる。揉みしだかれて、竿をゆっくりと焦らすように扱かれる。

「……ぅ……ん……」
「どう?」

 耳元に感じる熱い息。耳朶を甘く噛まれると、ダメだった。

「……きもち、……いい……」

 どこか安堵したような息が耳をくすぐる。亀頭を指の腹で撫でられて、好き勝手に弄ばれれば、抑えきれない矯声が溢れだす。

「……ぁ、い、いい、……」

 気をよくした貴俊は首筋に舌を這わせて、小さく吸い付く。遊んでいた手は、竿を握り込むと明確な意思を持って扱いていく。次第に追い上げられて、自ら腰を浮かして快楽をねだってしまう。
 それでも、煽るだけ煽られて、無情にも貴俊の手は離れていく。

「そっちに手をついて」
「え……、あ、……」

 腰を掴まれて、膝で立てば、バランスを崩してタイル貼りの壁に手をついた。背後から尻を掴まれて、孔を撫でられる。

「たまには、俺に準備させろよ」
「……え、……ここで、?」

 窮屈な湯船から身を捩りながら、貴俊はシャワーの水栓下にまで腕を伸ばして、チューブ形の容器を手に取った。
 羞恥心より焦れったさが上回り、貴俊が俺の尻にジェルを垂らすのを、息を飲んで、ただ見つめていることしかできない。
 粘度の高いジェルはとろりと尻の割れ目を滑っていく。男の指で粘液を塗り込むように入り口を撫でつけられれば、ぞわぞわと背中が痺れた。

「やわらかいな」

 男の言葉と共に、つっぷりと指を飲み込んでしまう。洗浄後のアナルは緩み、易々と異物を受け入れた。具合を確かめるような手つきで拡げられれば、滑る壁にしがみついて焦れったい快楽に身を任せるしかない。
「……ぁ、……ふ、……」
 腫れた前立腺を転がされると、堪えきれない吐息が溢れた。ぐちゅぐちゅといやらしい水音だけが風呂場に反響する。指が一本から二本へ。二本から三本へ増えて、甘い圧迫に身悶える。

 準備といっていたけれど、ほぐすにしては攻めるような愛撫。まさか、ここで最後までするつもりなのか。そう思った瞬間に、指は引き抜かれ、代わりに弾力のある熱が押し当てられた。

「このまま挿れるから」
「……え、や……ま、ッーーー」

 ぐちゅりと捩じ込まれたぺニスは固く熱い。初めて感じる生々しい肉の感触に身体が震える。スキンの薄い膜がなければ、直接、粘膜と粘膜が触れ合ってしまう。貴俊の熱に溶かされてしまいそうで、足が崩れそうになり、必死に壁にしがみついた。

「真人」

 低く掠れた声が浴室に反響して、身体の奥底に染み込んでいく。
「ここ意識して、」

 水面から浮いた腹を撫でられて、ぐっと押さえられた。否応にも貴俊の存在を意識させられ、それだけで上り詰めてしまう。

「ぁ、……ダメ、……ーーー」

 びくびくと、内股が震えて、そのまま膨れあがった悦楽が弾け飛べば、腹から全身に血が駆け巡る。

「あ、……た、たか、……や、め、ッ」

 達したばかりの敏感な身体を無遠慮に揺すぶられれば、バシャバシャと激しい水音が何重にも響き渡り、過ぎた快楽に息もできない。

「……ぁ、……は、……」

 不意に脳裏を過るのは、引き出しの奥にある薬。

 貴俊は本当にこんなことをしたいのだろうか。
 無理して俺に合わせているのだろうか。

 考えないようにしていた疑念が浮かんで、すぅと冷たいものが心臓を撫でる。

「真人」

 掠れた声は、切ない響き。抜き挿しされて揺すられて、狂おしい快楽に視界は霞み、思考も散らされていく。



「あ、あぁ…………」

 一際、深く捩じ込まれれば、腹の中に放たれる熱い粘液を感じた。体内に注がれる貴俊の劣情に、胸が熱くなる。

「……悪い。ごめんな」

 息も切れ切れに呟かれた謝罪の言葉の後には、咥え込まされたペニスがずるりと出ていく。

「……ん、大丈夫だよ」

 身体の一部を失うような喪失感に、貴俊を追うように腰が揺れた。背後の男に振り返れば、唇を奪われる。重なる息は乱れて熱く、ひどく、息苦しい。ずるずると湯船に身を沈めてしまう。
 貴俊の手がペニスに触れる。

「あ、……もう、待って」

 貴俊の瞳は充血し、背中からは湯気が立ち上っているよう。

「待たない」

 貴俊は意地悪く口角を持ち上げて、噛みつくようなキスをしかけてきた。情事の気だるげな余韻に火を灯すように、角度を変えて何度も男と唇を重ねて、舌を絡ませる。
 横目には、湯の中で白濁とした液体が広がっていた。



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