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狼の遊戯
第42幕
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運命の番とは、魂が共鳴し合う程に惹かれ合ったアルファとオメガが番になることである。
世の全てのアルファとオメガが「運命の番」に巡り会えるわけではない。それは「奇跡」と呼ぶに相応しい程には、稀な出会いと呼べるだろう。
それは、長い歴史の上では、甘く美しい「運命」として語られてきた。
毒々しい赤い照明が灯る地下室が、博己と薫の逢い引きに使われる舞台であった。
窓もなく湿気が充満した部屋は、陰鬱として、かび臭い。
博己は、地下室に招き入れた薫の姿に小さく眉を曇らせた。雨に濡れたパーカーを着込み、背中を丸めている男は、酷く辛気臭く、如何にも被虐者らしい惨めさがあった。博己は、ベッドの前で硬直している薫に、顎で指示をした。けれど、薫の反応は鈍い。博己が苛立ちの色を匂わせた瞬間、薫は、おずおずと上着のポケットから小さな筒状のモノを取り出した。
博己は片眉を上げた。
「……あの、殺精子剤、です、」
薫の言葉に、博己はきつく眉を歪めた。その仕草一つに薫はびくりと肩を揺らした。アフターピルの入手経路を断たれた薫は、博己に別の避妊方法の了承を得ようとした。けれど、神崎家の事情など、博己が推し測るはずもない。博己に避妊の協力などを求めるのは、やはり煩わしく思われたに違いなく、薫は怯えたように言葉を震わせた。
「……やっぱり、」
薫は前言を撤回するように、殺精子剤の容器をポケットに戻して俯いた。
「自分で入れてみろよ」
けれど、博己は鼻で笑うように薫に言いつけた。薫が窺うように上目遣いで博己を見上げれば、博己は嘲笑を浮かべている。薫は怯えたように頷いて、震えるような手つきで衣服を脱ぎ去っていく。
博己は麗しい顔に似つかわしくない陰鬱な笑みを浮かべながら、判然としない屈辱感に堪えていた。
博己は薫を伴侶にするつもりはない。それでも、博己は薫は自分との間に子を宿すかどうかは、薫に選択の余地を残していた。隙など有る筈もない結城博己にとって、それは、彼自身にも認識できない程の、ほんの一握りの薫との未来への可能性であった。
そして、愚かな薫は、博己の子を孕むつもりはないのだと、博己に避妊薬を突きつけてしまった。
絶対的な支配者である博己の痛みなど、従属者の薫には知りようもない。衣服を全て脱ぎ去り、黒い首輪だけを身に付けた憐れなオメガは、ベッドに四つん這いになって頭を下げた。物覚えの悪い駄犬らしく、臀部や内腿には躾痕が幾つも残る。薫は、少し恥じらいながらも、自らのアナルに小さな白い錠剤を押し込んでいく。薫の体内の熱で溶け出す薬は、しゅわゅわと発泡しながら液体となる。
「……ん、……ひ、……」
薫は自分の指を咥え込んだまま、悩ましげに身を捩った。その光景は、自慰行為に耽るような卑猥さで、発情した雌犬のようだった。淫乱なオメガの醜態に、冷徹なアルファは加虐欲を煽られる。
「あ、い、いや、」
博己は枕元に転がる筒状の容器から、丸い薬剤を取り出すと、薫の濡れた穴にゆっくりと差し込んでいった。博己は薫の熱い体内で個体が溶け出していく感触を指先で愉しみながら、喉の奥で小さく笑った。
「たくさん入れた方が効果あるんじゃないのか?」
「……あ、……」
一錠で十分な効果があったが、博己は愉快な遊びを思い付いたかのように五個も六個も挿入していく。しゅわしゅわと音を立てるように熱を持って溶けていく粘液は、博己の指が抜けると、ひくつく穴から溢れてシーツを汚した。
博己はベッドに腰かけて、着ていたズボンの前を開らき、勃ち上がりかけたぺニスを引き出した。背後の薫に目配せすれば、薫は四つん這いのまま、博己の膝に手を添えて、媚びるように博己を見上げながらぺニスに舌を這わせた。熱くねっとりと絡み付く舌の愛撫に、博己は満足そうに深く息を吐き出した。
「もういい、」
薫は愛しそうに博己のぺニスを口内で愛撫していたが、博己の冷たい制止で名残惜しげに唇を離した。博己のぺニスは固く立ち上がり、薫の唾液で濡れそぼっていた。
「早くしろよ、」
言われるままに、薫は博己の腰に股がって、ぺニスを手で支えながらアナルに宛がった。締まりの悪い穴からはとろりと、博己の精子を殺すための液体が流れ落ちる。博己は無感動に、その卑猥な光景を眺めた。
薫は博己の肩に手を添えて、ゆっくりと腰を落としていった。博己の亀頭が薫のアナルに飲み込まれていく。
「あ、あ、……ッ」
薫は背中を仰け反らして、喘いだ。博己を拒否する腟から、鋭く冷たい刃が心臓を刺しにくる。額からは脂汗が吹き出して、耐え難い苦痛と快楽に顔を歪めた。それでも、薫は博己を受け入れようと震えながら、腰を落としていく。熱く熟れて蠢く肉壁に、博己は小さく呻きながら、身を捩って喘ぐ薫を眺める。内股を痙攣させて動きを止めたオメガに焦れたように、博己は下から腰を打ち付けた。
「あ、ああーーーッ」
博己は、衝撃に仰け反って崩れ落ちそうな肢体を支えた。細身の腰を掴んで博己は薫の奥底の子宮を抉るように突き上げた。
「ひ、あ、あ、あ……」
薫は懸命に腰を捩らせて、博己は悪戯に腰を打ち付ける。ぐちゅぐちゅと薬液と愛液が混ざり合い、膣から粘液が止めどなく溢れて室内に卑猥な音が響いて反響する。
そうして、薫のうなじから、ふわりと甘い香りが放たれた。博己は淫乱な薫の姿に虚無感を募らせながらも、瞳には赤い光が差し込んで、獣の衝動を尖らせていった。
世の全てのアルファとオメガが「運命の番」に巡り会えるわけではない。それは「奇跡」と呼ぶに相応しい程には、稀な出会いと呼べるだろう。
それは、長い歴史の上では、甘く美しい「運命」として語られてきた。
毒々しい赤い照明が灯る地下室が、博己と薫の逢い引きに使われる舞台であった。
窓もなく湿気が充満した部屋は、陰鬱として、かび臭い。
博己は、地下室に招き入れた薫の姿に小さく眉を曇らせた。雨に濡れたパーカーを着込み、背中を丸めている男は、酷く辛気臭く、如何にも被虐者らしい惨めさがあった。博己は、ベッドの前で硬直している薫に、顎で指示をした。けれど、薫の反応は鈍い。博己が苛立ちの色を匂わせた瞬間、薫は、おずおずと上着のポケットから小さな筒状のモノを取り出した。
博己は片眉を上げた。
「……あの、殺精子剤、です、」
薫の言葉に、博己はきつく眉を歪めた。その仕草一つに薫はびくりと肩を揺らした。アフターピルの入手経路を断たれた薫は、博己に別の避妊方法の了承を得ようとした。けれど、神崎家の事情など、博己が推し測るはずもない。博己に避妊の協力などを求めるのは、やはり煩わしく思われたに違いなく、薫は怯えたように言葉を震わせた。
「……やっぱり、」
薫は前言を撤回するように、殺精子剤の容器をポケットに戻して俯いた。
「自分で入れてみろよ」
けれど、博己は鼻で笑うように薫に言いつけた。薫が窺うように上目遣いで博己を見上げれば、博己は嘲笑を浮かべている。薫は怯えたように頷いて、震えるような手つきで衣服を脱ぎ去っていく。
博己は麗しい顔に似つかわしくない陰鬱な笑みを浮かべながら、判然としない屈辱感に堪えていた。
博己は薫を伴侶にするつもりはない。それでも、博己は薫は自分との間に子を宿すかどうかは、薫に選択の余地を残していた。隙など有る筈もない結城博己にとって、それは、彼自身にも認識できない程の、ほんの一握りの薫との未来への可能性であった。
そして、愚かな薫は、博己の子を孕むつもりはないのだと、博己に避妊薬を突きつけてしまった。
絶対的な支配者である博己の痛みなど、従属者の薫には知りようもない。衣服を全て脱ぎ去り、黒い首輪だけを身に付けた憐れなオメガは、ベッドに四つん這いになって頭を下げた。物覚えの悪い駄犬らしく、臀部や内腿には躾痕が幾つも残る。薫は、少し恥じらいながらも、自らのアナルに小さな白い錠剤を押し込んでいく。薫の体内の熱で溶け出す薬は、しゅわゅわと発泡しながら液体となる。
「……ん、……ひ、……」
薫は自分の指を咥え込んだまま、悩ましげに身を捩った。その光景は、自慰行為に耽るような卑猥さで、発情した雌犬のようだった。淫乱なオメガの醜態に、冷徹なアルファは加虐欲を煽られる。
「あ、い、いや、」
博己は枕元に転がる筒状の容器から、丸い薬剤を取り出すと、薫の濡れた穴にゆっくりと差し込んでいった。博己は薫の熱い体内で個体が溶け出していく感触を指先で愉しみながら、喉の奥で小さく笑った。
「たくさん入れた方が効果あるんじゃないのか?」
「……あ、……」
一錠で十分な効果があったが、博己は愉快な遊びを思い付いたかのように五個も六個も挿入していく。しゅわしゅわと音を立てるように熱を持って溶けていく粘液は、博己の指が抜けると、ひくつく穴から溢れてシーツを汚した。
博己はベッドに腰かけて、着ていたズボンの前を開らき、勃ち上がりかけたぺニスを引き出した。背後の薫に目配せすれば、薫は四つん這いのまま、博己の膝に手を添えて、媚びるように博己を見上げながらぺニスに舌を這わせた。熱くねっとりと絡み付く舌の愛撫に、博己は満足そうに深く息を吐き出した。
「もういい、」
薫は愛しそうに博己のぺニスを口内で愛撫していたが、博己の冷たい制止で名残惜しげに唇を離した。博己のぺニスは固く立ち上がり、薫の唾液で濡れそぼっていた。
「早くしろよ、」
言われるままに、薫は博己の腰に股がって、ぺニスを手で支えながらアナルに宛がった。締まりの悪い穴からはとろりと、博己の精子を殺すための液体が流れ落ちる。博己は無感動に、その卑猥な光景を眺めた。
薫は博己の肩に手を添えて、ゆっくりと腰を落としていった。博己の亀頭が薫のアナルに飲み込まれていく。
「あ、あ、……ッ」
薫は背中を仰け反らして、喘いだ。博己を拒否する腟から、鋭く冷たい刃が心臓を刺しにくる。額からは脂汗が吹き出して、耐え難い苦痛と快楽に顔を歪めた。それでも、薫は博己を受け入れようと震えながら、腰を落としていく。熱く熟れて蠢く肉壁に、博己は小さく呻きながら、身を捩って喘ぐ薫を眺める。内股を痙攣させて動きを止めたオメガに焦れたように、博己は下から腰を打ち付けた。
「あ、ああーーーッ」
博己は、衝撃に仰け反って崩れ落ちそうな肢体を支えた。細身の腰を掴んで博己は薫の奥底の子宮を抉るように突き上げた。
「ひ、あ、あ、あ……」
薫は懸命に腰を捩らせて、博己は悪戯に腰を打ち付ける。ぐちゅぐちゅと薬液と愛液が混ざり合い、膣から粘液が止めどなく溢れて室内に卑猥な音が響いて反響する。
そうして、薫のうなじから、ふわりと甘い香りが放たれた。博己は淫乱な薫の姿に虚無感を募らせながらも、瞳には赤い光が差し込んで、獣の衝動を尖らせていった。
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