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紳士の嗜み
第94幕
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長方形の大きな箱は、白い布に覆われていた。するりと布が取り去られれば、重厚なガラスケースの中に吊り下げられた掛け軸が露になる。
掛け軸には、蒼い金魚がしっとりと泳いで水面を揺らしていた。繊細なタッチで描かれた金魚は、宝石を砕いて練り込まれた絵の具のためか、月のように静かな輝きを放っている。
「fantastic!」
ラウンジはざわめき、幻想的な金魚は、紳士淑女の視線を一身に集めた。オークショニアーが鑑定証を掲げてみたが、気に止める者はいなかった。
「こちらは神崎様からのご提供でございます。どうぞ、前の方でご覧ください」
名を呼ばれた紳士は、バーカウンターから薄く微笑んで、グラスを軽く上げた。四十代後半を迎えた中年男は、都会的なスマートなジャケットを羽織り、大人の色気を纏う。黒髪に混じった自然な白髪は、メッシュのように洒落ていた。
「それでは、3,000$から、」
蒼い金魚に魅せられた数名の紳士淑女が、獲物を狙う鋭い視線と小さな仕草をオークショニアーに送り、価格はみるみる上昇していく。
「41,000$が出ました。よろしいですか? 41,000$、これ以上はありませんか?」
ピタリと釣り値が上げ止まり、決着の空気が漂った。勝利を確信した恰幅のよい紳士がほくそ笑む。
コホンと咳払いが響いた。若い青年が小さな仕草で、合図を送る。オークショニアーが微笑んで、宣言する。
「50,000$が出ました。よろしいですか? これ以上はありませんか? よろしいですね? ……おめでとうございます、sir」
恰幅のいい紳士は眉を曇らせたが、すぐに気持ちを切り替えて、おどけたように肩をすくませると購入権を手にした青年に拍手に送った。
マダムが微笑み、バーカウンターの一角に、若いWinnerを招き入れる。
「では、結城様、こちらにサインを、」
結城博己は、小切手にペンを走らせる。
「お若いのに、随分と羽振りがいいんですね」
顔を上げれば、Sellerの紳士がグラスを傾けながら微笑んでいた。博己は、上機嫌で微笑み返した。
「母の代理ですよ。Mr.神崎」
掛け軸には、蒼い金魚がしっとりと泳いで水面を揺らしていた。繊細なタッチで描かれた金魚は、宝石を砕いて練り込まれた絵の具のためか、月のように静かな輝きを放っている。
「fantastic!」
ラウンジはざわめき、幻想的な金魚は、紳士淑女の視線を一身に集めた。オークショニアーが鑑定証を掲げてみたが、気に止める者はいなかった。
「こちらは神崎様からのご提供でございます。どうぞ、前の方でご覧ください」
名を呼ばれた紳士は、バーカウンターから薄く微笑んで、グラスを軽く上げた。四十代後半を迎えた中年男は、都会的なスマートなジャケットを羽織り、大人の色気を纏う。黒髪に混じった自然な白髪は、メッシュのように洒落ていた。
「それでは、3,000$から、」
蒼い金魚に魅せられた数名の紳士淑女が、獲物を狙う鋭い視線と小さな仕草をオークショニアーに送り、価格はみるみる上昇していく。
「41,000$が出ました。よろしいですか? 41,000$、これ以上はありませんか?」
ピタリと釣り値が上げ止まり、決着の空気が漂った。勝利を確信した恰幅のよい紳士がほくそ笑む。
コホンと咳払いが響いた。若い青年が小さな仕草で、合図を送る。オークショニアーが微笑んで、宣言する。
「50,000$が出ました。よろしいですか? これ以上はありませんか? よろしいですね? ……おめでとうございます、sir」
恰幅のいい紳士は眉を曇らせたが、すぐに気持ちを切り替えて、おどけたように肩をすくませると購入権を手にした青年に拍手に送った。
マダムが微笑み、バーカウンターの一角に、若いWinnerを招き入れる。
「では、結城様、こちらにサインを、」
結城博己は、小切手にペンを走らせる。
「お若いのに、随分と羽振りがいいんですね」
顔を上げれば、Sellerの紳士がグラスを傾けながら微笑んでいた。博己は、上機嫌で微笑み返した。
「母の代理ですよ。Mr.神崎」
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